(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第8話
鳥山明 作
ムラカミ セイジ 編
これはドラゴンボールZの、もう一つの未来で起こった物語である。
ひび割れた大地を低空で飛行するグレートサイヤマン。獲物を狩る猟犬のように駆けていく。その動きに無駄はなく、その顔に表情はない。
「絶対的正義とは非情に徹しなくてはならない。どんな卑劣な悪に対しても、手段を選ばず毅然と立ち向かわねばならないからだ」
グレートサイヤマンは独り言を呟いていた。一見人間のようで、人造人間らしくはない。それは余計な人間の真似事でしかなかったが。
先ほど敵の一人、ジュドーを倒した時にも、彼は自分の思考回路に響き渡るように、無表情のままで同じ言葉を反覆していた。彼にとっては、『正義を貫き通し、悪を滅ぼす事』が開発者ブルマの与えた最大の目的、そして存在意義だった。ただ、その目的を遂行するために『非情』であり続ける道を選択したのは、他でもない彼自身、人工知能を持つグレートサイヤマンの意志によるものだ。
カプセルコーポレーションの優秀な科学者ブルマとはいえ、強大な力を持つ人造人間のコントロールをたった一人でやるのは、あまりに危険性が高過ぎた。ドクターゲロの人造人間17号、18号のような暴走の可能性も否定はできない。
そこで彼女がグレートサイヤマンの確固たる理性として与えたのが、正義のヒーローとしての人格である。本来ならば外見のモデルとした孫悟飯の人格モデルをそっくりそのまま移したかったが、ドクターゲロや彼女の開発した人工知能では、そこまでの結果に至るのは難しかった。試行錯誤を繰り返し、苦難の末行き着いたのが目的意識の単純化だ。たまたま息子トランクスが幼少時代好んで観ていたアニメの変身ヒーローがこれに当てはまったため、ブルマは孫悟飯の人格に架空のヒーローの思考パターンを当てはめてみた。彼自身が絶対的正義のヒーローであるという自覚のため、戦闘服もそのモデルとなったヒーローを参考にさせてもらった。
そうして形成した擬似人格が、現在実戦投入しているグレートサイヤマンだ。主要人格モデルとなった孫悟飯、彼の隠し持っていた凶暴なサイヤ人の本能を刷り込まれているためか、またはドクターゲロの人造人間が備えていたあの冷酷さか、何にせよブルマの生み出したグレートサイヤマンは、彼女の想像を遥かに超える。悪を滅ぼす『正義の死神』として。
グレートサイヤマンはヘルメットに内蔵されたスカウターで、残りの敵の位置を探り当てた。同じくヘルメットに内蔵されているドラゴンレーダー(ドラゴンボールに反応する探索用のレーダー)も、敵の方角を指し示している。連中の宇宙船が着陸している辺りだ。それと、一つだけその座標から外れているドラゴンボール(デンデが所持しており、今はトランクスと共にある最後の一つ)が目についた。どうやらまだ敵の手元に無いドラゴンボールはコレのようだ、とグレートサイヤマンは一人で頷いていた。
高速で飛行していたグレートサイヤマンは、ちょうどドラゴンボールの位置2カ所の分岐点となる位置で立ち止まる。人工知能の思考で成功率を計算していると、もうその時には小さな戦闘力を持つ一軍の接近を察知していた。先ほど始末したジュドーの遺体を探しに来たか、残るドラゴンボールを探しているのか。それが何にしても、向かってくる軍団はグレートサイヤマンにとって目障りに他ならない。
(まぁこの程度の小者ならどうでもいいが、悪はこのオレの手で一人残らず根絶やしにしなくては、な)
グレートサイヤマンはそちらの方をちらりと見るなり、敵を狙って追跡する(正確には狙いを定めた戦闘力に反応する)小さなエネルギー弾『ビクトリーミサイル』を、さっと突き出した二本指(人差し指と中指)から数発連射。目映い光弾が空を裂いて飛んでいく。
