予期せぬ出来事 25
最初に断っておきます。
今回のエッセイは、エッセイと言って良いものかどうかも疑問ですが……
これは、ボクが〝見聞きしたお話〟と、それを波及させて想像を膨らませて書いたものです。
聞いたことがあるよ、知ってるよ……という方も、多分いると思います。
それでも、何も考えずに読んでいただいて、クスっと笑っていただければ嬉しいのですが――
それでは「桃太郎」の始まり始まり……
その①
昔々、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。
ある日、お爺さんは山に柴刈りに、お婆さんは川に洗濯に行きました。
お婆さんが川で洗濯をしていると、川上の方から大きな桃がドンブラコドンブラコと流れてきました。
お婆さんはその桃を家へ持ち帰りました。
そしてお爺さんがその桃を斬ると、中から子供が出てきました。
桃から産まれたので、桃太郎と名付けました……
とまぁこれはオリジナルの話です。
そこでふと疑問が持ち上がったのです。
何でお爺さんは山で柴を刈るのだろう?
調べてみました。
柴は小さな雑木のことで、山へ柴刈りに……とは、低木を刈ったり、枯れ枝を薪として利用するために拾い集めたりして、山の雑木林の手入れをすることなのだそうです。
昔の人々にとって山の雑木林は、腐葉土、木の実、茸類、炭の材料、獣の棲家など……生活に密着したかけがえのない資源だったということなのです。
山の手入れを怠れば、恵みを受け取ることが出来なくなる、と考えていたのだそうです。
その②
お婆さんが川で洗濯をしていると、大きな桃がドンブラコドンブラコと流れてきました。
でもお婆さんは洗濯に夢中で、桃が流れてきているのに気付きませんでした。
そして桃は、そのまま川下へ流れて行ってしまいました。
その③
お婆さんが川で洗濯をしていると、大きな桃がドンブラコドンブラコと流れてきました。
お婆さんは桃に気が付きました。
「ありゃまぁ、大きな桃だがや」
でも……
「こげな大きな桃は、持って帰れねぇだがや」
お婆さんは、そのまま桃が流れてゆくのを、ただ指を咥えて見送るしかありませんでした。
その④
大きな桃がドンブラコドンブラコと流れています。
でも今日は洗濯の日じゃなかったので、お婆さんは川に行きませんでした。
その⑤
大きな桃がドンブラコドンブラコと流れています。
でも今日は洗濯物が山ほどあったので、重くて川に到着するのが遅くなってしまったのでした。
お婆さんが川に着いたときには、桃は既に流れて行ってしまった後でした。
その⑥
大きな桃がドンブラコドンブラコと流れてきません。
何故なら山の奥の動物たち、猿や雉や野良犬が先に見付けて食べてしまったからでした。
その⑦
お婆さんは、家へ桃を持ち帰りました。
お爺さんとお婆さんは
「おおきな旨そうな桃だがや」
「そうだねぇ、お爺さん。どうやって食べようかねぇ」
「う~ん、どうすべぇかなぁ?」
二人で相談しましたが、美味しく食べる方法がなかなか思い浮かびません。
考えている内に、夜もとっぷりと更けてしまいました。
「今日はもう遅いから、明日かんがえるべぇ~」とお爺さんは桃を土間の奥に置きました。
何故なら部屋が狭くて、桃を置いておいておいたら、二人が横になる場所が無かったからです。
でも翌朝になると、二人は土間の奥に桃を置いていたのをすっかり忘れてしまっていました。
お爺さんとお婆さんは、かなり歳を取っていて頭も少しボケていたからです。
そして……いつしか日にちが経ち、桃は腐ってしまいました。
腐った臭いで、桃を置いていたことに気付いたのですが……
お爺さんとお婆さんは、仕方なく桃を捨ててしまいました。
その⑧
家に持ち帰った桃を、お爺さんは鉈でスパッと真っ二つにしました。
開けてみると、中の桃太郎も真っ二つになっていました。
その⑨
お婆さんが川で洗濯をしていると、また桃が流れてきました。
お婆さんは、桃を持って帰りました。
