続高校珈琲 最終話

おはようございます。最終話をお届け致します。チロと槇の切なすぎる別れ。そして三十年後。魂の会話の終わる時。お楽しみに!

最終話


 「続高校珈琲」
        (最終話)


         堀川士朗


アイス珈琲が無くなりかけていた。
僕らの会話もそろそろ終わりを告げていた。
昔を思い出していた。
槇も昔を思い出していた。
シナプスが踊る。
二人でダイブ。
あの日の事を……。
深淵なる闇。
掻い潜る。

¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶

毎日が楽しい。
槙がいるから。
今日も槙とデートだ。大学の入学式を四日後に控えている。
入学したら校舎にも連れて行って見せびらかしてやろう。
サークルにも連れて行く。みんな羨ましがる。
あんな美人すごく目立ってしょうがないからな。
亀有駅に迎えに行く。
槙はもう来ていた。
今日どこ行く?と聞く前に槙がこう言い放った。

「森川くん……この前、宮嶋志保さんから電話がかかってきたんだけど」

この時点で悪い予感がした。俺は何も言えなかった。

「彼女が言ったの、『あたし森川チロくんと寝ちゃった、ごめんね。盗っちゃった』って言ったの」

まだ俺は何も言えなかった。宮嶋。あの女。復讐のつもりかよ。

「何なの?」

まだだ。何も言えない。

「道具なの?私」
「いや」
「……何なの?」
「道具じゃないけど。宮嶋ちゃんと寝たのはあれだけど、そこは自由で」
「ハア?」
「や、自由って言うか自由で。そこは槙といない俺の時間だから自由って言うか。でも全然、槙と比べて全然よくなかったよ宮嶋ちゃん」

5メートルほど離れたところにバイクを停めた男がいてチラチラこちらを見ているのが少し気になった。

「認めるんですね?認めたんですね?」
「もう一人いるけどね」
「何が?」
「もう一人いるけどね」
「だ、何が?」
「もう一人。Hフレンド。千葉さんていう子」
「……最ッッッ低」

そう言って槙は、俺が誕生日にプレゼントしたクリスタルガラスのイヤリングを両方とも耳から外して地面に強く叩きつけた。
ガラスのイヤリングは簡単に粉々になった。
俺はもう何も言わない方がいいなと思った。

「分かりました森川くん……でも、これだけは言わせて下さい……あの……てめえ金魚の腐った臭いがプンプンすんだよ!自分のツラ鏡で見た事ねぇのかよ?やべーぞ!煙草と珈琲の飲みすぎで胃がやられてんぞお前!死相浮いてんぞ、浮きまくりかよ?おめえとなんか一緒に暮らすわけねえだろボケ!てかあたしが新しいビジネスやろうとしてんのに金貸さねえのかよケチなゴミクズ野郎!一生死ぬまで中途半端な演劇ごっこでもしてろやボケ!チケットノルマにおびえて下卑た鼻の穴いじって病気になれ馬鹿。演劇ばっかやって将来つぶしのきかない人間になってのたれ死ね馬鹿!馬鹿じゃないの?とにかく臭ぇんだよおめえは。普段何食ってんだよおめえは?内臓全部やられてんのと違うか?近寄るな○姓。この性病野郎!へったくそなHしやがってよぉっ!今まで我慢してやらしてやったけどおめえの粗○○にはもうウンザリなんだよ!お前はなぁっ、あたしにとってただの迷惑なストーカーなんだよ!それ分かってねーのかよ?このボンクラ頭、下水処理○落野郎、汚物処理班!おまけにあんな行きたくもねえ病院まで連れて行きやがってキ○ガイのババアに会わせやがってよぉっ!マザコンのオカマかてめえは?ミイラ化した母親の死骸と一緒にシミ付いた汚ねぇ布団で寝てろ馬鹿!お前もキ○ガイか?お前キ○ガイかよ!?アシッド臭えんだよ○姓、死ねよ!!心の無いケダモノ!死ねっ!それかお前なんか永遠にみじめったらしくジジイまで生きてこの世の地獄をとことん味わえ馬~鹿っ!」

それだけ言うと立村槙はツカツカ歩いて、さっきから話を聞いていた感じのライダースジャケットを着たハタチぐらいのバイクの男に近寄り、彼からフルフェイスのヘルメットを受け取ってバイクの後ろに乗った。
男が心配そうに言う。

「槙ちゃん、終わった?」
「うん。全部終わった。行こう」

槙を乗せたバイクはすばやく俺の前から走り去って行った。

¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶

「ふ~」
「ふ~」
「壮絶だったわね」
「壮絶だったね」
「ごめんね、何か。売り言葉に買い言葉だったね」
「良いよ。僕たち若かったんだから」
「不愉快な過去は誰にでもあるわね。だってトラウマだもの」
「うん。あれから僕は人に対して少しだけ優しくなったよ」
「そう」
「そろそろ帰るかい?」
「うん。あ、ここは私が出すわ。ナポリタンも食べたし」
「そうかい。ありがとう、ごちそうさま」
「いいえ」
「あのさあ。槇はあの時のバイクの人と結婚したのかい?」
「違うよ。もっと後。全然別の人。会社の上司」
「そうか」
「もうそろそろ行かなきゃ」
「うん」

僕は、勇気を振り絞って言った。

「また会えるかな、槇」
「……や。私たちはもう、会わない方が良いわ。全部。全部終わったのよ」

そう言って彼女は、あの日の美しさそのままにニコリと微笑んで伝票を手に取ってレジスターに向かった。
雨は上がっていた。


          おしまい


     (2023年11月執筆)

続高校珈琲 最終話

最後までご覧頂きありがとうございました。また少しお休みを頂いて、新作を公開していきますので宜しくお願い致します。

続高校珈琲 最終話

チロと槇の切なすぎる別れ。そして三十年後。魂の会話の終わる時。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2026-06-27

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted