霊能探偵・芥川九郎のZファイル(3)【叶さんの屈辱編】

第1章 笑う霊能探偵

 霊能探偵・芥川九郎は、中区の事務所で動画を撮影していた。中区にあると言っても、古びたビルの一室に過ぎないのだが。
芥川「吾輩は芥川九郎。知る人ぞ知る名古屋の霊能探偵である。ただの霊能探偵ではない!吾輩が取り扱うのは人間の心であります。フフフッ!ハハハハハハハハッ。此岸に生きる者は皆、老いも若きも男も女も心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの心の隙間を埋めてみせましょう。いえ、お金は一円もいただくつもりはありません。クライアントの皆様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます・・・」
芥川の助手の牧田マリアは、少しあきれ顔で言った。
マリア「芥川先生。今度は何の動画を撮っているんですか?」
芥川「YouTubeの霊能探偵・芥川九郎チャンネルのPR動画だよ。」
マリア「PRはいいんですけど、お金を一円ももらわなかったら事務所の経営的にまずいんじゃないですか?」
芥川「僕は霊能探偵を、お金のためにやっているわけではないからね。僕の戸籍上の年齢はとうに60歳を超えているから、実はもう年金を受給しているんだ。」
マリア「まぁ、先生がそうおっしゃるなら、何も言うことはありませんけど・・・」
芥川は狂気の霊能探偵・夢野長政との死闘の末に、夢野の送還魔法によって魔界へ落とされてしまった。彼は5年間、魔界をさまよってから、人間界へ帰還することができた。しかし、驚くべきことに人間界では30年もの月日が流れていたのだ。

第2章 恋(?)に破れ、全てを失った叶さん

 芥川とマリアがそんな話をしていると、暗い顔をした男が事務所を訪れた。
叶「ごめんください。芥川先生はお見えでしょうか?」
マリア「先生!お客様ですよ。今日は午後から、相談の予約が入っていました。」
芥川「あぁ、叶さんだね。どうぞお入りください。」
叶「こんにちは。失礼いたします。」
マリア「こんにちは。どうぞお掛けください。」
叶はマリアに勧められたイスに腰かけた。助手の能年(鎧)がコーヒーを3人分、運んできた。能年は鎧の妖怪である。芥川の助手として、彼の事務所に住み込みで働いている。
芥川「ありがとう。いただきます。」
マリア「能年さん。いつもありがとう。」
叶「ありがとうございます。いただきます。」
能年(鎧)はお盆を片付けると、事務所の隅にある机のイスに座った。
 三人はそれぞれ、熱いコーヒーを一口すすってから話し始めた。
芥川「叶さんのご相談は、インターネット・キャバクラの女性に貢いだ末に、お金が無くなったら捨てられたというお話でしたよね?」
叶「・・・インターネット・キャバクラではなくて、ライブ配信です。いわゆるライバーというやつです。」
マリア「ライバーの女性に騙されたんですね。芥川先生。ロマンス詐欺はれっきとした犯罪ですよ。」
芥川「ロマンス詐欺は確かに犯罪だけど、そんな簡単な問題ではないと思うよ。ライバーのやり口がロマンス詐欺に該当するかどうか、検討の余地があるんだろうね。」

第3章 必殺・呪いの秘法

 叶はコーヒーを一口飲んでから言った。
叶「警察は民事不介入が原則ですから。ちなみに、詐欺罪の立証は困難だそうです。弁護士にも相談しましたが、民事裁判でお金を回収できるかどうかは保証できないと言われました。こんなことになるとは思っていませんでしたから、証拠と言われても・・・」
マリア「法的に打てる手がないんですね。」
叶「伝説の霊能探偵である芥川先生は、法で裁けない悪人を何人も葬ってきたとか・・・」
芥川「叶さん。ドラマや映画の見すぎですよ。私は必殺仕事人ではありません。」
マリア「叶さんはそのライバーに復讐したいんですね。でも、復讐しても自分が不幸になるだけですよ。」
叶「それでもかまいません!このままでは腹の虫が・・・いえ。そんなレベルの話ではないんです!!」
芥川「分かりました。叶さんがそこまで思い詰めていて、その覚悟があるのでしたら、お教えいたしましょう。とっておきの、呪いの秘法を・・・」
マリア「先生。呪いの秘法って・・・」
叶「芥川先生!ぜひ教えてください!!あの女を呪い殺せるものなら・・・私の人生を懸けて・・・この命と引き換えにしてでもかまいません!!!」
芥川「・・・分かりました。ですが決して、忘れないでください。結局、人を呪わば穴二つなのです。」
マリア「・・・・・・」

