仮面ライダー龍騎 〜第十三話〜

《第十三話:業火(ごうか)


【登場人物】

城戸 真司(きど しんじ)(二十四)……新米ジャーナリストで、少々抜けたところがあるお人好しの青年。ドラグレッダーと契約し、『龍騎(りゅうき)』となる。

秋山 蓮(あきやま れん)(二十四)……無愛想で口も態度も悪いが、内には確かな情を秘めている男。仮面ライダー『ナイト』に変身する。

手塚 海之(てづか みゆき)(二十四)……蓮の古くからの友人で、彼の良き理解者。仮面ライダー『ライア』となって龍騎・ナイトと共闘していたが、浅倉によって殺害される。

須藤 雅史(すどう まさし)(二十八)……浅倉と浅からぬ因縁を持つ、警視庁の刑事。仮面ライダー『シザース』に変身する。

北岡 秀一(きたおか しゅういち)(三十)……黒を白にすると言わしめる、自称スーパー弁護士。仮面ライダー『ゾルダ』に変身する。

浅倉 威(あさくら たけし)(二十五)……自らの衝動に任せて通行人を次々と殺傷した凶悪犯罪者。神崎士郎の導きにより、収監中の拘置所から脱獄。『王蛇(おうじゃ)』となる。

【あらすじ】

 仮面ライダーシザースの変身者——須藤雅史から持ちかけられた共闘を、真司は快諾した。喪失を埋めようと須藤との共闘に臨む真司。しかし、そこには微かな不穏が漂っていた。

【十八】

〜五月七日・午後二時二十二分"都内大通り・ミラーワールド"〜

「城戸さん、行きますよ!!」

「はい!!」

<STRIKE VENT>

<SWORD VENT>

 目の前のサル型モンスター『デッドリマー』に警戒しながら、龍騎とシザースは武器を取った。須藤が変身するライダー——シザースは、蟹の意匠が入った銅色の鎧に身を包んだ屈強な戦士だ。そしてシザースの武器は『シザースピンチ』。契約した蟹型モンスター『ボルキャンサー』の巨大な鋏を象った、右腕に装着する近接武器である。

「はあぁ!」

 彼のシザースピンチによる豪快な一振りが、デッドリマーの腹を切り裂いた。痛みに悶絶し、その場でのたうち回るモンスター。

「今です!」

「っしゃあ!」

<FINAL VENT>

 シザースの合図に合わせて空高く跳び上がった龍騎の必殺キックが、そのままデッドリマーを粉砕した。久しぶりの純粋な戦いに、龍騎は少し"すっきり"したような気がした。



「……須藤さん、ありがとうございました。やっぱ誰かと力を合わせられるって、最高っすね。」

 ミラーワールドから戻った真司と須藤は、花鶏に向かって歩いていた。先ほどの喫茶店での会話が、小骨のように真司の心につっかえていた。

「そうですね。この調子で、お互い高め合っていきましょう。」

「あの……ちょっと聞きにくいんですけど。」

「はい?」

「……浅倉を斃すって、やっぱり殺すって事ですか。」

 真司のその問いを聞いて、須藤は足を止めた。そして、小さく息を吐く。

「……そうですね。」

「須藤さん、それは……」

 その時であった。反対の路地から、突然悲声が上がったのだ。

「「!?」」

 声が上がった方を見ると、そこにはナイフを突き立てられた腹を抱えて倒れ込む女性がいた。そして彼女のバッグを奪ってその場から駆け去る青年の姿を、二人は捉えた。

「城戸さん! あなたは救急車を!」

「あ、はい! 須藤さんは!?」

「私は、犯人を追いかけます!!」

 その場を真司に任せて、須藤は駆け出した。自らに課した、もう一つの使命を果たす為に。

〜午後二時三十分"都内・路地裏"〜

「……」

 須藤は、ボルキャンサーが青年の血肉を喰らい尽くす様をじっと見つめていた。

「直接目にすると、やはり堪えますね。」

 そこに真司がやってきた。彼は、今の状況を見てとても驚いた様子だった。

「須藤さん……あんた、何を?」

「城戸さん。すみません、お見苦しいところを」

「そうじゃなくて……あんた、何してんだよ?」

 真司の声は、わなわなと震えていた。恐らく怒りで震えているのだろうと、須藤は察した。

「何を……そうですね。救いの無い犯罪者を、今この手で裁いたところです。」

「何言って……もしかして、最近行方不明になってた人達って……。」

「……ご存知でしたか。ええ、私がモンスターに喰わせました。」

「なんで……そんな事を!」

 きっと加賀も同じように言っただろうと、須藤は思った。

「あなたは、罪を犯した者が更生すると思いますか。私は思いません。彼らのような人間に希望を持ってしまってはいけない。そういう甘さを捨てなければ、私はきっと……奴を、浅倉を殺せない。」

