還暦夫婦のバイクライフ 58

ジニー&リン、自分の年齢を痛感する

 ジニーは夫、リンは妻の、共に還暦を過ぎた夫婦である。
 8月半ばも過ぎたのに、一向に暑さが和らぐ気配がない。危険を感じてバイクに乗るのを控えていた夫婦だが、いつまでも大人しく控えているはずも無かった。
「ジニー、今度の休みにモネの庭に行ってみない?今年一回も行っていないし」
「そうやな。お盆も過ぎたし、少しは涼しくなったかな。ところで真夏に花咲いているかな?」
「行けば分かる」
「そりゃそうだ。じゃあ、行ってみるか」
ということで、8月23日は北川村のモネの庭に行くこととなった。
 8月23日、ジニーは朝5時30分に起床した。台所に行くとすでにリンが起きていて、洗濯物をこれから干すところだった。
「お早うジニー」
「お早うリンさん。6時半には出発したい」
「わかった」
ジニーはお湯を沸かしてコーヒーを淹れる。洗濯物を干し終わったリンと二人で、淹れたばかりのコーヒーを飲む。
「さて、準備しよう」
二人は席を立ち、支度を始めた。真夏用の服を着て、バッグを持って外に出る。車庫からバイクを引っ張り出して、バッグを取り付けたりヘルメットを被ってインカムのスイッチを入れて通話を確認する。
「じゃあ、出るよ」
「ジニーガソリンは?」
「空港通りの24h開いてるスタンドに寄ります」
「了解」
6時45分、予定より少し遅れて家を出発する。スタンドに寄って給油を済ませ、環状線経由でR33に入り、三坂方面に向けて南下する。すでに車が結構走っていて、車列が出来ていた。決して早くはない車列の後ろに付いて、三坂を駆け上がってゆく。峠を越えて久万高原町の街並みへ駆け下る。街を通過して美川へと走ってゆく間に遅い車が左右に抜けていなくなり、車列のペースが上がってゆく。
「リンさん、いいペースになってきた」
「うん。ジニー次はどこに止まる?」
「日高村の駅。一気に走って大丈夫?」
「平気。どんどん行くよ」
「へい」
早くなったり遅くなったり、長くなったり短くなったりする車列と共に先へ進む。美川道の駅を通り過ぎ、さらにカルストに向かうR440の分岐が近づいてきた。
「みんな曲がれみんな曲がれみんなまがれ~」
ジニーが呪文を唱える。それが効いたのか、前を走っていた数台の車がみんなカルスト方面に曲がっていった。
「ほら、どうだ!」
「ははは、本当にいなくなったねえ」
前走車が居なくなり、二人のペースが上がる。越知町、佐川町を駆け抜け、日高村の村の駅に到着した。
「着いた。何時?」
「8時45分。丁度2時間だね。のんびり走ったから」
「そうだな。さあ、朝ごはんだ」
二人はいつもの店に入店して、モーニングを注文する。
「リンさん、今日は珍しく待ちなしで座れたね。いつも混んでいるのに」
「暑いからお年寄が出てきていないかもね」
「あ~そう言うのはあるな」
モーニングを食べて、早々に席を立つ。他人ごとではなく、暑くなる前に少しでも前に進んでおきたい。売店で数点お土産を買って、バイクに戻る。出発準備を手早く済ませ、二人は村の駅を出発した。R33を少し走り、バイパスに乗る。しばらく走って伊野I.Cから高知道に乗る。高知I.Cまで走り、そこで高知東部自動車道に乗り換え、終点の芸西西I.Cまで一気に走る。
「空港I.CからのいちI.Cまでつながったおかげで、随分と走りやすくなったな。時間短縮にもなったし」
「そうね。後もう少し頑張って安芸市まで繋がってほしいよねえ。そうなったら室戸岬も近くなるのに」
終点で降りた二人は、一般道をゆっくりと流れる車列の一部となる。芸西村から安芸市を通過して、海沿いに走ってゆく。奈半利町まで走ってR493に乗り換え、北川村モネの庭に到着した。駐車場が改修されていて、いつも前にバイクを止めていた水場が無くなり、駐車スペースになっていた。
