SCARLET FANTASMA - 少女たちの綺羅月 -
過去に更新していた作品を再公開します。これを改良しつつ、再構築した作品を現在書いています。【当ページは更新しません】
目次
登場人物
Prologue
Part 1: 教室
Part 2: 屋上
Part 3: 校舎入口、帰り際
Part 4: 家の前
登場人物
儚無 皐月
Hakana Satsuki, "The Fragile Sunner", 『硝子の日輪』
時川高等女学校二年生の女性。少し栗色の黒髪をしている。ちょうど二年の春が始まったころから精神的に体調を崩し休学していた。夏に復学したが周りとの温度差や今後のことについていつ吐血してもおかしくないくらい悩んでいる。好きなものは学食の『学販専用!おばちゃんの特製スイートクレープ、ブルーベリー味』。
黒井 月菜子
Kuroi Runako, "The Black Moon", 『暗夜の満月』
ちょうど儚無が復学した夏に時川女学校に編入してきた転校生。明るい金髪に、特注の黒い制服を着ている。不思議な雰囲気をまとっており、一人ぼっち同士の儚無と自然に惹かれ合う関係になる。
東海林 岬
Shoji Misaki, "The Holy Promontory", 『讃美の聖尖』
宮本 ゆみ
Miyamoto Yumi, "The Bowing of Favored", 『特級の柔撓』
Prologue
……夏。
それは、一年で最も暑く、最も盛んで、そして、人間にとって、最も大切な季節。
冬という枯れ果てた白銀を終え、世界が色を取り戻す季節。
しかし、私の心は、くだんに晴れ晴れとはしていなかった。
私の今の心は、虚無である。色をつけれないのではなく、そもそも色をつける絵の具が、心という小さな空間にすら、ないのである。まさに、心は冬のまま、といった表しかたが、言い得て妙であろうか?
……周りは、そんな私の心など一つも知らず、がやがやと、ずいぶんに賑やかだ。一人だけ、世間に取り残された感覚というのは、これほどまでに寂しいものなのか。
しかし、ここで立ち止まって悶々としていても何も始まらない。私は、拒絶する心を無視して、無理やり右足を踏み出した。
Part 1: 教室
これは学習しておくように。重要ポイントだからな〜。タブレットにメモ残しとけ。
カツカツ、シュー、と先生が黒板に文字を書く音が、耳元を通り過ぎていく。
私は右手にスマホペンを持ったまま、頬杖をつきながら窓から外を見ていた。
窓から見えるグラウンドは、真夏の太陽を浴びて明茶色に照らされている。昔あった(ってお母さんが言ってた)校外の体育の授業はなくなり、今は冷房の効いた体育館でしか行われていないため生徒の姿は見えない。しかし、そこにはまるでたくさんの人がいるかのような、潜在的なエネルギーがあるように思えた。
キーンコーンカーンコーン……
ハッ、と気づく。腕時計を見ると既に課業の終了時刻になっていた。
「じゃ、終了! 黒板は消しといたから。礼もいらない、ちゃんと予習、復習! それじゃ」
髪を後ろでまとめた女性の先生が、右手をちょこんと上げながら教室を颯爽と出ていった。
途端に教室ががやつく。
「……はぁ〜。ようやく終わったわ。あのセンセ、授業分かりやすいけど、ちょっとだけガサツなのがな」
薄い茶髪の女子生徒が、スマホをいじりながらそう呟く。
「えっと、まあ、確かにそうだね。私もそう思う」
それに黒髪の少女が答える。
遠くで私のことをチラチラと伺ってくる女子生徒たちが見えた。私は居心地が悪くなってペンを置いてガタッと立ち上がって、逃げ去るように教室を後にする。
少しだけ、彼女たちの会話が聞こえた。
「……儚無、さん、かな? 久しぶりに登校したの見たね。どうして長く休んでたんだろう」
「なんだか体調不良とかって言ってたよ。でも、休学中だった時の単位とかどうするんだろうね。ここ、田舎のこの県でも、結構な進学校だし……」
Part 2: 屋上
屋上に上がると、真夏の晴天、空が輝いていた。
誰もいない屋上で、固いコンクリートを歩く、私のコツリコツリと響く音だけがこだました。
安全柵の手すりに両手をかけ、私は背伸びをするように空を仰いだ。
背中を伸ばして、大きく息を吸う。
「空気が……美味しい」
思わず一人で呟いていた。
夏の、空気が甘くなる、というのはまさにこのことである。冬は……まさに『寒天』である。寒い天空、それに味はない。一切ね。
空の色も真っ青だし、例の『シャリシャリちゃん』を思い出した。あれ、安いわりに美味しいんだよね。
キーンコーンカーンコーン……
……始業の合図だ。でも、半ばどうでもよかった。授業に遅れたって、私はもう、二度とは世間の足並みにはついていけない運命。なら、いっそ堂々とゆっくり行ってしまえ。むしろそちらのほうがハードボイルド的で格好いい。
もう一度、すぅ〜、と息を大きく吸う。
今度は、わたあめのような、ふわふわとした甘味を覚えた。
Part 3: 校舎入口、帰り際
