部屋

点滴の雫音なき白い部屋 検査待ちたる朝の一時




カーテンを開けると、そこは東向きの部屋で、きれいな新緑のなかを車が走りゆく道路が見えた
新緑の木々は高さ10mほどの欅の木で、かつて私と父が植栽を依頼されて植えた木だった
もう何十年も前の事になる

窓の左手には別な建物があり、私はその建物から出て駐車場に向かって歩いた雨の日の事を思い出す
私は父の症状について医師から、こういう状態なので、あと幾日かしか生きられないだろうと説明を受けた
それなりの覚悟はしていたものの、建物から出て、水溜まりの舗装を歩きながら、親父はもうこれ以上生きられないのかと思うと胸がつかえた
一人、傘を差しながら下を向いて車に向かって、雨のなかをとぼとぼと静かに歩いた
人はいつか死ぬ、別れもいつかくる
でもその現実のなかにいて、ただ泣く事しかできない
変えようのない現実のなかで、その子供である自分は、心のなかで「親父・・」と言いながら、寂しさにただ泣く事しかできなかった


過去の出来事が窓の外の風景と共に蘇ってくる
親父が亡くなって12年余りになる
先月の6月の命日の数日前に、姉と一緒に13回忌の供養を二人で、お墓参りをしながら行った




・・・・・・・・・・・





検査入院という事で一泊の入院だった
静かな部屋のなかで、あれこれと思いを巡らす事があったのだが、不思議と終活の事を考えたり、思ったりする事は少なかった
仕事の電話がかかってたり、仕事関係の所用のはなしで自分も電話をかけたりもした
入院する前、従業員に、別荘に行ってくるからと冗談を言ってきたものの、事務所にいるのとあまり変わりがない忙しい感じがした




白い部屋の壁や天井をぼんやり見ていると、そこに取り付けてある照明やその他の器具の形や色合いが気になってくる
ゆっくりと視点をずらしながら眺めていると、一瞬、途方もないような広がりを感じる錯覚に見舞われる
時計の秒針がかなり音を立てているのだが、そうした錯覚に見舞われている間は、その音を感じない
この壁や天井に対する感覚は、以前から、自分の持つ悪癖のようなものだと思っている
感性が対象そのものになってしまうような、超現実的な感覚は、自らが望んだものではないのだが、時々ブレーキがかからずにのめり込んでしまう事がある
ただ不思議なのは、そうした感覚の旅は同一の物を対象とした一回限りの事で、しかも短時間のうちに終わってしまう事が多い
感性の働きを受動態ながらも自在に変える事ができる、禅で説く般若の智慧とは程遠い妄想の世界のごときものなのかもしれない・・
などという理屈に酔ってしまう愚かな自分がここにいる



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時々、心の壁をたどってみる
第一段階の理由の底には、第二段階の理由がある
そっと撫でれば分かる
眼で触り、耳で触る
それ以上知ってはいけないという、ところまでを



けれども、その事を人に言ってはいけない
理由は
「 やめてよ! 」
「 あなたに支配されたくないの! 」
「 私は私なの・・ 」



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私は悪魔になるための修行を少しづつ重ねつつあるのかもしれない

息が

ふぅ~

ふぅ~



ふぅ~ ・・

部屋

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  • 自由詩
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2026-07-01

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