一反もめんは夢をみる

一反もめんは夢をみる

一反もめんたちは、〝聖域〟に守られて、長い時間を静かに暮らしてきた。しかし、畏れを忘れた人間たちが増えた現代。ある女子高生がスマホで偶然撮った写真がきっかけとなって……

 一反もめんSはまどろんでいた。
 彼の表情には疲労のあとが色濃く刻まれていた。
 普段の彼ならば、決してこんな無用心な場所で眠りこけたりはしなかっただろう。しかし、その夜の彼は、我が身に迫る危険から、あえて目を背けているようだった。すべてを頭から振りはらい、町外れの納屋のトタン屋根に消耗しきった長細い身体をビロロンと横たえ、眠りこけていた。

         *

 いやはや、大騒動の一週間だった。
 これまで数百年もの間、一反もめんたちは権現山の森の奥で、人間たちにその存在を知られることなく、静かに暮らしてきた。
 いや正確には、人間たちも彼らの気配を何とはなしに察してはいたのだろう。だからこそ一反もめんの伝承が現代にも伝わっているのだが、昔の人々というのはまことにおおらかなものだった。
 野や山、水辺などにひそむ得体の知れないもの――「物の怪」や「あやかし」などと呼ばれるものが、ごく当たり前の存在として受け入れられていた。もし、その姿を見てしまったとしても不用意に騒ぎ立てることはなかった。ごく気心の知れた者だけにひっそりと語り継ぐにとどめていた。
「あの森には、カミサマがいらっしゃる」
 人びとは畏れ――いや敬いにも通ずる気持ちを抱き、彼らの聖域を手厚く祀った。両者の間には一定の距離が保たれ、一反もめんが暮らす奥山の環境は、そっと穏やかに守られてきたのだ。
 ところが科学万能と開発優先の現代社会は、彼らの存在を完全に否定し、畏怖する心さえ、どこかへ追いやってしまった。
 『いるはずがない』とされる彼らのためにわざわざサンクチュアリを残す行為――それは、迷信めいた非合理な行いと見なされ、生産的な土地利用の観点からも、もはや許されなくなった。
 そんな時代の空気を敏感に感じとった一反もめんたちは、以前にも増して慎重に振る舞うようになった。とにかく、人の目にだけは決して触れまいと、慎ましくひそやかに暮らしつづけてきた。
 ところが、この夏、そんな彼らの静かな暮らしを一変させる騒ぎが、にわかに持ち上がったのだ。

 事の発端は、五人の女子高校生たちがスマホで撮影した画像だった。
 一年生の彼女たちにとっては高校生活で初めての夏――入学直後の緊張感も薄れ、制服の着こなしも徐々に緩み、試しに髪をほんのちょっと染めてみたトキメキの夏。
 その日、彼女たちは、仲の良い者同士で町へ出かけ、お揃いのスマホケースを購入したばかりだった。そして、無意味にメッセージを送り合ったり、SNSで「お友だち」になったり、お気に入りのデコシールを貼りあったりしていたのだ。
 そして、この一件に関しては、一反もめんGも迂闊だったと言わざるをえない。
 彼も、山麓の児童公園のベンチに座ってにぎやかに騒ぐ女子高校生たちに気づいてはいた。しかし、一反もめんGの目には、空き地の猫や電線の雀たちが騒ぎ合っているのと、さほど大差なく映った。
 もともと一反もめんGには人間全般を見下すような癖があった。
「人間なぞ、野生的な観察力がもっとも衰えた種族だ」
 そんな人間たちの中でも、群れをなした高校生や中学生を、もっとも注意力が散漫なカテゴリーと位置づけていた。
 実際、大胆で冒険心の強い一反もめんGは、過去にも何度か女子高校生の集団に接近を試みたことがあった。
 しかし、一度たりとも見つかったためしが無いばかりか、気配に感づかれたことすらなかった。彼女たちには、関心のある事物以外への感受性が決定的に欠けているようだった。そして、なぜか集団になると、自分たちの内輪の世界しか目に入らなくなるという特殊な視野を持っているとしか思えなかった。
 だから、一反もめんGも、ついつい油断し、彼女らの背後の空をひらひら漂いながら悠然と横切った。
「どうせ、気づく者などおらぬて」
 一反もめんGがタカをくくったとおり、確かにその場で彼女らに見つかることはなかった。
 しかし、彼の誤算は、現代の携帯電話やスマホにカメラ機能が付いていることを知らなかったことにつきる。
 文明の利器の危険性については、一反もめんたちも十分に認識してきたつもりである。
 幕末の頃に写真機というものが西洋からもたらされたときも、昭和の後半に家庭用のビデオカメラなるものが普及しはじめたときも、彼らはいち早く情報を収集し、学習会をおこなった。そして、自分たちが撮影され、記録されることを避けるための心構えを一族で共有してきたのだ。
 最近も、自動車に装着されることが増えたドライブレコーダーの危険性について学び合ったばかりだ。
 しかし、携帯電話やスマホにカメラ機能が付いているなんて、一反もめんGに言わせれば、これはもう反則技もいいところだった。
「電話機ってものはそもそも、おしゃべりするためのものだろう!」
 彼はそう叫んで抗議したいような気分だった。

