霊能探偵・芥川九郎のXファイル(63)【魔界トンネルの謎編】
第1章 手作りクッキー
霊能探偵・芥川九郎は、事務所のキッチンでコーヒーを淹れていた。彼の事務所は中区にあって立地はよいが、古びたビルの一室に過ぎない。そこへ芥川の友人・牧田がやって来た。
牧田「こんにちは。コーヒーのいい香りがすると思ったら、芥川先生自らコーヒーを淹れていたんだね。」
芥川「うん。まぁね。」
芥川は淹れたてのコーヒーを1杯、牧田に手渡した。
芥川「はい、どうぞ。」
牧田「ありがとう。いただきます。」
牧田と芥川はそれぞれ、自分のコーヒーをテーブルに置いてから、イスに座った。
牧田「今日は、コーヒー係の能年君はお休みかい?それとも外出中かな?」
能年は鎧の妖怪である。芥川の助手として、彼の事務所に住み込みで働いている。
芥川「叔母さんとクッキーを焼いている。御手洗君も一緒だよ。」
牧田「能年君はとうとう、服部夫人からクッキー作りを教えてもらっているのか。」
服部夫人は芥川の叔母である。彼の事務所の隣に税理士事務所があるのだが、服部夫人はその税理士先生の奥方だ。彼女は甥っ子の芥川のことを心配し、いろいろ世話を焼いてくれる心優しいご婦人なのである。
第2章 スネークヘッド(蛇道)の先行き
牧田は淹れたてのコーヒーを一口すすってから言った。
牧田「能年君がクッキー作りを学ぶのは分かるけど、なんでまた御手洗君も一緒なんだろう?」
芥川「さぁ?御手洗君は最近、よく能年君とつるんでいるみたいだよ。」
御手洗はアライグマの妖怪である。猪高緑地で芥川と牧田により、捕獲・保護されたという経緯がある。
芥川も淹れたてのコーヒーを一口すすり、おもむろに話題を変更して言った。
芥川「東京で大谷代表もがんばって活動しているみたいだけど、我がスネークヘッドの勢いは頭打ちみたいだよ。」
スネークヘッド(蛇道)は、東京の霊能力者・バーニング大谷が立ち上げた異種能力者団体である。その目的は、旧態依然とした既存団体の改革だ。
牧田「スネークヘッド名古屋支部長の芥川君も、スネークヘッドの先行きに不安を感じているわけか。」
芥川「牧田君。他人事みたいに言っている場合ではないよ。君はスネークヘッド名古屋支部・事務局長なんだから。」
第3章 能力者団体の実情
芥川はコーヒーを一口飲んでから、話を続けた。
「せっかく、大谷さんのおかげで古い秩序を変えるチャンスが訪れたと思ったのに・・・」
牧田「超能力者の団体に限らず、既得権益やしがらみを打破するのは容易ではないと思うよ。」
芥川「そうなんだよ。守旧派が1割、我々のような革新派が1割、残りの8割は日和見主義の洞が峠だよ。」
牧田「日和見主義と言うよりも、そんなことどうでもいいと思っているのかもしれないね。」
芥川「そうそう。みんな政治には無関心だ。いや、無関心な振りをしているんだ、きっと。」
牧田もコーヒーを一口飲んでから、言った。
牧田「芥川君が能力者団体の中で出世すれば、中から変革することができるんじゃないかい?時間がかかるかもしれないけど。」
芥川「それは無理だよ、僕の性格では。霊能力の強い者が偉いという世界ではないからね。実務能力とか、組織内での人脈とか、資金調達力とか・・・結局、政治力のある人間が出世するんだよ。」
牧田「そうなんだ。どこぞのスポーツ協会の理事会みたいだね。」
芥川「僕は若い頃、そういうことを全く理解していなかった。それで松山時代に、関西の霊能学会や魔法学会の老害どもを相手に、大立ち回りをしたことがあるんだ。」
第4章 芥川の過去と魔界トンネルの謎
芥川の告白に、さすがの牧田も驚いて言った。
牧田「霊能学会や魔法学会の長老たちを相手に一体、何をやったんだい?まさか、鉄パイプで片っ端から殴り倒したわけじゃないだろうね?」
芥川「ハハハッ。さすがの僕もそんなことしないよ。霊能力を使って、派手に暴れて見せただけだよ。一種のパフォーマンスさ。」
牧田「重鎮相手にそんな無理無体を働いて、大丈夫だったのかい?」
芥川「さっきも言ったけど、長老だから霊能力が強いとは限らないからね。連中から、大した反撃はなかった。」
牧田「なるほど。それで関西の長老たちは君のことを、無鉄砲な無法者だと評価しているんだね。」
芥川「まぁね。いまだに腫れ物扱いだよ。」
芥川は残りのコーヒーを飲み干してから、話題を変えた。
芥川「最近、また魔獣が頻繁に出没するようになった。誰かが故意に、魔界トンネルを開通しているとしか思えない。」
牧田「偶然、トンネルが開通してしまったわけじゃないのかい?」
芥川「魔界トンネルの開通には、いくつもの特定の条件を満たす必要がある。偶然・・・確率的に不自然だよ。」
牧田「犯人は誰だろう?魔獣研究のために悪魔と契約した榊原博士、魔法学会の重鎮である柊博士・・・」
芥川「その二人とは限らないよ。一定の知識と霊能力があれば可能なんだから。」
二人がそんな話をしていると、香ばしいクッキーの香りが漂ってきた。
牧田「クッキーがもうすぐできそうだね。」
芥川「うん。おいしそうな香りだ。」
芥川と牧田はほとんど同時に、能年(鎧)と御手洗によるクッキー作りの様子を見に行くために、イスから立ち上がった。
霊能探偵・芥川九郎のXファイル(63)【魔界トンネルの謎編】