「お爺さんや、中に赤子が入っているかも知んねぇ。だから端っこを斬ったほうがいいんじゃねぇかい?」
「そうだな、そうすんべ」
「そんじゃあ爺さんや、右の方を斬ってみんしゃいよ」
お婆さんは、手で桃を斬る位置を示しながら言いました。
そのとき桃太郎は、お爺さんとお婆さんの会話を桃の中から聞いていました。
(右側を斬るって言ってたから、おいらは左に寄って鉈を躱すべ)
もう少し時間があれば、桃太郎もよ~く考えることが出来たのですが、斬られちゃ堪らんと慌てて左側に寄ってしまっていたのでした。
でも、お爺さんから見て桃の右側は、中の桃太郎から見れば左側だったのです。
桃太郎が気付いた時には、すでに後の祭りでした。
その⑩
「これからお爺さんが右側を斬るから、おみゃーから見て右側に寄るんだよ」
お婆さんは桃をコンコンと叩きながら中の赤子に話し掛けています。
すると中からもコンコンと返事が返ってきました。
「お爺さんや、中から返事があっただがや」
お婆さんはお爺さんに言いました。
「よっしゃ分かった。そんじゃぁ~」
でもお爺さんが鉈を手にして立った位置は、中の桃太郎の正面では無かったのです。
丁度90度回った位置に立っていたのでした。
桃太郎は真っ二つになってしまいました。
*
まぁ考えたら、色々なバージョンが出てきます。
お爺さんは山奥で柴を刈って帰ってきたばっかりで、ヘトヘトに疲れていました。
重い鉈を持ち上げて、今まさに振り下ろそうとした時、足がもつれてしまい、桃太郎が寄っていた方に鉈を振り下ろしてしまいました。
他に、桃の中一杯に桃太郎が入っているので、何処にも逃げる場所がありませんでした、とか……
その⑪
桃太郎はすくすくと育ちました。
身体が大きくなるにつれ、その食欲たるや……半端ではありませんでした。
結局、桃太郎は裕福な家庭に養子に出されてしまいました。
その先で桃太郎はなに不自由なく暮らしました。
だから鬼ヶ島へ鬼退治にゆくなんて……そんな危険なことをすることなど全く考えてもいなかったし、義理の両親も、鬼退治に行きなさい、と強制することも無かったのでした。
その⑫
桃太郎は、おばあさんから渡されたきび団子を持って、鬼ヶ島へ鬼を退治に出発しました。
でも数日もしないうちに、桃太郎は帰って来てしまったのです。
「桃太郎や、えりゃ~早く帰って来たでねぇか」とお婆さん。
見ると、桃太郎は手ぶらです。
「で、桃太郎や、お宝は……」とお爺さん。
「じつは……」
桃太郎は方向音痴で、鬼ヶ島へ行くことが出来なかったのでした。
その⑬
桃太郎は、きび団子を持って鬼ヶ島へ鬼を退治に出発しました。
でも、待てど暮らせど桃太郎が帰ってきません。
どうしたのでしょう?
桃太郎は犬猿雉に、きび団子をあげるから一緒に鬼ヶ島へ鬼を退治にゆこう、と誘ったのですが……
「きび団子だけで鬼退治ぃ~。しかもきび団子好きじゃねぇし」とみんなから断られてしまっていたのでした。
仕方なく桃太郎は、鬼ヶ島へ一人で鬼退治に向かったのですが多勢に無勢、あっというまに鬼たちに囲まれてやられてしまったのでした。
その⑭
桃太郎は、きび団子を持って鬼ヶ島へ鬼を退治に出発しました。
でも犬猿雉に出会う前に、持っていたきび団子を一人で全部食べてしまっていました。
「無報酬で鬼退治にゆく義理なんてねぇし……」と同行を断られ、桃太郎は仕方なく一人で鬼退治にゆくことにしました。
結果は……その⑬と同じになりました。
その⑮
犬猿雉を連れて、船に乗って鬼ヶ島へ向かったまでは良かったのですが、途中で嵐に遭遇してしまい、船は転覆していまいました。
唯一空を飛べる雉だけが助かりましたが
「オレ一人で鬼退治は絶対無理!」と帰ることにしました。
でも、嵐の中を無理に帰ろうとしたので、途中で雷に打たれて、雉も死んでしまいました。
その⑯
鬼を退治した桃太郎たちでしたが、すでに鬼たちは財宝を使い果たしており、全然残っていませんでした。
怒った桃太郎たちは、鬼たちを全員殺してしまいました。
その⑰