グレートサイヤマンはヘルメット内蔵の高性能スカウターで、敵の細かい位置をサーチしてエネルギー弾を操作する。それは地球を守ったZ戦士の一人、ヤムチャの必殺技の一つ『操気弾』を参考にして内蔵された武器だ。
エネルギー弾に直撃した敵の反応が、一つ、また一つ、とレーダーから消えていく。グレートサイヤマンはそれらを確認して、ニヤリと笑みを浮かべた。宇宙を荒らす悪を倒していく。絶対正義として創造された人造人間グレートサイヤマン、彼にとってそれは唯一無二の喜びだった。
ジュドー回収に駆り出されていたコルド精鋭隊傘下の実戦部隊(奴隷の中では特に戦闘力の高い、強化兵士で編成されている部隊)は、ようやく発見したジュドーの遺体を目の前に言葉を失った。
「……!?」
今ではフリーザ以上の戦闘力を持つコルド精鋭隊、その一人がボロボロになるまで痛めつけられ、挙げ句は首から上を奪われ、虐殺されている。それはこの数年を凶悪なジュドーと共にした彼らにとって、信じられない事実だった。皆一様に動揺を隠せずにいる。
「は、はやいところジュドー様を運んで、こんなトコからはズラかろうぜ。はち合わせでもしたら、オレ達なんざ一瞬で殺されちまうさ」
奴隷のうちの一人(小柄でトカゲのような頭の男)が悲鳴のように甲高い声で早口に叫ぶ。他の者達も頷いてせっせとジュドーの遺体移送に動き出した。だが部隊のリーダー格、スカウターを一人だけ装備した男(大柄で牛のような頭)だけは動かずにいた。
「まずはジーク様に報告だ。こりゃただ者じゃねぇぞ……」
ぶつぶつと呟くリーダー格の男。スカウターに戦闘力の反応こそ無いが、ぼんやりと嫌な予感がする。音も発てず、自分達に死が忍び寄っているようだ。
ふと出現したスカウターの反応、何かが迫って来ている。リーダー格の男が空中に目を向けると、いくつかのエネルギー弾が確かに自分達に向けて迫っていた。なんとか視認できたそれは、過去に見たことのない凄まじいスピードだった。
「貴様ら、すぐに散開しろ!」
リーダー格の男が叫ぶ。それに反応して、ジュドーの巨体を苦労して担いでいた仲間達が、迷わずかつての主人の遺体を放り捨てた。命令通りにすぐさまバラバラに飛び、エネルギー弾を回避しようとしている。
的確な指示、全体の迅速な動き、幾千の戦闘経験は彼らの身救ってくれる……はずだった。
「何!?」
一人、また一人とエネルギー弾に追い回されて、最後は直撃し、粉々に吹き飛んでいった。リーダー格の男は素早く動きながら、そうして仲間が消し飛ぶのを見ているしかない。身震いするような冷たい恐怖が込み上げてくる。
リーダー格の男は、コルド精鋭隊と共に宇宙を戦い抜いてきただけに、それなりの戦闘力と体格を持ち合わせていた。打たれ強さにも多少は自信がある。だが今はその自信も実力も完全に喪失していた。必死に逃げ惑うリーダー格の男は、エネルギー弾がついに自分に迫ってきた瞬間、全く無意味とわかっていながらも反射的に防御を構えていた。エネルギー弾は彼の体を一瞬のうちに貫いて爆散。こうして実戦部隊は、グレートサイヤマンがエネルギー弾を発射してからほんの10秒足らずで全滅していった。
マーシャルからの情報でドラゴンボールを手に入れた隊長ジークと女戦士ポエラは一時宇宙船に帰還していた。
コルド精鋭隊の宇宙船内部には、既に6つまでのドラゴンボールが集められている。残るはあと一つ。それらを目の前にして、特別豪奢なイスに豪胆な態度でどっしりと座る隊長ジーク。ようやく目的を遂げるのは目の前だという時に、彼はご機嫌斜めだった。
「ジュドーめ、死にやがったな」