 その後、その場にいた女子高校生の一人が大学生の彼氏に共有した画像が、騒ぎを巻き起こす引き金となった。それは仲良し五人組があの公園で撮り合った写真の一枚だった。
 彼氏は自分のスマホ画面に映し出された恋人の画像を眺めているうちに、ふと背景の空に妙な物体が漂っていることに気づいた。
「ん? 何だ、このヒラヒラしたものは」
 彼氏は、問題の部分をズームアップして注意深く見つめた。
 謎の物体は、わずかに黄みがかった白い色をしており、平べったくて、ビロビローンと間延びした外見をしている。トイレットペーパーが風にあおられて飛ばされているように見えなくもない。その姿は、ひどく長く細く、先のほうには、ややつりあがり気味のつぶらな目らしきものが二つ付いている。
「こりゃあ、もしかして……」
 さっそく彼氏は、地元のテレビ局に勤める知り合いへ、その画像を送った。
 テレビ局内でも、写真はちょっとした話題となり、午後のローカル情報番組で取り上げられることになった。
 にやけた司会者がゲストコメンテーターたちを相手に、おもしろおかしくその画像を紹介する。
「おやおやおや、ある視聴者から、こんな写真が送られてきましたよ。スマホで撮った画像を拡大したものですから少々不鮮明なのは仕方がないとして、もう少しうまく撮れなかったものですかね……。それはそうと、ここに確かに妙なものが写っています。うーむ、こりゃあ一体何でしょう」
 それに対し、視聴者から素早い反応がメールやSNSで番組に寄せられた。そのいくつかが番組の中で紹介される。
『これはどう見ても、一反もめんでしょう!』
『うちの子どもたちは、ひと目見ただけで、一反もめんだ、と言いました』
『一反もめんが、ホントにこの世に存在したなんてステキです♡』
 一反もめんは、人気のある妖怪アニメのおかげで、その名と姿を人間たちにも広く知られる存在となっていた。
 ただし、コメンテーターとして番組に登場した写真の専門家や大学教授、タレントたちは「光の加減で雲がこういう写りかたをしているだけです」とか、「布を適当に加工して撮ったのでしょう。いたずらに決まっていますよ」とか、「いやいやAIで作り上げたフェイク画像でしょう。こんなもの誰でも作れます」などと言って、一様に一反もめん説を否定した。

 これだけで騒ぎがおさまれば大した問題にもならなかったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
 現代社会は、論理的かつ科学的に説明のつかない現象や存在を許さなくなった反面、マニア的・狂信的ともいえるほど過剰にオカルトにはまる人々をも数多く生み出していた。
 一反もめんGの画像は、たちまち画像投稿サイトや、各種SNS、ブログでも話題となり、その結果、自称民俗学者や妖怪研究家、モノ好きたちが大挙して権現山に集結してきたのだ。
 もともと権現山は、そんなに大きな山ではない。標高も三百メートルそこそこ、誰だって簡単に登れてしまうこぢんまりとした山だ。住民が少ない地域であり、かつ神域として人の立ち入りも頻繁ではなかったからこそ、一反もめんたちも、安心して小さな聖域の中に身を潜めてこられたのだ。そこへ多くの人々が山狩り同然の勢いで押し寄せてくれば、彼らのコミュニティはひとたまりもなかった。

