映画『チルド』レビュー

 染谷将太さん演じる主人公が商品棚に陳列されているサラダ用チキンを眺めている。構図としては全く同じなのに、OPとEDで見せる顔がまるで違うというのが全てを物語っていました。
 最初はただの無関心。父親が経営する店舗で、いつかは俺が継ぐんだって感じで日々を無難にやり過ごす。来店するお客も、共に働く店員もどっかおかしくてめんどくせぇ奴らだし、まともに相手するのがバカらしい。
 立ち位置は、だから常にフラット。どの関係性も等距離。そのお陰で(せいで?)、自分の発言をきっかけに店長がバックヤードで首吊り自殺しても「なんで死んじゃったんだろう」って疑問を素直に口にできるし、飛び降り自殺の現場に遭遇して、性格最悪な同僚がそれに巻き込まれて死んじゃっても、普通でいられる。穴が空いたシフト以外に問題は認められない。
 それが段々と変わっていったのは、唐田えりかさん演じる新人のバイトが入ってきてから。今まで自分がスルーしてきたあれこれにいちいち立ち止まる彼女は、その全部に疑問を呈して、意見をいう。観客の目から見て劇中、最もマトモと思える感性に影響されて、コンビニでの日々がイカれたもののように感じ出す主人公が、偶然の助けも借りて彼女と意気投合。お互いの夢も語っちゃったりして、最も人間的に好感を持てるキャラクターに変貌していく。選んだ分岐の先に、最悪のバッドエンドが待っているとも知らずに。
 店員から見て環境の全てだと思えるコンビニエンスストアは、しかしながらフランチャイズ制の元で統括管理される一店舗に過ぎず、売り上げに関して突き上げをくらう毎日を送っている。チェーン展開するファミリーレストラン、少子化で生徒の確保に苦慮する美容専門学校といった他業種においても、背骨のように貫かれる経営合理性の湾曲を発見できる。その世界で尊ばれる効率性は、マッチングアプリとかプライベートな領域でもその本領を発揮し、テンプレに塗れた居酒屋での駄弁りにもすっかり慣れ親しんでしまう。矯正教化。個性なんか持っちゃいけない。僕や私を自由にしてはいけない。そうなってしまえば、自分を含めて、死ぬか殺すかの二択を迫られることになる。みんなそうやって命を落とした。それをしっかりと目にして、見過ごしてきたのに。失敗した。大失敗。
 端的に指摘すれば、真空パックされたサラダ用のチキンは確かに食用の鶏の死骸で、だからこそ死んだも同然に生きている彼の最後と激しく共鳴する。いつかの自分と変わらないように、レジに立ててしまう彼の心は間違いなく絶命している。その姿から振り返ると、オーナーや元店長の末路は最後の最後に自分を取り戻した断末魔で、それゆえに、もうそこでは生きられないと悟った自我の現れだったのだと理解できる。できてしまう。そこに教訓なんてありません。撮られた悲劇があるのみです。
 インターホンの画面もミニスクリーンに見立てる最高のセンスで、切り裂く現代。それらを身に纏って踊り狂う突き抜けたビジョン。ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞したのも納得です。染谷将太さんの演技も抜群。表情だけで主人公の天国と地獄を観客に届けてみせる。令和ロマンのくるまさんにも最高にムカついたし、嫌いになれた。見逃し厳禁の一作です。興味がある方は是非。

映画『チルド』レビュー

映画『チルド』レビュー

①観る気を失いかねない盛大なネタバレを含んでいます。事前情報なしに鑑賞したい方はご注意下さい。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-23

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