予期せぬ出来事 23

「お~い○○くん。なんか新しい情報ないの? 報告書が書けなんだけど……」
 ボクは同じ営業の課員である○○くんに声を掛けた。
 すると
「無いです。今、忙しいっス」と、けんもほろろな対応をされてしまった。
 ボクは諦めずに、△△くんにも、声を掛けてみた。
 しかし帰ってきた返事は○○くんと同じだった。
 次の○△くんは
「この前のがあるじゃないッスか」と言ってきた。
 ボクは
「その前って言っても、あれは先月じゃんかよ。もう書いた」と返した。
 とまぁ……こんな課員とのやり取りが、月末になるとやってくるのだ。
 まったくネタが無い。
 ああ駄目だ、とボクは席を立った。
 気分転換に散歩に出ることにしたのである。
 きちんと業務用PCに離席を入力したのはいうまでもない。
 でもほんとは散歩じゃないんだ。
 歩いてほんの5分くらいの、明治通りを渡った先の、グループ会社に向かうのである。
 各階の各部署を「こんちわー」と訪問して、そこで取り留めの無い話をしながら報告書へのヒントを探すのである。
 あれは……
 そんな月末の、ある夏の日の出来事だった。
    *
 グループ会社からの情報収集が不発に終わり、トボトボと家路(会社)に向かうため、明治通りで信号待ちをしていたときだった。
 信号が青に変わるやいなや、後ろから20歳代の女性がスタスタとボクを追い抜いて行ったのである。
 たぶん王子駅に向かっているのであろう。
 その女性の後ろ姿を見て、ボクは驚愕した。
 一瞬、何かと思った。
 そ、その女性は……パンツ丸出しだったのである。
 ワンピースの裾がパンツのゴムに引っ掛かり、後ろ下半身丸出しとなっているのだ。
 トイレにしゃがんでパンツを引き上げるとき、ゴムにワンピースの裾が巻き込まれたのだろう。
 呆然と立ち竦むボク。
 女性は、どんどん遠ざかってゆく。
 どうする、どうする?
 悩んだのは一瞬だった。
 ボクはその女性を追いかけたのである。
「もしもし、もしもし……」
 追いかけながら、後ろから声を掛ける。
 が、その女性は振り向かない。
 イアフォンで音楽を聞いているからだ。
 ボクは仕方なく女性の横に並び、左腕を軽く叩いた。
 大げさに、本当に大げさにビクっと反応されてしまった。
 そして
「何なの」「何なのよう」「近づかないで」みたいな顔でボクを睨みつけたのである。
 ボクは申し訳なさそうに、彼女のお尻を指さした。
 それで彼女は、ようやく自分のあられもない姿に気付いたのである。
 ボクは、裾を直す姿を見ないようにしながら彼女から遠ざかった。
 もう充分拝見させていただきましたから……
 お前ねェ、ボクが教えてやんなきゃ、パンツ丸出しで王子駅のホームに立つことになったんだぞ。
 みんなにパンツお披露目だったんだぞ!
 ……て、ボクは女性は勝手に電車に乗ると思っていたのである。
 これが夏でなく冬だったら、尻がスースーして自分で気づいたと思うのである。
    *  
 その予期せぬ出来事を、会社に戻って事務の女性たちにすると……
「わたしは、教えてくれてありがとう」
「わたしは、教えてくれなかったほうが良かったわ」
 の二通りの返事が返って来た。
 その中に、彼女自身が、自分で気づいて自分で直す。
 そうすれば、誰も見ていなかっンだと自分を納得させることが出来るからだ……と意見があった。
 男たちの意見は論外で
「そりゃ言っちゃ駄目だよ」「何故?」「ずっと見ていたいから」
 まぁ分からんでもないのだが……

 おしまい

予期せぬ出来事 23

予期せぬ出来事 23

パンツ丸出し

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-06-26

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