霊能探偵・芥川九郎のZファイル(10)【松本旅行編】
第1章 芥川の決心
霊能探偵・芥川九郎は、中区の事務所で相棒の牧田マリアと話していた。中区にあると言っても、古びたビルの一室に過ぎないのだが。
芥川「唐突だけど、僕は松本へ旅行に行く。マリアさんとサッちゃんも一緒に行こうよ。」
幸子「やったー!また旅行に行ける・・・松本って、どこにあるの?」
福家幸子は、芥川が栄で見つけて事務所に連れてきた座敷童子である。
芥川「長野県の松本市だよ。松本城を見に行こう。」
マリア「この間、三人で松山旅行に行きましたよね。今度は松本ですか・・・芥川先生。何かあったんですか?悩みごとがあるなら、みんなで話し合いましょう。」
芥川「悩みごと・・・確かに、重大な話ではあるけど、悩んではいない。」
マリア「重大な話・・・松本と何か関係があるんですか?」
芥川「いや、全く関係ない。魔界へ戻る前に、人間界で旅行をしておこうと思っただけさ。」
マリア「魔界へ戻るって・・・せっかく魔界から生還できたのに、どうしてまた魔界へ戻るんですか?」
芥川「妖怪は人間よりも長寿だ。いや、人間の方が妖怪よりも早死すると言うべきか。妖怪が人間と仲良くなっても、人間はすぐに年老いて死んでいく。」
幸子「・・・・・・」
第2章 芥川の考え
芥川とマリアがそんな話をしていると、能年(鎧)がコーヒーを運んできた。
芥川「能年君、ありがとう。」
マリア「ありがとう、能年さん。いただきます。」
能年は鎧の妖怪である。芥川の助手として、彼の事務所に住み込みで働いている。
二人はそれぞれ、熱いコーヒーを一口すすってから会話を再開した。
芥川「魔界で1年過ごせば、人間界では6年経過する。魔界で30年過ごせば、人間界では180年・・・」
マリア「芥川先生は妖怪よりも長生きしたくなったんですか?でも、100年、200年も経てば、人間界の友人・知人はみんな亡くなってしまいますよ。」
芥川「長生きしたいわけではないよ。人間の寿命は80歳、90歳、長生きしたってせいぜい100歳。体感寿命は変わらない。」
マリア「じゃあ、何のためにそんなことを・・・」
芥川「知り合った人間たちが先に死んでしまう。友人・知人がどんどん減っていく・・・そんな妖怪たちの気持ちを、この身をもって体感してみたくなったんだ。」
マリア「・・・父が悲しむと思います。」
マリアの父・牧田は芥川の昔の相棒である。
第3章 芥川の新能力
芥川はコーヒーを一口飲んでから言った。
芥川「そんなに悲しむことにはならないと思うよ。実は、新しい能力を習得したんだ。仮体の生成だよ。」
マリア「仮体の生成・・・」
芥川「実は最近、霊力で仮体を生成することができるようになったんだ。この能力を使えば、魔界と人間界を仮体で行き来し、頻繁に人間界の様子を見に来ることができる。」
マリア「芥川先生は魔界へ行き、仮体でここの様子を見に来る。じゃあ、この事務所は・・・」
芥川「マリアさん。この霊能探偵事務所を承継してくれないか?君の父・牧田君が、僕が魔界へ落とされてから30年間、牧田霊能探偵事務所として立派に運営してきたように・・・」
芥川は狂気の霊能探偵・夢野長政との死闘の末に、夢野の送還魔法によって魔界へ落とされ、5年間魔界をさまようこととなった。彼は魔界から帰還することができたのだが、驚くべきことに人間界では30年もの月日が流れていたのだ。
マリア「急にそんなこと言われても・・・」
芥川「急ぐことはないさ。慌てずにゆっくり考えてほしい。とりあえず来週、松本旅行に行こう。」
マリア「・・・分かりました・」
幸子「・・・・・・」
能年(鎧)は部屋の隅にあるイスに座り、二人の会話をじっと聞いていた。
第4章 松本旅行
芥川、能年(鎧)、幸子とマリアは、車で松本へ向かっていた。マリアの運転する車は、名古屋高速から中央自動車道へ入り、岡谷JCTから長野自動車道を松本ICまで走り続けた。
芥川「いつもマリアさんに運転させて悪いね。」
マリア「結局、芥川先生は自動車免許を再取得できませんでしたね。」
芥川「仕方ないさ。自動車学校からやり直しだからね。そんな簡単な話じゃないよ。」
マリア「それもそうですね。」
芥川「そう言えば、マリアさんが警察を辞めた理由、まだ聞いてなかったけど・・・」
マリア「もう終わった話です。霊能探偵事務所の運営に比べれば、大した話ではありません。」
芥川「そうなのかい?」
マリアは話題を変えて言った。
マリア「まず松本城へ行きましょうか?」
芥川「うん。そうしよう。」
幸子「松本には松本城があるんだね。名古屋には名古屋城があるし、松山には松山城がある。」
能年(鎧)は幸子の言葉にコクッコクッと2回、小さく頷いた。
芥川「お城もいいけど、グルメも楽しみたいね。信州そば、山賊焼き、馬肉料理、牛乳パン・・・お腹が空いてきたよ。」
幸子「私もお腹が空いた!」
マリアの車はまっすぐ、松本城の駐車場へ向かっていた。到着したのはお昼過ぎだった。
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