無闇
理容室は血を流さなくなった。
なのに、
看板にはまだその名残りが残っている。
白い部分が包帯を意味するなんて、つい最近知った。
通りから覗き込めば店内に一人、襟足を剃られるお客様。
俯いていて、その表情は見えない。
けれど、仕事に励む理容師が笑顔でいる。
真っ新な制服に身を包み、
剃った後の刃をタオルで丁寧に拭き取る。
その一連の所作は、緊張感と安心感の両方を感じさせる。
故意でも過失でも、その肌を傷付けてはいけない。
かつ、その仕上がりは美しくなければいけない。
「皮膚に接着する切れ刃」
彼らはだから、国を統べる王の耳にも触れることができた。
獅子のような立て髪。
それもまたまあるくなって、冷房の風に吹かれる。
BGMも、平和か愛を歌うのだろう。
異邦人。
ぽんぽん、と叩かれる肩越しに振り向けば、青に色めく信号機。
それもまたしばらくすると赤に変わる。
盛りの激しい夏のこと。
汗で滲んだ紙面の動機。
握り締めていたはずもない凶器。
思わず手放したそれがおもちゃのように、ポン、と跳ねて。
熱かった。痛かった。
無闇