霊能探偵・芥川九郎のXファイル(75)【大魔獣・リヴァイアサン編】
第1章 御在所岳の魔界トンネル
名古屋の霊能探偵・芥川九郎は、事務所で友人の牧田と話していた。彼の事務所は中区にあって立地はよいが、古びたビルの一室に過ぎない。
牧田「芥川君。体の調子は大丈夫かい?」
芥川「うん。まぁ、なんとか。」
芥川は先日、牧田と共に三重の御在所岳に行き、魔界トンネルの調査をしてきた。
牧田「まさか、魔界トンネルの中に迷い込むことになるとは思わなかったよ。」
芥川「おまけに魔界の大魔道士に遭遇するんだから、本当に運が悪かった。」
牧田「桃井さんの割り箸手裏剣が全く効かないんだから、もうダメかと思ったよ。」
桃井は最近まで、伊賀の山奥で修行していた霊能忍者である。伊賀市の忍者認定試験に落第したのを機に、名古屋へ引っ越して市内の予備校で勉強している。桃井が霊力を込めて投げる割り箸手裏剣は、熊を射殺できるだけの威力がある。
芥川「大魔道士が唱えた防御魔法は、魔力のバリアで攻撃を跳ね返した。桃井さんの手裏剣の威力は彼女の霊力が源泉だから、相性が悪かったんだろうね。」
牧田「芥川君のフィンガー霊丸ボムズのおかげで助かったけど、あれは体に負担がかかるんだろう?」
芥川「うん。僕は特に、心臓が悪いからね。こんな調子では長生きできないだろうなぁ。60歳前後で、心疾患か脳卒中で死ぬかもしれない。」
第2章 芥川の人生論
牧田は心配そうな顔で芥川に聞いた。
牧田「病院に行った方がいいと思うよ。」
芥川「必要ないさ。確かに健康は大切だけど。人生、長生きが目的ではないよ。」
牧田「そうかなぁ。早死したい人間はいないだろう。みんな長生きしたいと思って、生きているんじゃないかな。」
芥川「例えば60歳まで生きたとして、生まれてから60年、成人してから40年も生きてきたことになる。40年間、真剣に生きてきたなら、何も思い残すことなどないだろう。」
牧田「寿命が伸びているから、60歳はまだまだ若いよ。」
芥川「逆に、40年間も生きてきて、心残りがあるからまだ死にたくないと言う人間は一体、40年間、何をしてきたんだろうね?」
牧田「・・・芥川君の人生論は、それはそれで立派なものだと思うけど、あまり他人に話さない方がいいよ。」
二人がそんな話をしていると、事務所に不思議な雰囲気の男がやって来た。
夢野「ここが芥川君の事務所か。こんにちは。おじゃまします。」
牧田「芥川君、誰か来たよ。お客様だ。」
芥川「びっくりした!噂の夢野先生がお出ましだ。」
牧田「夢野って・・・あの夢野さんかい?」
夢野長政は福岡の霊能探偵である。彼が魔界トンネルの開通実験を繰り返しているという、不穏な噂があるのだ。
第3章 福岡の霊能探偵・夢野長政
部屋の隅にある机のイスに座って本を読んでいた能年(鎧)は立ち上がり、コーヒーを淹れる準備を始めた。能年は鎧の妖怪である。芥川の助手として、彼の事務所に住み込みで働いている。芥川は夢野に向かって言った。
芥川「夢野さん。お久しぶりです。どうぞお掛けください。」
夢野「うん。ありがとう。」
夢野は芥川に勧められたイスに座った。
芥川「彼は私の友人の牧田君です。」
牧田「はじめまして、牧田です。よろしくお願いします。」
夢野「こちらこそよろしくお願いします。」
芥川「夢野さん。福岡から遠路はるばる名古屋まで、お疲れではないですか?」
夢野「いや。私は研究のために、全国各地を飛び回っているからね。名古屋にも時々来るから、いつか君の事務所に顔を出したいとは思っていたんだよ。」
能年(鎧)が3人分のコーヒーを運んできた。
芥川「能年君、ありがとう。」
牧田「ありがとう。いつも悪いね。」
夢野「いただきます。ありがとう。」
三人はそれぞれ、淹れたての熱いコーヒーをすすった。芥川は単刀直入に夢野を問い質した。
芥川「夢野さんの悪い噂が、名古屋の私のところまで届いていますよ。」
夢野「あぁ、あの噂か。否定はしないよ。事実だ。」
牧田「霊能探偵である夢野先生が、なんでまたそんなことをしているんですか?素人から見ても、危険な行為だと分かります。」
第4章 大魔獣・リヴァイアサン
夢野は熱いコーヒーを一口飲んでから、しばらく黙っていた。やがて重い口を開いてつぶやいた。
夢野「人間五十年・・・」
牧田「・・・?」
芥川「下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり・・・ですか。」
夢野「芥川君は大魔獣・リヴァイアサンを知っているかい?」
芥川「伝説の魔獣ですね。特級の召喚魔法でも呼び出せない、超ド級の大魔獣・・・」
夢野「それが単なる伝説ではなく、魔界に実在するとしたら・・・見てみたいだろう、死ぬ前に。」
牧田「死ぬ前にって・・・夢野先生。ご病気なんですか?死を思うほどの。」
夢野「それはきっかけに過ぎない。私は夢を実現する。そのためには、もっともっと大きな魔界トンネルを開く必要がある・・・」
芥川「夢野さん。非常に危険ですから、やめた方が良いですよ。私は理解も協力もできません。」
夢野「無論、独りでやるさ。人は皆、一人で生まれて、独りで死ぬのさ。」
牧田「・・・・・・」
議論が終わると、夢野は残りのコーヒーを飲み干した。それから別れのあいさつを言うと、事務所を出ていった。
牧田「芥川君。大変な話を聞いてしまったね・・・」
芥川「牧田君。彼の目を見たかい?彼は今まさに、狂気と正気の狭間にいるんだよ。」
牧田「どうするんだい?夢野先生を止めないと・・・」
芥川「そうは言っても、彼をずっと尾行・監視することはできないよ。」
芥川は冷めたコーヒーを飲み干すと、腕を組んで思い悩んでいた。
霊能探偵・芥川九郎のXファイル(75)【大魔獣・リヴァイアサン編】