桃太郎は鬼を退治し、たくさんの宝を持って一人で村へ帰ろうとしました。
でも待てよ……
何で帰らなきゃならないんだ? こんだけ苦労して鬼退治して、宝を持ち帰って、オレに何の得があるんだ……
爺さん婆さんは、芝刈ったり洗濯したりしながら、オレが帰るのを待ってるだけじゃねぇか。
帰るのや~めた。
そして桃太郎たちは、カジノで豪遊した挙げ句にスッカラカンになってしまいました。
帰る旅費もありませんでした。
その⑱
鬼ヶ島に到着した桃太郎たちは、鬼たちに歓迎され、そこで一生暮らすことにしました。
その⑲
桃太郎は、鬼ヶ島からたくさんの宝物を持ち帰りました。
お爺さんお婆さん、そして村の人々は大喜びです。
みんなで桃太郎を囲んで、彼の活躍を褒め称えています。
「鬼たちはどうしたんじゃ」
村長が訊きました。
「はい、皆殺しにしました」
皆殺し、そりゃ残酷なことをしたもんじゃ。
二度と村を襲わないように、キツくお灸をすえるだけでも良かったのに……と想いましたが
「これでもう、村が襲われることが無くなる。良かった良かった」と村長は、心とは裏腹に微妙な笑みを浮かべています。
「やっと貧乏から抜け出せるぞ」と村の誰かが言いました。
「ありがとう桃太郎、ありがとう」
お爺さんとお婆さんも、泣いて喜んでいます。
そのとき
ちいさな女の子が、宝の中から金の髪飾りを手に取りました。
「きれい~」
そう言って、自分の髪に刺して踊っています。
それを見た他の子供たちも宝を漁り始め、それぞれ好きな物を手にしだしました。
それを見た桃太郎は
「お前ら、触るんじゃねぇ」
村中に響くほどの大声を出して、子供たちを叱り付けました。
子供たちも、そして大人たちも一瞬凍ったように動きを止めて、あっけに取られて桃太郎を見ています。
「まぁまぁ桃太郎や、小さな宝のひとつやふたつ、いいではないか」
お婆さんは桃太郎をなだめようと、優しく声を掛けました。
「そうだよ、桃太郎。お宝はみんなで分けあえば、村が裕福になるのじゃから。そうしたらみんなが幸せになれるんじゃ」
お爺さんも言いました。
その言葉を聴いた瞬間、桃太郎の目が釣り上がりました。
「みんなの宝~ぁ?」
ねめつけるような目で、お爺さんを睨み上げます。
「何言ってんだ爺ぃ、これはオレが一人で鬼ヶ島へ行って、一人で鬼を退治して、やっとこさ持ち帰ったんだぞ。死ぬ思いだったんだ。だからこの宝は全部オレのもんなんだよ」
犬猿雉の助けを借りたことは言いませんでした。
村人は誰もそのことを知らないのですから……
「おどりゃあ~そこの糞ガキども、さっさと宝を元あった場所に戻すんだ」
「まぁ、まぁ桃太郎……」
お爺さんが、桃太郎をいさめるように、彼の肩に手を伸ばしました。
そのとき、桃太郎は腰に差していた刀を一瞬で抜き放ち、お爺さんの手を下から上へ叩っ斬っていました。
その返す刀で、近くにいた村長の頭をかち割っていました。
そして桃太郎は、訳のわからない大声を発しながら村人たちに襲い掛かっていったのです。
鬼退治が出来るほどの腕前を持つ桃太郎です。
逃げ惑う村人たちは、為す術なく次々と斬られて、倒れてゆきます。
あの犬や猿や雉どもも分け前を寄こせって言いやがった。
きび団子をやったろうが、お前らにはそれで充分なんだよ。
それでも、分け前を寄こせって言うから叩っ斬ってやったんだ。
雄叫びを上げながら、村人たちを襲います。
腰を抜かして、地べたにへたり込んでいたお婆さんは見てしまいました。
桃太郎の額から、大きな二本の角が生えているのを……
*
てなことで、とりとめの無い桃太郎のお話でした。
おっともうひとつ、多分これは落語の小話だったような……
その⑳
お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯にゆきました。
川で洗濯をしている時、お婆さんはぷ~うとオナラをしてしまいました。
お爺さんは、芝を刈らずに草(臭)かった。
おしまい
予期せぬ出来事 25