「日蔭が無いなあ。仕方ない」
二人は隅の方にバイクを止める。シートが熱くならないように上着を脱いでかぶせた。
「ジニー今11時過ぎだから、先に昼ご飯を済ませよう。今ならまだ空いていると思う」
「そうだな、そうしよう」
 二人はカフェに向かった。思った通り空いていて、すぐに座れた。そこでそれぞれ新メニューを注文する。しばらく待って、料理がやって来た。ペペロンチーノと冷やしうどんだ。二人はそれぞれが注文した料理を堪能した。飲み物もいただいてから席を立つ。入り口にはすでに空席待ちの人たちが何組も待っていた。
「リンさん、早く来て正解だったね」
「言った通りね」
二人は駐車場を横切り、庭の入り口で入場料を支払う。
「あ、少し値上がりしてる」
「そうだっけ?」
「去年は800円だったような気がする」
「んー、良く覚えていないや」
券とパンフレットをバッグに仕舞い、水の庭に向かって坂を上る。水の庭には底まで見通せる池に睡蓮がある。どれも閉じることなくいっぱい咲いていた。
「暑い夏の最中でも花がいっぱい咲いてるね」
「夏の花は多いよ。今まで初夏にしか来ていなかったから、何か景色が違うね。睡蓮も勢いがあるし」
リンはそう言いながら写真を撮り続ける。それから日蔭のベンチに腰を下ろし、少し休憩する。あらかじめ買っていた水を飲んで、一息つく。
「暑いのは変わらないな。ボルディゲラの庭は石が白いから、さらに暑そうだ」
「ジニー行くよ」
二人は立ち上がり、涼しい木立を抜けて先に進む。
「リンさん、サボテンじゃなくて、何だっけこれ。去年でっかい花が咲いたやつ。すっかり枯れてる」
「ああ、やっぱり花が咲いた後は枯れちゃうんだ」
「そうみたい。ところでリンさん。青い蜂は見つかった?」
「ブルービーね。今の所見て無いよ」
「花アブは居るんだけどね」
二人は羽音が聞こえると注意して見るが、とうとう青い蜂を見ることはできなかった。
「あ!リンさん、タマムシが居る」
ジニーが木に止まったタマムシを見つけた。
「え~!きれい。写真を撮ろう」
リンがスマホを構える間もなく、タマムシは飛んで行ってしまった。
「あ~残念」
そこから少し歩き、来るといつも休憩する木陰のベンチに座り、しばらく休む。吹き抜ける風が心地よい。
「ジニー帰りはどっち回る?」
「どっちというと?」
「来た道を戻って高知に向けて帰るか、山越えして徳島方面に帰るか」
「ええ?徳島?リンさん体力は大丈夫?」
「平気だと思うよ。時間も早いし」
「そうだなあ」
ジニーは地図アプリを呼び出して、道のりを検討する。徳島の海岸線は思った以上に手強い。ナビで時間をチェックする。
「リンさん、徳島廻りだと、多分夜8時は過ぎるな。行ってみる?」
「行ってみよう」
「帰りは高速だな。二輪車定率割に申し込もう」
二人はスマホを操作して、定率割を申し込んだ。
 モネの庭を出た後、売店に戻りお土産を買う。ここに来るとリンは必ずゆずドロップを買う。目的を果たして、二人はバイクに戻る。お日様で熱くなったジャケットを羽織り、出発準備を整え、出発する。
 モネの庭を出発した二人は、R493を北上する。所々道が改修されていて、真新しい長いトンネルをくぐる。
「一応自動車道は作っているんだな」
部分的には改修が進んでいるが、相変わらずの山道だ。くねくね走る山間道を走ってゆくと、峠が見えてきた。四郎ヶ野峠だ。そこで二人はバイクを止め、休憩する。
「四国のみちの案内がある。これは・・・歩道か。昔の街道だな。関所跡もある」
ジニーが大きな案内板を見ながらリンと話す。
「四国のみちだからね。野根山街道だって。山道はきれいに整備されているようね」
「僕は歩いては無理だな」
「その腹ではね」
リンがジニーの腹をつつく。
「さて、行こう。遅くなる」
