キッチン・シンドローム(1)
はじめまして。瑞波穂花と申します。
みなさんには、記憶に残っている食事や料理はありますか?
楽しかった、辛かった、悲しかった、苦しかった。
どんな場面でも、食事は欠かせない瞬間ですし、記憶にも残りやすいのではないのでしょうか。
みなさんの記憶に残っている思い出に近いような、遠いような。
そんなお話を、とある女性を主人公に描きます。
(プロローグは一応つながる予定ですが、お試し投稿です。かなり短く飛躍していますので悪しからず。)
さつまいものアイス -プロローグ-
「え!?アイス作ったの!?」
切れ長で細い目を精一杯見開いて、彼が言う。
「実家からさつまいもが届いたの。うちではいつも、さつまいもはアイスにしてたんだ。」
わたしは、ねっとりとしたさつまいものアイスをすくいあげながら答えた。
「地元でさつまいも採れるんだ。」
「さつまいもなんてどこだって育つでしょ。知らんけど。」
他愛のない会話にほっとして、アイスを頬張る。
濃厚なさつまいもの甘味が口いっぱいに広がり、多幸感に包まれる。
続けて彼が、大きな口を開けてアイスを頬張る。
途端、さっきのさらに倍くらい目を見開いて、笑顔になる。
「うわあ!なにこれおいしい!!」
くしゃっと無邪気に笑うその顔に、私の頬もほころぶ。
「まだまだいっぱいあるから、たくさん食べてね。」
うれしいはずなのに、なぜか不思議な気持ちになった。
彼がこの4年間で初めて、私の料理を褒めたからだった。
次の日、彼は家を出ていった。
仕事から帰ると、一緒に選んだ一枚板のダイニングテーブルの上に、封筒が置かれていた。
中の紙きれには、きれいな字で書かれていた。
「今までありがとう。さつまいものアイス、すごくおいしかった。」
わたしはがっくりと膝を落とした。
同棲を始める時、夕食はいつも一緒に食べると決めた。
どんな小さなことでも共有したい、相談したいと思っていたわたしの提案だった。
会話の中身はいろいろだった。
会社のコーヒー豆が変わって課長が大激怒したこと。
お昼のワイドショーで好きだったアイドルが変わり果てた姿でコメンテーターをしていたこと。
週末にどこへ行くか計画したこと。
わたしは、その時間が何よりも幸せで、楽しくて、大好きだった。
なんでも残さず食べてくれていたのに。
「ごちそうさま。」と毎回笑顔で伝えてくれていたのに。
彼のすべてを知っていたと思っていたのに。
なんでも共有できていると思っていたのに。
すべてが思い込みだった自分が情けなくて、悔しかった。
ひとしきり泣いた後、おもむろに冷凍庫を開けた。
理路整然と並べられた保存食の中から、昨日のアイスの残りを探し出す。
隅に置かれたそれは、心なしか物悲しく見えた。
わたしはスプーンを手に取り、四角い容器の箱を開けた。
昨日のものとは別に、きれいに削り取られた跡があった。
無我夢中で頬張ったさつまいもアイスの味は、いつもより少し甘ったるかった。
キッチン・シンドローム(1)