「……やっぱり間違ってる。人が他人を、殺すなんて。」

「なら戦いますか。それで自分を突き通せるなら、私は喜んでデッキを取りますよ。」

 コートの内ポケットから、ゆっくりとデッキを取り出す。それを見てもなお、真司は躊躇っている様子だった。

「どうしたんですか?」

「俺は……誰かを守る為に、その為だけに戦うって決めたんだ。だから、あんたとは戦いたくない。」

「それは素晴らしい。」

「でも……今のあんたを見てたら、やらなきゃって思った。俺が、あんたを止める。」

「……」

 真司も、覚悟を決めてデッキを手に取った。

〜午後二時四十分"ミラーワールド・路地裏"〜

「私は、こんなところで止まる訳にはいかない。」

<STRIKE VENT>

 シザースが、専用武器のシザースピンチを装備した。その鈍く光る巨大な鋏が、龍騎には血に塗れて見えた。

「俺も……止まりたくない!!」

<SWORD VENT>

 龍騎もドラグセイバーを装備する。

「……」

「……」

 先に駆け出したのは、龍騎だった。半歩遅れて、シザースも駆け出す。そうして距離を詰めた二人は、互いの武器を交えた。両者の力の籠った一撃が鍔迫り合い、その両腕を振るわせる。

「ぐっ……。」

 シザースの激しい気迫と力に押され、ジリジリと後ろに下がる龍騎。そんな相手の姿を見て、シザースは尚も威嚇するように言った。

「私は、屑とはいえ多くの人間を喰わせ続けてきた。力を蓄えた私のボルキャンサーは強い。そしてその主である私も、強い。あなたに私が倒せますか?」

 力負けした龍騎が、大きく弾き飛ばされた。そして無防備に曝け出されたその胴体に、シザースピンチの強烈な一振りが入る。

「ぐあぁっ!!」

「終わりです。」

<FINAL VENT>

 召喚されたボルキャンサーが組んだ両腕を足場にして、シザースが宙空へと大きく跳んだ。空高く跳び上がった彼は空中で膝を抱えて丸まり、そのまま高速で回転を始める。

「……まだだ!!」

 咄嗟の判断で、龍騎はドラグバイザーにカードをセットした。

<GUARD VENT>

 装備したドラグシールドを前に構えて、龍騎は衝撃に備えた。そこに、回転を続けるシザースが飛び込む。両腕がビリビリと震え、着実に身体が押し上げられていく。それでも、決して守りの姿勢を解く事はしなかった。そうすれば、自分の戦いはここで終わる。龍騎はそう確信していた。



〜午後三時"都内・路地裏"〜

「……まさか、今の突撃を耐えるとは。」

 真司は、須藤の猛攻を耐え切った。しばらく両腕は動かないのではと思うほど痺れていたが、それでも真司は耐え抜いたのだ。

「俺は……しぶといんだよ。」

 ガクガクと震える膝をなんとか保たせながら、真司はしっかりと須藤を見据えて言った。そんな様子を見て、ため息をつく須藤。

「……あなたのそのしぶとさに免じて、ここまでにしておきましょう。」

 そう言うと、須藤は真司に背を向けて歩き出した。きっと、次の標的のもとへ向かうのだ。

「あんたは……これからも続けるのか?」

「えぇ。……残念です、城戸さん。あなたとは、想いを共有できると思っていた。」

「……」

 須藤は、こちらに振り返る事なく言った。

「……あなたと、共に戦えてよかった。」

 そうしてその日、真司は負けた。須藤の執念に。

【十九】

〜翌日・午後二時"喫茶花鶏・店内"〜

「やはりあの男が犯人だったか……ボロボロにされるまで気付かないとは、お前もまだまだだな。」

 洗い場で話を聞いていた蓮が、客席で項垂れる真司をからかうようにそう言った。

「お前、そんな言い方……俺は真剣に落ち込んでんだよ。」

「真剣に落ち込む必要が無いからこういう言い方をしているんだ。お前はまだ生きている。それだけで充分マシだという事を、お前は分かっていない。」

「それは……そうかもしれないけど。」

 あの時、もしも須藤がトドメを刺す為に攻撃を仕掛けていれば、それを防ぐ余力は真司には残っていなかった。まず間違いなく、死んでいた。

「俺が負けたのは、覚悟が足りないから。蓮とか他の奴らみたいに、叶えたい願いが無いから……何も背負ってないからなのか。」

 その言葉に、蓮は何も返さなかった。いや、きっと返せなかったのだろう。きっと自分しか、今の問いに答えを出せる存在はいない。かつて大久保に掛けられた言葉を、真司は思い出していた。

「……おい、城戸。気づいているか。」

「え……あ、これって。」

「浅倉とあのゾルダって奴のモンスターの気配だ。奴らめ、また戦いを始めたらしい。」

〜〜私はあの男を、絶対に許しません。〜〜

 ふと、真司の脳裏に須藤の言葉が蘇った。犯罪者を憎み力を振るう須藤にとって、浅倉は最も倒さなければならない相手のはず。真司はそう思った。

「行こう、蓮。俺達で浅倉も……須藤さんも止めるんだ。」

「……行くぞ。」

 二人は戦いに向かった。

〜同日・遡る事二十分前——午後一時四十分"北岡秀一邸内"〜

「ゴローちゃん、今日の料理も最高。やっぱ、ゴローちゃんが作った料理が一番だね。」

「ありがとうございます。」

 北岡は、ボディーガード兼秘書の由良吾郎が作ったパスタを食べて昼時を謳歌していた。吾郎は愛想こそ悪いものの、忠誠心の厚い信頼出来る男だ。

「しかし、割と減ったよね……ライダー。」

「……そうですね。」

「浅倉……あいつのおかげかね。」

 十三人のライダー達は皆、自分の願いの為に"理性"で戦いに身を投じている。もちろん北岡もその一人だ。しかし、浅倉威は違っていた。浅倉は"本能"で殺すことを楽しんでいる。故に殺しを一切躊躇わない。躊躇う必要が無いのだ。

