霊能探偵・芥川九郎のXファイル(73)【夢野長政編】
第1章 夏目半兵衛の訪問
霊能探偵・芥川九郎は、中区の事務所で友人の牧田と話していた。中区にあると言っても、古びたビルの一室に過ぎないのだが。
牧田「今日、滋賀の夏目先生がまた来るんだろう?」
夏目半兵衛は滋賀の法術師である。芥川が松山時代に切磋琢磨した旧友だ。
芥川「そうなんだよ。彼は関西の長老どもの指示により、東京まで行って大谷代表や小室先生に会ってきたそうだよ。」
バーニング大谷は東京の能力者である。彼は異種能力者団体・スネークヘッドを立ち上げ、芥川を名古屋支部長にスカウトしたという経緯がある。ちなみに、スネークヘッドの目的は、既得権益やしがらみで機能不全の既存団体を改革することだ。
牧田「小室博士は芥川君が私淑する、天才博士だよね。」
小室景勝は各種分野に精通する、異能の霊能博士である。過去に禁忌の秘術を実験するために、魔界トンネルを開通させたことがある。そのことを学会で糾弾され、引退したという経緯がある。
芥川「小室先生はとっくの昔に引退して、今は東京で悠々自適の隠居暮らしをしているはずなんだけど・・・夏目君は何か、おもしろい情報を聞き出すことができたのかな?」
二人がそんな会話をしていると、助手の能年(鎧)がコーヒーを淹れる準備を始めた。能年は鎧の妖怪で、芥川の事務所に住み込みで働いている。
牧田「そろそろ約束の時間かい?」
芥川「うん。もう来るだろう。」
第2章 夏目がつかんだ情報
夏目半兵衛は時間通りにやって来た。
夏目「こんにちは。お久しぶりです。」
芥川「こんにちは。いらっしゃい。」
牧田「こんにちは。お久しぶりです。どうぞお掛けください。」
夏目は牧田に勧められたイスに腰掛けた。能年(鎧)が3人分のコーヒーをゆっくり運んできた。
芥川「能年君。ありがとう。」
牧田「ありがとう。いつも悪いね。」
夏目「ありがとう。いただきます。」
三人は淹れたての熱いコーヒーを一口すすってから、話し始めた。
芥川「スネークヘッドの実態調査のために、本当に東京まで行ったそうだね。」
夏目「えぇ。一応、関西霊能学会からの正式な調査依頼ですから。」
牧田「大谷代表はお元気でしたか?」
夏目「はい。相変わらずです。スネークヘッドの趣旨を熱心に語ってくれました。」
芥川「君がわざわざここまで来て、情報を共有してくれるんだから、何かおもしろい情報をつかんだんだろう?」
夏目「うん。小室博士から興味深いお話を聞いたよ。」
芥川「小室先生は引退して、悠々自適の隠居暮らしをしているはずだ。一体、どんな情報を持っていると言うんだい?」
夏目「確かに昔と比べれば随分、お年を召したけれど、まだまだお元気ですよ。」
第3章 福岡の霊能探偵・夢野長政
芥川は熱いコーヒーを一口すすった。夏目と牧田もコーヒーを一口すすってから、会話を続けた。
牧田「小室博士は一体、どんなお話をされたんですか?」
夏目「小室博士は一時期、下手な芸能人よりも人気があるくらいの有名人でした。大衆向けの本を出版したり、テレビにコメンテーターとして出演したり・・・」
牧田「今でも、知る人ぞ知る霊能博士ですよね。」
芥川「彼に影響された能力者も大勢いるだろう。僕が私淑しているくらいだからね。」
夏目「福岡の霊能探偵・夢野長政もその一人だ。彼が随分前に小室博士のところを訪れ、魔界トンネルについて熱心に議論したそうなんだよ。」
牧田「魔界トンネルって・・・芥川君。」
芥川「夢野さんが、禁忌の秘術で魔界トンネルの開通実験を繰り返しているのではないか・・・というのが夏目君の推理かい?」
夏目「・・・まぁ、その可能性があるということだよ。魔界トンネルの調査をする時は、十分に注意した方がいい。彼はかなりの手練だよ。」
牧田「夏目先生はその夢野氏と、会ったことがあるんですか?」
夏目「世間は広いようで狭いですからね。特に、この業界は。」
芥川「夏目君、ありがとう。とてもおもしろい情報だ。」
夏目「さて。僕はちょっと名古屋観光をしてから、滋賀に帰るよ。それではまた!」
夏目は芥川と牧田に別れのあいさつをして、事務所を出ていった。
第4章 魔獣騒動の原因
牧田は冷めたコーヒーを飲み干してから、芥川に聞いた。
牧田「芥川君はもちろん、夢野先生のことを知っているんだろう?」
芥川「うん。いろいろな学会や勉強会で時々、顔を合わせた。特に、松山時代にね。」
牧田「そうか。松山と福岡は近いからね。」
芥川「そんなに近くはないよ。近いようで遠いんだ。飛行機なら早いけど、電車とか車だと数時間かかるからね。」
牧田「距離的には近いと思うけど。名古屋から見ると、すぐ隣で近くにあるように見えるのにね。」
芥川「広島や岡山、大阪の学会や勉強会で会うことが多かったね。たまに、僕が九州まで観光がてら行くこともあったよ。」
牧田「夏目先生は、夢野先生が魔界トンネルの開通実験を繰り返している、と疑っているようだったね。」
芥川「夏目君の勘は当たるからね。多分、そうなんじゃないかな。彼は間違いないと思っていても、断言しない性格なんだ。」
牧田「もしそうなら、最近の魔獣騒動は、夢野先生が開通した魔界トンネルが原因かもしれないね。」
芥川「なんだか、とても嫌な予感がする。単なる実験なら開通させた後に、すぐ閉じれば実害はないんだ。夢野さんは魔界トンネルを開けっ放しにして、何かやろうとしている・・・」
牧田「芥川君は、夢野先生が第二の榊原博士になる可能性があると考えているのかい?」
榊原は魔獣博士である。魔界で魔獣を研究するために悪魔と契約した狂気の研究者だ。
芥川「まだ何も分からないよ。きっと常人には理解不能な企てなんだろう・・・」
芥川は冷めたコーヒーを飲み干してから腕を組み、夏目の報告を脳内で反芻していた。
霊能探偵・芥川九郎のXファイル(73)【夢野長政編】