 一反もめんたちは確かに妖怪だし、お化けともいえるものだが、そもそも何か特殊な能力を秘めているわけではない。
 姿を消すこともできないし、化けることもできない。ましてや、呪いや祟りといった恐ろしげな魔力を駆使して人間どもを懲らしめるなど、まったくもってできない。かろうじてできることといえば、ひらひらと飛びまわるくらいのものである。
 それに、彼らは肉体的に極めて非力だった。人間でいえば五歳児、いや三歳児にさえ劣る腕力しかなかった。妖怪アニメに登場する一反もめんのように、敵をぐるぐると締め上げてやっつけるという必殺技も、残念ながら持ち合わせていなかった。
 もはや彼らには、夜陰にまぎれて権現山からひっそり逃れるという道しか残されていなかった。一族の新たな安息地を求めて、未知の土地へ活路を見出す――その可能性に賭けるべきだったのだろう。
 しかし、一反もめんたちには、先祖代々住み慣れた故郷から落ち延びてまで生き抜こうという意欲が欠けていた。心機一転、新天地を切り開こうという気概も乏しかった。逃避行という最後の手段すら実行に移す決断ができないまま、ただお互い困惑した表情で見つめ合い、まごまごしているだけだった。
 そうこうするうちに、人間たちはかすみ網や魚網、はたまたお子様用の捕虫網やとりもちなどを手に、どしどしと山に分け入ってきた。その荒っぽい行為の中には、自然を崇拝する心も霊的存在への敬意も、もはや一かけらも見当たらなかった。
 そして人間たちは、木々の洞や斜面の横穴に無防備に潜んでいた一反もめんたちをたちまち見つけ出し、あちこちで大捕り物が繰り広げられることとなった。

 この騒ぎの発端となる軽率な行動をした一反もめんGは、捕らえられたのち都会のデパートへ連れて行かれ、懸垂幕に仕立て上げられてしまった。
 『お世話になったあの人に お中元ギフト・コーナー開設中!』と体いっぱいにデカデカと文字を書かれ、『売り尽くし 夏のクリアランスセール』の懸垂幕と並んで駅前の大きなビルディングの壁面に吊り下げられた。そして、宣伝担当者の指示に従い、定期的に繁華街の上空をひらひらと飛び回るパフォーマンスをさせられる羽目になった。

 一反もめんGの父方の従兄にあたる一反もめんHは、身体を真っ黒に染め上げられ、高名なマジシャンのイリュージョン・ショーを手伝わされることになった。
 夜空に明るく浮かび上がるお台場の自由の女神像。それが、マジシャンの掛け声とともに一瞬にして闇に溶け込むように消え去り、満場の観衆は一斉に「おおっ」とどよめく。
 しかし、なんのことはない。
 真っ黒になった一反もめんHが像をくるりと覆い隠しているだけなのである。

 もっとも気の毒な境遇に陥ったのは、一反もめんRだろう。
 彼は、南方の海で働く漁師のもとに引き取られた。
 漁師の暮らす港町の沖合いは巨大で狂暴な鮫がうようよと棲息していた。万が一、海に落っこちでもしたら命にかかわる海域なのだ。
 しかし当地では古くから、鮫は自分の体長よりも長い相手を襲わないと固く信じられており、漁師たちはこぞって鮫よけの長い赤ふんどしを締めていた。
 そして事もあろうに、誰が気づいたのやら、誰が言いだしたのやら、一反もめんRがこのふんどしにぴったりではないかと判断され、真っ赤に染め上げられてしまったのである。
 以来、毎朝「よっしゃ、今日も頼むでぇ。何かあったら、おいどんをしっかり守ってくれよぉ」としわがれ声で発破をかけられながら、漁師のおっちゃんの腰まわりの大切なところに着用される運命を背負い込むことになったのだ。