第4章 人の悪意と因果応報

 こうして芥川から呪いの秘法を教授された叶は、芥川に礼を言って帰っていった。マリアは心配そうな顔で芥川に聞いた。
マリア「先生。叶さんに呪いの秘法を教えてしまって、本当によかったんでしょうか?」
芥川は笑って彼女に答えた。
芥川「ハハハッ。大丈夫!呪いの秘法なんて全部、でたらめだよ。非能力者が他人を呪い殺せるような秘法、あるわけないだろう。」
マリア「えっ!芥川先生は叶さんをだましたんですか?それはそれでひどいような・・・」
芥川「そのライバーはそのうち、勝手に自滅すると思うよ。叶さん以外にも、彼女を憎んでいる男は大勢いるだろう。」
マリア「まぁ、そうでしょうけど。」
芥川「僕はチープな倫理観や薄っぺらい道徳論を語っているわけではないよ。マリアさん。この世で一番恐ろしいものは何ですか?」
マリア「日本では昔から、地震、雷、火事、親父と言われてきましたけど・・・自然の脅威の前に、人間はあまりにも無力です。芥川先生。悪い人間には天罰が下るとおっしゃりたいんですか?」
芥川「逆だよ。この世で一番恐ろしいものは、人間の悪意だと僕は思う。自然災害は確率的に予測できる。しかし、悪意に満ちた人間が何をやるか、予測することは困難だ。」

第5章 確率・統計で制御できない事象

 マリアは思案気な表情で言った。
マリア「たくさんの男をだましたライバーはいずれ、彼らの悪意によって復讐される・・・」
芥川は冷めたコーヒーを飲み干してから言った。
芥川「とある統計学者の『統計学が最強の学問である』という本が昔、ベストセラーになったことがある。逆から言えば、確率・統計で制御できない事象が一番、恐ろしいと僕は思うんだけどね。」
マリア「叶さんが芥川先生にだまされたと知ったら、先生は叶さんの悪意を受けることになりますよ。」
芥川「ハハハッ。だから僕は、叶さんからお金は取らなかったんだよ・・・我輩は名古屋の霊能探偵・芥川九郎。吾輩が取り扱うのは人間の心。此岸に生きる者は皆、老いも若きも男も女も心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの心の隙間を埋めてみせましょう。いえ、お金は一円もいただくつもりはありません。クライアントの皆様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。」
マリア「・・・・・・」
 マリアは残りのコーヒーを飲み干すと、3つのコーヒーカップを洗って片付けた。助手の能年(鎧)はいつの間にか居眠りをしていて、コックリコックリと規則的に舟を漕いでいる。窓から差し込む陽光は、叶が来た時よりも大分長くなっていた。あと少しすれば、この西日も夕日に変わるのだろう。

霊能探偵・芥川九郎のZファイル(3)【叶さんの屈辱編】

霊能探偵・芥川九郎のZファイル(3)【叶さんの屈辱編】

「叶さんがそこまで思い詰めていて、その覚悟があるのでしたら、お教えいたしましょう。とっておきの、呪いの秘法を・・・」 霊能探偵・芥川のもとに持ち込まれた今回の相談は、ライブ配信の女性ライバーに全財産を貢がされた男の復讐だった。 警察も弁護士も頼れない絶望の中、芥川が授けた「呪いの秘法」とは・・・ 芥川が人間の悪意と因果応報について持論を語る、お気楽オカルトコメディ第3弾!

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-26

CC BY
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  1. 第1章 笑う霊能探偵
  2. 第2章 恋(?)に破れ、全てを失った叶さん
  3. 第3章 必殺・呪いの秘法
  4. 第4章 人の悪意と因果応報
  5. 第5章 確率・統計で制御できない事象