仮面ライダー龍騎 〜第十四話〜
《第十四話:鎮魂火》
【登場人物】
・城戸 真司(二十四)……新米ジャーナリストで、少々抜けたところがあるお人好しの青年。ドラグレッダーと契約し、『龍騎』となる。
・秋山 蓮(二十四)……無愛想で口も態度も悪いが、内には確かな情を秘めている男。仮面ライダー『ナイト』に変身する。
・手塚 海之(二十四)……蓮の古くからの友人で、彼の良き理解者。仮面ライダー『ライア』となって龍騎・ナイトと共闘していたが、浅倉によって殺害される。
・須藤 雅史(二十八)……浅倉と因縁を持つ、警視庁の刑事。仮面ライダー『シザース』に変身する。
・北岡 秀一(三十)……黒を白にすると言わしめる、自称スーパー弁護士。仮面ライダー『ゾルダ』に変身する。
・浅倉 威(二十五)……自らの衝動に任せて通行人を次々と殺傷した凶悪犯罪者。神崎士郎の導きにより、収監中の拘置所から脱獄。『王蛇』となる。
・神崎 士郎(二十五)……優衣の兄で、ライダーバトルを仕掛けた張本人。鏡の中からライダー達を闘いへと誘う、謎多き男。
【あらすじ】
復讐の為に己が手を汚し続ける須藤を止める為、真司は新しい力に手を伸ばした。果たして復讐の怨嗟は止まるのか。止まった後に、残るものは何か。
【二十】
〜五月八日・午後二時三十分"北岡邸前"〜
真司と蓮がベノスネーカーの気配を追って辿り着いたのは、弁護士・北岡秀一邸の前だった。
「なるほど……王蛇がゾルダの根城を直接襲撃したという事か。浅倉がやりそうなことだ。」
「クールぶってないで、さっさと行こうぜ。」
「……待て。」
はやる真司を制して、蓮が周囲を警戒し始めた。初めはどういう事かと思ったが、真司も直ぐにその行動の意味を理解した。
「蓮、あいつが……神崎士郎がいる。」
「ああ。……姿を見せたらどうだ。」
「俺なら此処にいるぞ。」
不意に、二人の背後から声がした。
「ふん……どうやらバトルマスター様は、他人の後ろをとるのが好きらしい。」
「……何の用だよ、神崎。」
後ろを振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべた神崎士郎が立っていた。
「お前達に、新しい力をやろう。その力をどう使うか……それはお前達次第だ。」
「力って」
真司の問いを聞くことなく、神崎は二人にカードを投げ渡した。それは大きな片翼が描かれた、赤と青のカードだった。
「おい、これってなんだよ。」
訝しげに真司が今一度問いかけると、神崎は珍しく険しい面持ちで答えた。
「優衣に危険が迫っている。あいつが信頼しているお前達に、そのカードを預けよう。それを使えば、龍騎とナイトは更に強いライダーとなるだろう。」
「危険、とは?」
蓮が、眉間に皺を寄せながらそう尋ねた。
「……戦え。そうすれば、いずれ分かる。」
その言葉が放たれた瞬間、辺りを強い光が包んだ。そしてその光が止んだとき、やはり神崎士郎はその姿を消していた。
「言いたい事だけ言いやがって……なぁ、蓮?」
真司が蓮の方を向くと、彼は神崎から手渡されたカードをじっと見つめていた。
「おい、どうしたんだよ。」
「奴は更に強くなれると……そう言ったな。」
「え、あぁ。」
「お前は、このカードを使うのか。」
「俺? いや、俺は……」
〜〜なら戦いますか。それで自分を突き通せるなら、私は喜んでデッキを取りますよ。〜〜
脳裏に、ふと須藤の言葉がよぎった。
「……使う、と思う。」
真司は、懐からデッキを取り出した。
「須藤さんは、覚悟を決めてた。俺がそれに向き合うには、ちゃんと戦わなきゃ……戦って止められるだけの力が、きっと俺には必要なんだ。」
「……そうか。」
真司と蓮は、北岡邸の玄関口へその身体を向けた。
「ミラーワールドでは、もう北岡と浅倉は戦っている。きっと須藤も……」
「あぁ、分かってる。」
二人はデッキを握りしめると、走り出しながら叫んだ。
「「変身!!」」
〜現在"北岡邸内・ミラーワールド"〜
「なぜ……その男を庇うんです。」
龍騎サバイブの背後でうずくまる王蛇を恨みがましく見ながら、シザースが問いた。
「あんたの手をこれ以上汚したくないから……ってのもあるけど。」
「けど?」
「やっぱり人が人を殺していい理由なんて……何処にも無いと思うから。」
「あなたは……やはり甘い。」
シザースが、バイザーにカードをセットした。
<FINAL VENT>
「今度は殺します。」
空中で勢いよく回転したシザースの体当たりが、龍騎サバイブを襲った。
「もう、あの時の俺じゃない!」
<SWORD VENT>
龍騎サバイブのバイザー『ドラグバイザーツヴァイ』から、炎を纏った剣が出現した。それはシザースの身体を難なく受け止めると、そのまま後方に弾き飛ばした。
「なっ……!?」
驚きながら受け身を取るシザースを、龍騎サバイブの追撃が襲う。
<ADVENT>