 一反もめんSは、今までのところ何とか逃げのびることに成功していた。
 Sは一族の中でもひときわすばしっこく、幼い頃から、いたずらが露見しようが、つまみ食いがばれようが、捕まったためしがない。ぎゅっとわしづかみにされようとも、強引に押さえ込まれようとも、つかみどころがなく、ぬらりくらりとかわしてしまう。その天性の逃げの妙技ゆえ、仲間うちでは「ウナギもめんのS」との異名で呼ばれていた。
 そんな特技が功を奏して、一反もめんSは人間どもの網や罠をことごとくすり抜けてこられたのだ。
 しかし裏を返せば、人間どものターゲットが自分より鈍重な友人たちに向けられている隙に、自分だけスルリスルリと逃げてきた結果とも言える。
 友人たちは捕まる間際に、こう叫んだものだ。
「一反もめんSよ、我らの希望、ウナギもめんのSよ。さあ、君だけでも逃げてくれたまえ。一反もめん族の未来のために」
 しかし、うまく逃げ延びたことは果たして誇れるのか。仲間が次々と捕らえられるたび、Sの胸には、友を見捨てて逃げおおせたという、やましさがじわりじわりと積み重なっていった。
 特に南国の海へ連れて行かれた一反もめんRの境遇を思うと、胸が締めつけられた。一反もめんRとは、三百八十年前にこの世に生をうけて以来、兄弟同然に育ってきた幼馴染みだった。
 彼は今、どうしているだろう。
 何を考えているだろう。
 人間どもは鮫よけの迷信を信じているかもしれないが、一反もめんたちは、赤ふんどしにそんな効能も効果もないことを知っていた。
 もし鮫が鋭い歯をむきだして襲いかかってきたら、ひとたまりもなかろう。もちろん、赤ふんどしにされている一反もめんRも無事ではすむまい。きっと今日も、おっちゃんの腰まわりに括り付けられながら、恐怖に震えているに違いない。

         *

 その夜は美しい星空が広がっていた。澄んだ空気の向こうに、天の川が手に届きそうなきらめきを放っていた。
 緩い傾斜のトタン屋根に寝そべり、星空を見上げながら、一反もめんSはそろそろ人間の手に落ちたあとの身の振り方を考えねばならぬと思った。
 動きの鈍い者たちが一通り捕まってしまった今となっては、人間どもの次なるターゲットが自分に向けられるのは自然の成り行きだった。遅かれ早かれ、自分は捕まるだろう。そうなった場合、いったいどんな転進をはかるべきだろうか。
 考えるうちに、一反もめんSは次第に眠りの世界へ引き込まれていった。
 自身に迫る危険を顧みなかったわけでも、無力感から自暴自棄になってしまったわけでもない。しかし、彼ももう体力と気力の限界だった。抗いようもない眠りの温もりの中へ、どうしようもなく落ちていったのだ。

 そんな彼に、音もなく近づく小さな影がいくつかあった。
 近所に住む悪ガキたちの一団だった。彼らはカブトムシを捕まえようと村はずれの森へ向かっていた。そして、途中の坂道で並んで立ち小便をしていたとき、一番小さな男の子が納屋の屋根にビロロロロンと張り付いている布のようなものを見つけてしまったのだ。
「ねぇ、あれ何?」
「どこかの家の物干しから風で飛ばされてきた洗濯ものじゃないか」
 悪ガキたちは、屋根の上でペラペラと風にめくれる反物に目をやった。
「でも、洗濯ものにしちゃあやたらと長くないか」
「布団のシーツにしては細すぎるし」
「ん、もしかして……」
 一人の少年がぽつりと言った。
「あれって、おばけの一反もめんじゃないのか」