「……噂をすれば、か。」

 ベノスネーカーの気配。それと同時に、玄関のドアが蹴破られた。

「よぉ、殺しに来たぜ。」

 浅倉が、笑みを浮かべながら其処に立っていた。

「お前さぁ……よく品が無いって言われない?」

「知るか。さぁ、デッキを取れ。」

「……はぁ。変なのに因縁つけられちゃったなぁ。」

 面倒を嘆きながら、北岡はデッキを手に姿見の前に立った。そして隣に立つ浅倉。二人は互いに目を合わせると、デッキを前にかざした。

「「変身!!」」

〜ミラーワールド・北岡秀一邸内〜

「いくら鏡の世界とは言っても、自分の家を荒らされるのは気分悪いね。」

 軽口を叩きながら、ゾルダはマグナバイザーの連射を王蛇に浴びせかけた。そばにあった家具を盾にして、それを防ぐ王蛇。

「ふん、すぐに小綺麗な元の家に送り返してやるよ。殺してからな。」

「はぁ……ほんと、なんでお前みたいなのがライダーなのかね。」

<SHOOT VENT>

 ゾルダの両肩に、大砲が装備された。それを全身で支えながら、王蛇目掛けて二連砲弾を放つ。

「ふははっ、面白いな。」

 王蛇は片方をベノサーベルで叩き切ると、もう一方をすれすれで躱した。人の顔ほどの全長を誇る砲弾を叩き切る筋力はもちろん、攻撃を躱しきる反射神経と判断力。やはり王蛇は只者ではないと、ゾルダは思った。

「お前、遠距離武器(こういうの)持ってないだろ。自分の不利認めて、さっさと死んでくれよ。」

「バカが。ようやく面白くなってきた所だろうが。」

<ADVENT>

 邸内の壁が崩れ去り、奥から猛毒大蛇(ベノスネーカー)が首をもたげて現れた。まるで新しい獲物を前に心震わせるように、ベノスネーカーは舌を鳴らした。

「……なるほどね。」

「やれ。」

 主人である王蛇の号令を合図に、その口から酸液が吐き出された。全力で横に跳ぶことでゾルダはそれを避けたが、酸液がかかった箇所はドロドロと歪な跡を残しながら溶けていた。

「お前、ほんと面倒くさいよ。」

「フハハッ……さぁ、もっと戦いを楽しもう。」

<ADVENT>

 それは、戦いに集中する二人の不意をついた一撃だった。突如として姿を現した奇蟹(ボルキャンサー)が王蛇の胴を挟み込み、そのまま壁を突き破って彼を外の地面に叩きつけたのだ。

「ぐおぉっ……。」

 思わぬ一撃をくらい、地を這い悶絶する王蛇。

「あれって……」

 唖然とするゾルダの後ろから、こちらに歩いてくる足音が聞こえた。振り返ると、そこには新たなライダーが立っていた。

「私はシザース。安心してください、今はあなたの敵ではない。私が殺したいのはあの男……王蛇です。」

 ゾルダは、その声色から深い恨みを感じ取った。それは静かに、しかし激しく燃えていた。



 須藤雅史の悲願は、間もなく達せられようとしていた。目の前には、自分の部下を殺した仇——浅倉威が倒れている。

<STRIKE VENT>

 シザースピンチを右腕に装着し、ゆっくりと歩を進める。一歩地面を踏みしめる度に、鼓動が少しずつ早くなっていくのをシザースは感じた。

「後悔の臭い……そうかお前、須藤か。」

「終わりです、浅倉威。」

 王蛇の首筋目掛けて、刃を振り下ろす。最後は自らの手で加賀と同じように殺してみせると、シザースは心に誓っていた。

「……やはり、あなたは阻みますか。」

「ごめん須藤さん。俺やっぱり、アンタを止めたい。」

 シザースの一撃を、龍騎のシールドが防いでいた。

「今度こそ、止めてみせる!!」

 その身体をシールドで弾き飛ばした龍騎が、一枚のカードを装填した。

<SURVIVE>

 赤き龍の戦士を、今一度炎が包んだ。そうして現れた彼の身体には金の装飾が施され、ドラグバイザーもその姿を変えた。彼の名は『仮面ライダー龍騎サバイブ』。胸の内の決意を今一度滾らせた、紅蓮の戦士。

—次回、『第十四話:鎮魂火』—

〜続〜

仮面ライダー龍騎 〜第十三話〜

仮面ライダー龍騎 〜第十三話〜

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-27

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work