XY

 今朝、奇妙な夢を見た。明日の健診で赤ちゃんの性別がわかるかもしれないとドキドキして寝たからかもしれない。私は夢の中でも妊婦で、夢を見ている自覚があり、かつ二百年くらい未来の世界にいた。
 こんな世界だ。
 Y染色体の脆弱化により男が淘汰され、女だけになった世界。女たちは、万能細胞から精子を造る技術によって再生産し、かろうじて生き残っていた。XXの細胞から造る精子だから性染色体は百パーセントX、つまりは女子しか生まれてこないのである。
 それでも女たちは恋に恋していた。女性のパートナーを持ち、互いに自分の細胞から造った精子を交換して、それぞれに妊娠する。彼女たちも生理やつわりには苦しむが、男がいないからなぜ女だけがという不公平感もないのだった。
 お産は無痛分娩か帝王切開が普通で、出産を神聖視する一部のカルト信者だけが相変わらず自然分娩に挑み、二世三世にも自然分娩を強要したりして社会問題になっていた。まともではない「闇」の産院で産むうえ、女性の陣痛に対する耐性自体が退化しているためにむしろ危険なお産になり、しばしば死ぬからだった。「野蛮な」自然分娩などしない多数派の女性たちは、無痛分娩でも安全に健康な女児を出産していた。彼女たちに向かって無痛分娩についての懸念など口にしたら、私は完全にヤバい奴だと思われただろう。
 「男」は、もはやBLの中にしか存在しないファンタジーなのだった。彼女たちにとっては男も男同士で恋愛する方が自然に思われ、男女の恋愛モノというのは逆にサブカルチャーとして扱われているようだった。
 そんな未来に紛れ込んだ私は、六か月の妊婦健診のために大きな病院の産科を訪れているのである。お腹の上からエコーを当てた担当医師は、なぜだか私があり得ない方法で妊娠したことを見抜いた。あり得ない、つまり、人工ではない、天然モノの精子によって妊娠したことを。
 その医師は、実は密かに男を創造しようとY染色体の合成を試みているマッドサイエンティストだった。女たちだけで完結しているその平和な世界では、男性を復活させようというのは危険すぎる思想だった。いうなれば恐竜を蘇らせて市中に放つようなことだろうか。私は分娩予約の説明をすると騙されて拉致され、お腹の子の「父」──人工精子の提供者を父と呼ぶ彼女たちにとっては信じがたい、「男性の」父親──は何者でどこにいるのか、と尋問を受ける……。

 そこで目が覚めた。汗をびっしょりかいていた。隣ではどこも具合の悪くない旦那がぐうぐうといびきをかいて寝ていた。カーテンの外は薄らと白けていた。
 妊娠中はよく悪夢を見るというが、悪夢にしても奇妙な悪夢だった──。だいぶしっかりと膨らんだお腹を出して現実の病院のベッドに横たわりながら、ぼんやりと考えていた。
 黒白の画面には、もう全体像は収まらないほど大きく成長した胎児の影が映っている。
 「男の子ですねえ」
 現実の女性担当医の穏やかで優しい声が聞こえた。首をひねって画面を見上げる私も同時に、ああ、男の子だ、と思った。本音をいうと、女の子のママになるのが夢だった。
 旦那に「男の子みたいだよ」とメールを打ちながら、今朝見た夢をもう一度思い出した。帰る道々、夢の意味を考えてしまった。

XY

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奇妙な夢

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-19

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