ドラグレッダーが姿を変えた新たな龍のモンスター『ドラグランザー』が、シザースに向けて火球を吐き出した。それは彼の足元を囲うように地面に着弾すると、大きな火柱でその動きを封じてみせた。
「……あくまで、殺すつもりは無いということですか。」
「俺は、殺す為にライダーの力を使うんじゃない。救う為にこの力を使う。……本当は、あんたもそうしたいんじゃないのか。」
「……!!」
二人の戦士が向き合ったその時、シザースの脳裏にまるで走馬灯のように過去の情景が浮かびあがった。炎が収束していく。
【二十一】
〜某日・昼"警視庁・捜査一課オフィス内"〜
刑事にとって、最も幸せな時とは何か。それは、仕事が何も無い暇な昼時である。須藤はそんな暇を噛みしめながら、自分のデスクでコーヒーを啜っていた。
「暇そうっすね、須藤さん。」
「おぉ、加賀か。」
部下の加賀がコーヒーを片手に、須藤の隣に立った。
「あーあ、ホント退屈っすねぇ。なんか派手な事件とか起きねぇかなぁ。」
「暇って事は平和って事だ。もっと喜んでおけ。」
「クールっすねぇ、須藤さんは。」
日差しが眩しい。須藤は窓のブラインドを閉じようと立ちながら、加賀に声をかけた。
「そんなこと言って……お前、何の為に刑事になったんだ?」
「そりゃあ……悪い奴とっ捕まえて、みんなの平和を守りたいから。アレっす、正義の為っすよ。」
笑いながらそう答える加賀を見ながら、須藤は刑事になろうと決めた日の事を思い出していた。
「須藤さんは、何の為に刑事に? その歳で警部とか、憧れちゃいますよ。よっぽど才能があったんすねぇ。」
「……秘密だ。」
ブラインドを閉じ、須藤はそう答えた。加賀に自分の事を話すのが、とても照れくさかった。
*
*
*
〜現在"北岡邸内・ミラーワールド"〜
「……あの時、私は話しておくべきだった。それが後悔になって……こんな所まで、ズルズルと来てしまった。」
「須藤さん?」
シザースは武器を下ろすと、疲れた身体を引き摺りながら歩き出した。辺りを覆っていた炎は、すっかり鎮まっていた。
「浅倉の事は諦めます……どのみち、もう逃げたようですし。」
「え……あ。」
龍騎が慌てて振り返ってみると、そこに居たはずの王蛇の姿は無かった。どうやら隙をみて逃げおおせたらしい。
「えっと……ごめん。でも、これからも続けるってんなら……」
「もう、手を引きますよ。大人しく自首します……ケジメとしてね。」
「……あぁ。」
そう言って、シザースはミラーワールドを後にした。何かから解放されたようなその後ろ姿を、龍騎はしっかりと目に焼き付けた。
「なぁ、龍騎……だっけ。なんで、あんなお人好しがライダーやってんの?」
二人の様子を側から見ていたゾルダが、隣に立ったナイトに問いかけた。
「さぁな……しかし、ああいうお人好しが一人くらい居た方が、俺達には良いのかもしれない。」
「……そんなもんかね。」
そうして、ゾルダとナイトもその場を去った。一人立ち尽くしていた龍騎も、少し後にミラーワールドを出たのだった。
〜午後三時"警視庁本庁前"〜
『あ、出てきました! 連続行方不明事件の犯人として出頭してきた須藤刑事です!! 今、世間を賑わせてきた事件の犯人が我々の前にその姿を見せました!!』
リポーターの忙しない中継と群衆のざわめきが、須藤の耳を刺した。両手は手錠で拘束され、彼は検察へと向かうべくパトカーに乗ろうとしていた。
「……これも報いですね。」
両脇の刑事に先導されながら、前へと進んでいく。苦しい自責の日々が終わり、須藤は贖罪の日々へと向かおうとしていた。
(真司くん……加賀。私は再びあの頃の自分を取り戻してみせる。あなた達の想いに、応える為に。)
ドスッ
「え」
腹に走る、鈍い痛み。それが突き立てられたナイフによる痛みである事を、須藤はすぐに理解した。
「息子の……仇だ。」
そう言って須藤を刺したその男の顔は、憎しみで強く歪んでいた。
「……遅すぎた、か。」
それが須藤が手にかけた内の誰の仇なのかは分からない。しかし須藤は、妙に清々しい気持ちで地面に倒れ込んだ。
*
*
*
須藤が目を開けると、そこは渋谷の駅前だった。
(ここは……あの時の……。)
「す……ど……さ……」
「……加賀!」
気が付くと、須藤は首から血を流した加賀を抱き抱えていた。
「加賀……悪かった。俺は、結局……何も果たせなかった。」
満身創痍であろう加賀が、何かを言おうと口を動かした。
「どうした加賀……なんて、言おうとしてるんだ。」
「須藤さんは……どうして、刑事になったんですか。」
「……」
須藤は、加賀の身体をそっと倒してその隣に仰向けになった。視界が、だんだんと白く染まっていく。
「単純な話さ。俺は……困ってる誰かを助けたくて刑事になった。……ただ、それだけだったのにな。」
今の言葉は、加賀に届いただろうか。須藤は隣で眠る相棒に想いを馳せながら、ゆっくりと目を閉じた。
—— 仮面ライダーシザース死亡。残るライダーは、あと八人。——
〜続〜
仮面ライダー龍騎 〜第十四話〜