少し前にスカウターから突然ジュドーの反応が消えて、ジークはすぐに彼の死を悟った。耳元から取り外したスカウターを力任せに床に叩きつけて破壊する。
(相手はベジータの息子、あのスーパーサイヤ人か。ジュドーの野郎、抜け駆けなんざバカな真似を)
ジュドーに対しての仲間意識は一切ない。仮に刃向かってきても、ジークと張り合うだけの力は到底持ち合わせていないと見下していた。精鋭隊の1人として実力はあったが、完全に服従させている相手に興味はなかった。
苛立ちの原因は手下ごときが自分に黙って勝手に抜け駆けし、その結果、精鋭隊の1人でありながらたった1人のサイヤ人に敗れた事だった。選び抜いた猛者を鍛え上げ、力で支配していたジークのプライドが許さない。
「トランクスとかいう名だったか。面白いヤツだ」
ジュドーを始末するだけの実力、それはさすがのジークにも想定外だった。
「あの内から湧き上がる力は、感じるところがあったがな」
ジークはハンディとしてフルパワーこそ使わなかったが、トランクスと手合わせした時の新鮮な感触を思い起こした。未熟だが確かな潜在能力、そして異常なまでに突発的な破壊力、ジークは忘れかけていた緊張感に心躍った。自分と同じ無限の可能性、強大なエネルギー、長年求めていた好敵手だ。真の力がどこまでのものか、ジークの好奇心を掻き立てる。
「あんなもんじゃねぇはずだぜ。銀河を破壊し尽くした伝説のスーパーサイヤ人は」
遥か昔、無敵の超戦士が存在したという。それが伝説のスーパーサイヤ人。再来してフリーザとコルドを抹殺したと知った時、一度は戦いたいと切望していた。トランクスは歳こそ若いが、それでも構わない。狙っていたスーパーサイヤ人とようやく出会えたのだ。ジークにとってこれ以上の獲物は記憶にない。
「そそられるぜぇ、かわい子ちゃんよぉ」
呟いたジークは帰還したばかりだというのに、すぐにでも再び出撃しようと立ち上がった。落ち着かない様子でヅカヅカと歩くジーク、そこで彼の様子を見ていたマーシャルが制止する。
「何処へ行かれるおつもりか、ジーク」
睨みつけるジークとは目を逸らし、マーシャルは緊張気味に打診した。
「どうやらあのサイヤ人以外にも妙なヤツが暗躍している模様。いらぬ横槍が入る前にそちらを片付けては如何か?」
「? どういうことだ?」
ジークはマーシャルと向き合うと高圧的に相手をした。こういう時、マーシャルとはジークに面白い事を言ってくるヤツだ。
「ジュドーの反応が消えた時、スカウターが一瞬だけ算出した敵の戦闘力の数値で戦況はだいたい予想できますが、あのサイヤ人の追撃にしてはどうもおかしな動きでした。これはもう1人敵がいると考えて間違いないかと」
「つまり、トランクスのヤツに強力な手下がいたとでも?」
「あるいは、トランクスを従えているさらに強大な存在だという可能性も……」
ジークは納得出来ない様子だったが、そこで先に反応を示したのはその場にいたもう1人の手下、女戦士ポエラだった。
「面白そうじゃないか! ジュドーのノウタリンにトドメをさしたのがソイツだとしたら、あのサイヤ人の坊やよりアタシは楽しめそうだよ」
ポエラの様子を見て多少興味を抱いたジークは、不満そうに舌打ちしながらも内心ではその新たな敵に狙いを定めていた。
(お楽しみは、まあ後でも良かろう。もし本当にソイツがジュドーを葬り去った野郎なら、このオレが試してやるぜ)
「マーシャル、ポエラ、出るぞ!」
2人の超戦士を連れて、ジークは巨大な宇宙船を飛び出していった。闘争を求める血が彼らをさらなる強者へと導くのだった。
物語は激闘のクライマックスへ。
(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第8話