かしこ淵

かしこ淵
〜昔、男が湖畔で昼寝をしていると蜘蛛が足に糸を巻きつけていることに気づいた。
男は不思議に思いながらも、蜘蛛の糸を木に付け替えた。
すると、糸を付け替えた木が湖のそこに引き込まれ、湖の底からは「かしこい、かしこい」と聞こえてきたそうな。〜



ゴールデンウィーク明け、久しぶりにあった友人は手を三角巾でつっていた。

「お前、どうしたんだよその手」
その痛々しい姿に思わず聞くと
「あぁ、これ?」
「…実は階段から落ちちゃって」
と言った。

何でも2週間ほど前、階段を降りている時に足元を何かに引っ掛け、そのまま階段から滑落し骨折してしまった、とのことだった。

足。

そう言えば友人はゴールデンウィーク前、やたらと足首の辺りを払うような動作をしていた。
そのことを指摘したら、
「この前釣りに行ってから、なんか足首あたりが気持ちわりぃんだよな」
と言っていた。

今回のこともあって、そのことが気にかかった俺はそれとなくその話を振ってみた。

すると友人は
信じられないかもしれないが、と前置きをしたうえで話始めた。

なんでも新しい釣具を買った友人は、さっそく使い心地を試すために川釣りに行ったそうだ。

新しい釣具の効果かその日はまさに入れ食い状態であったそうで、飯を食べるのも忘れて釣りをし続けた。

そうして持ってきたクーラーボックスが満杯になり、そろそろ帰ろうとなった時に足に蜘蛛がついていたことに気づいたそうだ。

普段見ないような大きな蜘蛛であった。

友人はその大きさに少々驚きながらも、虫には苦手意識はなかったのでその蜘蛛を追い払うと帰路についた。

異変はその日の夜から始まった。
足首がどうにも気になる。
最初はふとした瞬間に何かがついていると感じる程度だった。
だが、手で払っても何もついていない。
不思議には思うが別段気にする程度でもないと思っていた。
しかし日に日に足の違和感は強くなっていき、階段から滑落した日の朝には何かが強く巻き付いているような不快感を感じるまでになっていた。

そうして滑落だ。

流石にこれは無関係とは思えないと友人は近所の神社に相談に行ったのだそうだ。
そこで対応してくれた神主は友人の話を黙って聞くと、
「その蜘蛛が貴方の足に糸をまとわりつかせているのかもしれませんね。」
と言うと、友人に足首と同じ程度の太さの木の棒を渡し、これに貴方の足から糸を移しなさいと言ってきたそうだ。
足首から木の棒に糸を移す動きをした友人を見て神主は一つ頷くと何事か祝詞のようなものを唱えると「これで大丈夫なはずですが、もし何かあったらまた来なさい」と言われ帰路についた。

「確かに、その後から足の違和感は消えたんだよね。だから、もう大丈夫だと思うんだ。」
と語る友人の手は、しきりに自分の首を気にするように触っていた。

〈了〉

かしこ淵

かしこ淵

昔話「かしこ淵」に着想を得た創作怪談です。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-18

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