二人は再びバイクに乗って、峠を降りてゆく。道はさらにくねくねになり、ゆっくりと走ってふもとまで降りた。そこからR55に乗り換え、海岸沿いに徳島を目指す。
「ジニーどこかで休憩しよう。のどが渇いた」
「ああ、じゃあ、道の駅がその先にあったと思うから、そこに止まろう」
「わかった」
「ジニー、サーフィンしている人達がいっぱいいるねえ」
「今日は海が穏やかで波が無いなあ。あれではあまり面白く無さそう」
「そう?」
「うん。僕はやったこと無いけど、イメージとしては3mくらいの波がチューブになって、そこをくぐるように乗るのがサーフィンじゃない?」
「それの根拠は何?」
「ビッグウェンズデイ」
「ジニー、それは偏見だし、そもそも日本じゃそんな波は無理じゃないの?」
「そうか」
そんな話をしているうちに、道の駅東洋町が見えてきた。二人は駐車場にバイクを止める。
「ジニー、ここって海の駅にもなってるみたい」
「そうなん?それでみんな水着で歩いているのか。バイクの格好がなんだか浮いて見えるなあ」
「気にしない気にしない。売店覗いてみよう」
二人は店に行き、お土産を物色する。
「あ、リンさん。野根まんじゅうがある。一つ買って帰ろう」
「それは元祖?本家?」
「さあ?」
「あ、ミレーの超ビッグパックがある」
リンはミレーの大袋を手に取る。
「飲み物がいるな」
ジニーはゆずごこちを見つけて一本取る。それと麦茶も一つ取った。それらを会計して店を出る。木陰のベンチを見つけて座り、ゆずごこちを飲んだ。
「あ~しみる。乾いた体にしみこむようだ」
「一夜干しになりかかっていたね」
「うん。少し疲れた」
ジニーは目をつぶる。
 しばらく休憩した後、二人は腰を上げる。
「ジニー動こう。明るいうちに少しでも距離を詰めよう」
「そうだな」
二人はバイクに戻り、準備する。15時40分、道の駅を出発して再びR55を北上する。
「リンさん、スタンド見つけたら給油するよ」
「わかった」
どんどん北上して海部川を渡り、海陽町に入った。
「あ、見つけた。右側だけど止まるよ」
「おっけー」
右側にあるスタンドにバイクを乗り入れる。店員さんに二台まとめて給油してもらう。合わせてハイオク16.6L入った。
「よし!これで家まで走れる。行くよ」
二人はスタンドを出発して、再び走り始める。
「ジニー眠い。休憩できる?」
「ああ~この先に、道の駅日和佐がある」
「よろしく~」
のんびり走る車列に眠気を呼び出されて、リンは大あくびを始める。
「ね~む~い~ね~む~い~」
「リンさんあと5キロだ」
「わ~か~った~」
ジニーは後ろにいるリンを気にしながら走る。やがて道の駅日和佐が見えてきた。
「リンさん着いた」
二人はバイクを乗り入れる。
「あ~ここって、バイク置き場が使いにくいんよね」
「ちょっとね。リンさんそこの左側に寄せて止めて。僕が駐輪場に止めるから」
「わかった。よろしく」
リンは道の左にバイクを寄せて止める。ジニーは自分のバイクを駐輪場に止めてからリンのバイクに乗りかえ、ジニーのバイクの横に停める。
「レイアウトをもうちょっと考えてほしいなあ」
「まあでも、場所があるだけましだよ。駐輪場が無い道の駅って結構あるからね」
二人は屋根付きのベンチに座る。ジニーは思い出したように立ち上がり、自販機に行くとアイスココアと水を買ってきた。
「ちょっと甘いの飲んで、頭にエネルギーを入れよう」
ジニーはココアをリンとシェアした。
「甘いねえ」
そう言いながらリンもココアを飲む。その後水も飲み、ふうっと息をつく。
「水分がいくらでも入る。どんだけ日干しになってるんだ?」
「走っていると汗も蒸発するからな。さて、リンさん行くか。もう17時回ってるし」
「本当だ」
二人はバイクに戻り、準備をする。
「行くよ」
「どうぞ」
17時10分、道の駅日和佐を出発する。途中バイパスに乗ったりしながらひたすら北上する。那賀川を渡り、小松島市を通過する。
