霊能探偵・芥川九郎のZファイル(6)【魔術師・守屋愛編】
第1章 魔界帰りの男
霊能探偵・芥川九郎の事務所に、相棒の牧田マリアがやって来た。芥川の事務所は中区にあって立地はよいが、古びたビルの一室に過ぎない。
マリア「芥川先生、こんにちは。おじゃまします。」
芥川「やぁ、マリアさん。いらっしゃい。」
芥川は一人でコーヒーを飲みながら、書類に目を通していた。
マリア「あれ?能年さんとサッちゃんがいませんね。今日は二人とも外出中ですか?」
芥川「二人で近所のスーパーへ買い出しに行ったよ。」
能年は鎧の妖怪である。芥川の助手として、彼の事務所に住み込みで働いている。福家幸子は芥川が栄で見つけて、事務所に連れてきた座敷童子である。
マリア「能年さんとサッちゃんだけで大丈夫かな?」
芥川「二人とも案外、しっかりしているから大丈夫だよ。」
マリアは話題を変えて本題に入った。
マリア「今日は守屋先生がお見えになるんでしたよね?」
芥川「そうそう。こっちの世界で会うのは久しぶりだね。」
マリア「守屋先生と本当に、魔界でお会いしたんですか?」
芥川「いや。直接会ったわけじゃないから、本人は否定するだろうね。」
芥川は狂気の霊能探偵・夢野長政との死闘の末に、夢野の送還魔法によって魔界へ落とされ、5年間魔界をさまようこととなった。彼は魔界から帰還することができたのだが、驚くべきことに人間界では30年もの月日が流れていたのだ。
第2章 不老不死(?)の魔術師
しばらくすると魔術師・守屋愛が事務所にやって来た。
守屋「こんにちは、芥川君。相変わらず元気そうね。」
芥川「守屋先生も相変わらずですね。30代にしか見えませんよ。」
守屋愛は魔法学会から危険視され、追放された稀代の魔術師である。若く見えるがかなりの長老格だ。芥川とはいろいろ因縁があるのだが、彼が失踪するまでは、ビジネスパートナーとしてお互い利用し合っていた。
マリア「守屋先生、こんにちは。お久しぶりです。」
守屋「こんにちは、マリアさん。お父様はお元気?」
マリア「はい、相変わらずです。父が現役の頃には、いろいろお世話になりました。」
芥川「守屋先生は僕が失踪中の間も、牧田霊能探偵事務所との協力関係を維持していたんですね。」
守屋「えぇ。牧田さんとはおかしな因縁はありませんからね。」
マリアの父・牧田は、芥川の昔の相棒である。彼が魔界から戻ってくるまでの間、霊能探偵事務所を承継・運営してきたという経緯がある。
マリア「守屋先生。どうぞお掛けください。コーヒーでよろしいですか?」
守屋「マリアさん、ありがとう。どうぞお構いなく。」
守屋はマリアに勧められたイスに腰かけた。マリアは守屋のコーヒーを運んでから着席した。
芥川「守屋先生の若さの秘密がとうとう判明しましたよ。魔界の1年は人間界の6年。魔界に居れば加齢を遅らせることができる・・・というわけですね。」
第3章 秘密主義者たちの言い分
守屋は熱いコーヒーを一口すすってから言った。
守屋「さぁ、何のことでしょう?」
芥川「魔界でのお名前はモリア・アイリス様でしたっけ?人間界では稀代の魔術師として恐れられているお方が、魔界では奇跡の占星術師としてご活躍されているとは夢にも思いませんでした。」
守屋は不敵な笑みを浮かべて言った。
守屋「フフフッ。仮に私が魔界へ行ったとしても、誰かさんみたいに派手に大活躍して、噂になるような真似は絶対にしませんよ。人間界でも魔界でも、権力者に目を付けられたら非常に危険ですからね。」
芥川「榊原博士にもお会いしましたよ。魔界で思う存分、魔獣を研究しているようです。」
榊原博士は、魔界で魔獣を研究するために悪魔と契約した狂気(?)の魔獣研究者である。魔界から出られないため、魔力で仮体を生成して時々、人間界にやって来る。
守屋「・・・そうなんですか。さすが榊原博士ですね。」
芥川「榊原博士も守屋先生も、肝心なことは絶対に話そうとしない。魔界と深く関わった者は、なんでみんな秘密主義者になってしまうんですかね?」
守屋「芥川君がおしゃべりなだけですよ。魔界の噂話なんて、話したってろくなことにはなりません。」
第4章 魔界へ帰った悪鬼
芥川は冷めたコーヒーを飲み干すと、話題を変えて言った。
芥川「そう言えば、鬼塚君も魔界へ帰ったんですね。」
守屋「えぇ。彼はもともと、魔界から召喚した鬼ですから。」
鬼塚は恐ろしい形相の悪鬼である。守屋の手下だったが、とある事情で芥川の助手となったという経緯がある。
芥川「そうですか。寂しいですね。」
守屋「私はちゃんと本人の意思を確認しましたよ。彼は随分と悩んだ末に、やっぱり魔界へ帰りたいと言いました。」
芥川「故郷への郷愁は、人間も魔物も同じなんですね。」
守屋「そりゃそうでしょう。あなただって、いくら魔界の居心地が良くったって、最終的には帰還して人間界で余生を過ごしたいと思ったんでしょう?」
芥川「私はたった5年で帰ってきたので・・・」
守屋「フフフッ。その間に人間界では30年も経過していた。あと5年間、向こうでゆっくり過ごしていたら、あなたのことを覚えている人間は一人もいなかったでしょうね。」
守屋はそう言って愉快そうに笑うと、残りのコーヒーを飲み干した。
守屋「ごちそうさま。それではまた。芥川君もせいぜい長生きしてちょうだいね。私のことを覚えている貴重な人間ですから。フフフッ。」
守屋はマリアに別れのあいさつを言ってから、さっそうと事務所を出ていった。
マリア「守屋先生は相変わらず、美しくてクールですね。」
芥川「そうだねぇ。でも、あまりにも人間離れしているよ。僕はもう、人間にとって何が本当の幸せか、分からなくなりそうだ。」
芥川とマリアがそんな話をしていると、能年(鎧)と幸子の妖怪コンビが買い出しから戻ってきた。午後3時、おやつの時間である。
霊能探偵・芥川九郎のZファイル(6)【魔術師・守屋愛編】