映画『夜のまにまに』レビュー

 街はあるのに人はいない。だから周りを気にする必要もない。車も滅多に走らないから、道路だって好き放題に歩ける。日中とは異なる自由な時間。だけど黙り込んでしまえば、寂しさの塊みたいな格好で立ち止まっている自分に気付いてしまう。
 そんな時間帯を真夜中と呼ぶなら、本作はその「真夜中」を舞台にして過去からも、また今からも逃げ続ける人たちを描きます。各々が抱える「さよなら」という挨拶をはっきりとは口にできない、あるいは口にしたくない理由をミステリーのように明かすのではなく、躊躇いや戸惑いといった心の動きを主軸に、テイストの異なる物語を観客に届けようとします。
 ストーリーラインを外観すれば①前半から中盤にかけては今泉力哉監督の『街の上で』のような上質なヒューマンコメディ、②後半からは喪失と再生の狭間を走り抜ける最良のドラマへと切り替わって物語は展開していきます。構成も非常によく練られていて、鬼ごっこの果てに迎える夜明けが主人公である新平に隠された秘密と共に昇華され、とても印象的なラストに繋がっていく。そこには絵本のような優しさと共に大人になって「しまう」ような悲しみもあって、私はすごく好感を持てました。
 本作は脇役も含めて魅力的なキャラクターばかりで、掛け合いもユーモアに富んでいます。会話劇として観ても十分に楽しめる。そんな中にあってもヒロインである佳純を演じた山本奈衣瑠さんの存在感は凄かったですし、後半の前後でそのキャラクター像が一変する新平の愛らしさを損なわずに演じ切った加部亜門さんにも惚れ惚れでした。恥ずかしながら私はお二人の演技を本作で初めて拝見したのですが、観終わった後で逸材発見!って感じの自分勝手な興奮に襲われましたね。調べれば、山本奈衣瑠さんは『SUPER HAPPY FOREVER』にも出演されていて、こちらの作品も再上演されるタイミングで観に行ったのですが、やはり素晴らしい演技でした。高崎映画祭での最優秀助演俳優賞に選ばれたのも納得です。
 知る人ぞ知る名作は?と訊かれれば、私は迷うことなく『夜のまにまに』を挙げます。それぐらい脚本、映像、キャスティングといったあらゆる面で非の打ち所がない映画です。U–NEXTやAmazonプライムなどで絶賛、配信中なので興味がある方は是非。心に染み入る一作です。

映画『夜のまにまに』レビュー

映画『夜のまにまに』レビュー

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-31

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