夕暮れの帰り際。私はスマホでピッ、と校舎入口の下駄箱の鍵を開けているところだった。
中から革靴を取り出し履いていると、後ろから生徒たちの声がした。
……聞くに、今日の朝の教室で話していた、あの茶髪と黒髪の少女たちだろう。気になってすっと振り返ると、やはり彼女たちがいた。
「ゆみ、知ってる? なんかさ、2Aのグループリネットで、来週、この学校に転校生来るとかってさ、噂されてるんだよ」
茶髪の女子生徒が腕を組みながら言う。
「えぇぇ!? そうなの、全く知らなかったよ。私、普段あんまりリネット見ないから……。話す友達もいないからね。岬以外」
黒髪の少女は本当に驚いたように、両手を胸に当てて、そして照れ隠しのようにはにかんでいる。
「いやいや。見ないから、って言っても、グループリネットで通知来るでしょ? あんた、もしかして通知も消してるの?」
「あはは、実はそうなんだぁ。笑ってよ、もう! アニメのことしか見てないからね。いつもスマホで」
彼女たちは二人同士で苦笑いしながら、すっと私の前を通りすがろうとする。
その時、さっと茶髪の女子生徒が私の方を見てきた。
「あれ? あなた、教室で見かけたけれど、なんだか見ない顔で新鮮だったけれど、もしかして春から休学している、儚無さん?」
私は話しかけられると思ってなかったので、驚いて思わず一歩引いてしまった。
「え、ええ、まあ……。遅ればせながら、儚無 皐月です。改めて、って言っても、ほとんど話したこともないけれど」
「よろしく、儚無さん。私、東海林 岬(しょうじ みさき)でこっちが宮本ゆみ(みやもと ゆみ)ね。ついでに紹介させてもらうけど」
「儚無さん、こんにちは。岬から代わりにご紹介いただきました、宮本ゆみです。あんまり友達いないアニメ好きの根暗だけどよろしくね!」
ゆみさんは癖なのか、自己紹介をすると、掛けていた、黒縁のメガネをすっとちょっとだけ上にあげた。
「ご挨拶ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
私はペコリとお辞儀をする。
そう言うと、東海林さんはにっこり笑っていた。
「……礼儀正しくて、品行方正な方みたいでよかったわ。私たち、姿を見たことがなかったから、あなたのこと想像でしか考えたことなかったのよ。でも、とても印象のよさそうな方で、これなら仲良くやっていけそうだわ。こちらから話しかけておいて、あまり長い話はまだできないけれど、それじゃあね。月曜日、また会いましょう」
東海林さんはパッと小さく手を振る。続いて宮本さんは私以上にペコリとお辞儀をした。
……私は過ぎ去っていく彼女たちの背中を、しばらく眺めていた。
Part 4: 家の前
翌日。
今日は土曜日で休日。学校が休みだった私は、母と一緒に近所のスーパーに行こうと準備していた。
「お母さん、まだ〜?」
玄関先でスマホをいじりながら家の二階に叫ぶ。母はいつも支度が遅い。一般家庭あるあるな光景だろうが、毎回出かけるとなると最後に尾ひれがつく。そろそろながら、時間管理を学習してほしいものだ。
「皐月、もう先に乗ってていいよ〜。最後に戸締まり確認しなきゃ……車の鍵の開け方、分かるよね?」
「うん、いちおう。バッグ、漁っていいよね? ってか勝手に漁るよ〜」
そう言って、私はひとまず返事を待ったが、案の定返ってはこなかったので母のカバンを漁り、車の鍵を手に取る。
そして、車の閉じたドアを開けて、運転席からエンジンをふかそうとした、
「きゃ……キャアアアア!!」
その時だった。
「!? なにっ?」
私も思わず叫んで、その悲鳴が聞こえたほうに無意識で走った。
「や……やめてくださいッ……!! だれか……助けてッ……!!」
声は幼い子供……家の塀の先から姿を見せたその人は、小学四、五年くらいだろうか? 何者かに手を掴まれ、逃げ出せずにいる。
その、腕を掴む、人物は、
「女っ!?」
女だった。自分と同じ、高校生くらいだろうか、金髪の、背中まで伸ばした髪がよく目を引きつける。
何より、目の色が左右違う……いわゆるあれがオッドアイというモノだろうか?
その女は、左手で少女の腕をギリギリと掴み、右手の拳で、今にも少女を殴りつけようとしているではないか!!
「ダメッ!! やめてッ!!」
私はすぐに駆け寄った。自分が殴られてもいいから、身を挺して少女を庇った。
少女を抱きしめるように抱え込み、精一杯守った。
「……!!」
すると、その女の方から、殺気が、ふっと消えた。
見るとその女は、少女、ではなく地面のコンクリートを殴りつけたようだ。
(何がしたい……コイツは?)
私は、自分でも分かるくらい睨みを利かせた目でその女を凝視する。女は、俯いたまま、
「……ごめん、なさい」
そう言って、ぱっと振り返って走って行ってしまった。
大丈夫? こわくないよ、あのおばちゃんのところ行きな、と私の母に子供を預け、追いかけたが、私はあの女を見失ってしまった……。
SCARLET FANTASMA - 少女たちの綺羅月 -