「ジニー徳島南部道の案内が出ていたけど、どうする?」
「今回はこのまま真っすぐ行って、徳島I.Cから乗る」
「了解」
R55は徳島市街に入り、車の流れが一気に悪くなった。次々に出てくる信号に引っかかり、ストップ&ゴーを繰り返す。吉野川を渡り、徳島I.Cに辿り着いた時には二人ともげっそりとなっていた。
 I.Cから徳島道に乗り、やっと快適に走り始める。
「ジニーやっぱり徳島南部道に乗ればよかったね」
「うん。大失敗だ。あんなに渋滞しているとはね」
「そんなこんなで私、ハラ減りました」
「この先に上板S.Aがあるから晩飯食べて帰ろう」
「そうだね。もうすぐ暗くなるし」
二人は少しペースを上げる。そこから5分ほどで、上板S.Aに到着した。駐輪場にバイクを止め、ヘルメットを脱ぐ。それからフードコートに向かう。
「さて、何食べよっかな」
フードコートの券売機の前で少し悩み、二人とも徳島ラーメンにした。席に座ってしばらく待つ。やがて番号を呼ばれて、取りに行く。
「ふ~ん、生卵が付いてる。どうするの?」
「リンさん、そのままトッピングじゃない?」
徳島ラーメンを食べたことがほぼ無い二人が悩みながら卵の殻を割ってラーメンの上に落とす。それからおもむろに食べ始まる。
「うん、まあ、旨いかな」
「少し濃いね」
二人はラーメンを食べて一息つく。
「さて、行くか」
二人はフードコートを出てバイクに戻った。外は陽が落ちて、暗くなっていた。
「19時15分か。暗くなるのが早くなったな」
「ジニー前走ってね。まぶしいから」
「この前光軸調整したけど、まだ高いか。そのうち調整し直そう」
出発準備が整い、S.Aを出発する。前の車列の最後尾に付いて、のんびり走ってゆく。吉野川沿いに西に走り、池田を通過し、川之江東JCTで高知道に乗り、さらに川之江JCTで松山道と合流する。三島川之江I.C、土居I.Cを通過する。
「ジニー入野で停まろう」
「わかった」
ジニーは現れた入野P.Aに進入する。リンも続く。駐輪場にバイクを止め、ヘルメットを脱ぐ。
「疲れたー」
二人はベンチに座り込む。
「ジニーやっぱり徳島廻りは手強いねえ。もうくたびれたよ」
「そうだなあ、室戸から徳島までが、とにかく単調だからなあ。ストップ&ゴーも多いし、本当くたびれたよ。老体には少々ハードかな」
ベンチに長々と伸びて、しばらく休憩する。時計を見ると、20時30分だ。くたびれた身体と心を世話しながらだらだらする。
「さてリンさん。帰ろう、後1時間だ」
「そうだね」
悲鳴を上げる膝や腰をさすりながら立ち上がる。バイクまでよたよたと歩く。
 準備も完了して、二人は走り始める。小松を通過し、桜三里のトンネルを何本も抜け、川内に出る。暗い夜道を前の車列の後ろに付きながら、走ってゆく。松山I.Cで高速を降り、そのまま外環状線に乗り換える。
「リンさん、余戸まで行くよ」
「おっけー」
R56まで走って外環状線から降りる。そこから右折してR56を市内に向けて走る。家に着いたのは、22時丁度だった。バイクを車庫に収めて荷物を外し、家に入る。
「お疲れ様」
「疲れたねえ。おお、久しぶりに500Km越えたな」
リンがスマホのアプリを確認する。ジニーが覗くと、走行距離520Kmになっていた。
「まあ、そうはいっても、1/3は高速だから」
「ジニー、その高速で風圧に負けてヘロヘロに疲れているのは、いったいだれ?」
ジニーは何も言わず、苦笑した。

還暦夫婦のバイクライフ 58

還暦夫婦のバイクライフ 58

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-09-10

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