 そんなこともつゆ知らず、一反もめんSは夢の世界に入り込んでいた。
 夢の中で彼は、とある染め物屋にいた。
 京都だか金沢だか知らないが、老舗らしい風格のある工房である。職工たちがきびきびと立ち働いている。
 一反もめんSは、艶やかな正絹の反物と並んで、熟練した職工の手で染め上げられるのを今か今かと待ちわびていた。
 木綿の身分で正絹と同じ扱いを受けるとは、身に余る光栄だと思った。誇らしくもあり、何だかむず痒いような照れくささも感じた。
 さあ、早く染め上げてほしい。
 自分は美しい着物に生まれ変わり、若き乙女たちの青春を彩ることになるのだ。
 どんな着物になるのだろう。
 木綿である以上、普段着か浴衣あたりで我慢せねばならないのかもしれない。ただし、そんじょそこらの安物浴衣と一緒にしてもらっては困る。このオレのことだ、きっと山の手育ちのお嬢様用の高級浴衣に仕立てられるとみて、まず間違いなかろう。
 どんな色がよいだろうか。
 華やかな赤? それとも麗しい翠? いや、夏の宵には夕闇にしっとりと溶け込む、粋な藍が似合うに違いない。
 昼のじわりとした暑さも、川辺からそよぐ夏草薫る風にやわらかく包み込まれ、清涼な風鈴の音が空気を震わせる。蛍なんかもポツリポツリと小さな灯を灯し、次第に深みを増す宵闇の中を舞い始めているかもしれない。
 一反もめんSは、深くため息をついた。
 ああ、そんな情景の中、お嬢様はこの我が身で仕立て上げられた浴衣に身を包み、想い人の待つ場所へと道を急ぐのだ――。

 場面が切り替わった。
 天井の高い部屋の中にいる。
 どこだろう?
 瀟洒な窓の外には、石造りの重厚な建物が並ぶ街路が続いている。見慣れた日本の光景ではない。
 海外の事情にさほど詳しくない一反もめんSだったが、きっと欧州のどこぞの都会に相違なかろう、と思った。
 そこで、ファッション・デザイナーとおぼしき人物の手元に一反もめんSはいた。
 彼は、ナチュラルな風合いのマフラーに仕立て上げられていた。
 デザイナーは一人の女性と向き合っている。モデルだろうか。それとも、デザイナーの恋人だろうか。
「あまり暖かそうには見えないわね、このマフラー」
 女性が、一反もめんSを見つめて言った。
「そんなことはないよ。こだわって日本産の最高級木綿素材を使っているんだ」
 デザイナーは微笑みながら、女性の首にマフラーをふわりと巻いた。「何てったって、この冬の流行は木綿の長いマフラーさ。さらりとして、暖かい部屋の中でも巻いたままでいられる」
「ああ、確かにいい肌ざわりね。まるで生きているような温もりまで感じるわ」
 そう言って、女性は一反もめんSの全身をやさしくなでた。「今度の秋冬パリ・コレクション、これを巻いて出たいわ。いいかしら」
「もちろん、そのつもりさ」
 ――パリ・コレクション。
 一反もめんSの心はときめいた。
 世界中のセレブたちの注目を集めるパリ・コレクション。新しい流行を生み出すと言われる、あのパリ・コレクション。海外の事情にとんと疎い一反もめんSでさえ、名前だけは聞いたことがあるパリ・コレクション……。
 ――それに自分は出られるのだ!
 一反もめんSの胸は張り裂けんばかりに高鳴った。
 照明がきらめくランウェイ。激しく焚かれるカメラのフラッシュの嵐。
 颯爽としなやかに歩くモデルの首にこの我が身が巻かれ、羨望の視線を一身に集めることになるのだ。

 次から次へと果てしなく続く夢の世界をさまよう彼に、小さな影がじわりじわりと忍び寄っていた。
「なあ、あいつを捕まえたら何にしようか」
「やっぱり空飛ぶじゅうたんにするのがいいだろ。命令して自由自在に行きたいところへ連れていかせるのさ」
「そりゃあ便利だなぁ。僕は毎日、学校の送り迎えをさせるぞ」
「オレは旅行だな。東京や大阪のでっかいテーマパークに行きたいなあ。空からタダで入れそうだし」
「僕はチャンバラ映画村に行きたいなぁ」
「渋っ……。なんでまたチャンバラ映画村なんだ」
「いやあ、おばあちゃんといつも金さんとか助さん格さんとかの再放送見てるし、なんとなく……」
 悪ガキどもは、それぞれ夢を語り合った。

 一反もめんSは、なおも眠り続けている。
 自らの華麗な転進を夢見たまま。
 じりじり、じりじり……とにじり寄る小さな人影の存在には、気づかないまま。

一反もめんは夢をみる

一反もめんは夢をみる

一反もめんたちは、〝聖域〟に守られて、長い時間を静かに暮らしてきた。しかし、畏れを忘れた人間たちが増えた現代。ある女子高生がスマホで偶然撮った写真がきっかけとなって……

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-14

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