フンボルトペンギンの握力について
この小説は、性的表現、近親相姦、残酷表現があります。
苦手な方は、ご拝読をお控えください。
タイトルと内容は甚だしい乖離をはらんでいます
二人の男と、一人の女は、並んで繁華街を歩いていた。
高崎累、高崎黎という男たち。それに、高崎芽瑠と名乗る女が一人。
「今日の散歩も、気持ちがいいね」
累はそう言って、黎を見た。
「そうだね、芽瑠も喜んでいるよ」
黎は累を見ると、手に持った手綱を引っ張った。その先には、芽瑠の首に巻かれた首輪が。
芽瑠は笑っていた。
高崎家の近くには、小さな動物園があって、そこに二人と一人、行くことが多かった。
「芽瑠の好きなフンボルトペンギンだよ」
累は、黎から手綱を受け取ると、それをぐっと引っ張った。
「芽瑠より弱そうだね」
黎は、ペンギンと芽瑠を交互に、愛おしそうに眺める。
「芽瑠とペンギン、どっちの方が握力があるかな」
累は、ニヤニヤと笑って言った。
大きな白無垢の家に帰る。
お揃いの白いキャンバススニーカーを脱ぐ。それを、芽瑠は四つん這いになって舐め始める。
「お、今日も綺麗にしてくれるのかい?」
累はそう言って、芽瑠の臀部を撫でた。
「いい子だね、芽瑠」
黎は芽瑠のコートを捲る。この時期にしては、いささか季節外れのコートの下は、布一つ纏っていない。二つの双丘の間からは、犬の象徴でもある、ふさふさの尻尾が生えていた。
それに呼応するように、「ひゃん」と、芽瑠の口から情けない声が聞こえる。
累の口角が、上がる。シューズボックスの横にあった、靴ベラを手に取ると、真白の双丘へ向かって、振り下ろす。バチッ、という貪欲な音と共に、双丘に真っ赤な跡がつく。
「いいな、累、ずるいよ」
黎はそう言いながら、手綱を引っ張る。首を強制的に上げられた芽瑠は、苦しそうな声で喘いだ。
「黎もやるか?」
累は、黎に靴ベラを渡そうとする。それを黎は受け取らず、回し蹴りを双丘へ加えた。
芽瑠は電気を与えられたネズミの様に、飛び上がるとけいれんをしながらへたり込む。
「はは」
それを、二人は見ながらただ笑っていた。
それでも、芽瑠は靴を舐め終える。
「芽瑠、終わった?」
リビングでゲームをしていた二人は、一時間ほど経つと、芽瑠の元へ戻る。
芽瑠は口元の泥汚れを拭きながら、二人を見上げた。
「いい子だ」
黎はそう言って、手綱を持つ。
芽瑠を四つん這いのままにさせ、リビングまで連れていく。
累はすでに芽瑠の食事の用意をしていて、芽瑠は目を輝かせながら、そこへ向かっていく。
「すくすく育つんだぞ、芽瑠」
芽瑠のために用意されていたのは、高カロリーゼリー。三百キロカロリーのそれを、二本。一日六本食べる計算で計一八〇〇キロカロリー。
芽瑠は累の足元にあるその皿をめがけて、顔を下ろすと、無我夢中に食べ始めた。
「犬だね」
突き出した臀部の肛門には、銀の栓がしてあって、それが尾を形成している。
それは、食事を貪る芽瑠に合わせて左右に揺れるものだから、青春時代のポニーテールを想起させて、二人の心をかきたてる。
食事を終えると、累と黎はゲームを再開する。それを見ながら、嬉しそうに芽瑠はリビングのサークルへ入る。全裸の芽瑠は横たわると、小さくあくびをした。
夜が更けていく。ダイニングには、黎が作った料理が並ぶ。累は飛び跳ねる芽瑠を蹴りながら、ゼリーを与える。
「累、ご飯できたよ」
広い大理石風のテーブルに、料理人顔負けの料理が。
「いつも黎の料理は美味いよね」
累はそう笑うと、黎の向かいに座る。
芽瑠は少し離れた足元で、甘ったるいゼリーを美味しそうに貪っていた。
時計は、二三時を回った時間を指していた。
累と黎は、サークルにいる芽瑠を眺めた。
「芽瑠、寝床へ行くよ」
その声に、芽瑠は飛び起きて、目を輝かせる。
豊満な体躯を揺らしながら、階段を上がる。双方の胸には、ピアスが二つ、煌めいている。
二人はバスローブを脱ぐと、キングサイズの無垢なベッドに寝転がる。
「芽瑠、おいで」
累は手招きする。黎は、その先の手綱を引っ張った。芽瑠は、それに呼応し、芽瑠は笑いながら、ベッドへよじ登る。
「またちょっと肥えてくれたね」
累は大きなその胸を握りながら、言う。
「もうちょっとかな」
黎も、もう一つの胸を握る。
その手を愛おしそうに撫でる芽瑠。小さく喘ぎながら、侵食していく双方の腕に対し、悦を感じていた。
朝。
芽瑠は床の上で目を覚ました。累と黎は、ベッドの上で日の光を浴びる。
「今日から、始めようか、黎」
「そうだね、累」
二人は、全く同じ、その顔を見合わせる。よく似た顔の芽瑠は、それをきょとんとしながら、見ていた。
今日も、甘ったるいゼリーを食べる。それを見ながら、累と黎は、レシピを開いていた。
「今日はまず、指からにしようか」
累は、レシピを閉じる。
「いいね、ワインを開けよう」
黎は、そう言って立ち上がる。
「芽瑠、今日から始めるよ」
累はそう言って、芽瑠を手招きする。芽瑠は、純粋な瞳で、二人を見上げていた。
累は医師を目指し、黎は料理人を目指していた。
家は贅沢にも太い。二人の壮大な夢を叶えるためなら、どれだけでも金銭を積んだ。
そして、芽瑠。芽瑠は言われたことを素直に受け止めることができ、人を疑うことを知らなかった。
累と黎は、残酷な子どもであった。どちらが多く蟻を潰せたか。どちらが白い紙を燃やせたか。そんなことを、いつも競争していた。
そんな二人は、頭の回転が遅い芽瑠を弄ぶようになっていた。
初めは、ただ鈍臭い芽瑠に対し、スカートを捲ったり、お気に入りのぬいぐるみを窓から放り投げたりしていた。
芽瑠は、初めは泣いて嫌がっていた。だが、それが累と黎の加虐心を煽る。
次第に、悪魔の双子の悪戯は、エスカレートしていく。
芽瑠の陰部に、枯れ枝を突き立てた。二人の陰茎を舐めさせたこともある。次第に、芽瑠は泣かなくなった。代わりに、薄気味悪い、媚びたような笑みを浮かべるようになった。
下等生物の誕生。自己を守るために、張り付いたその笑みを、「気持ち悪っ」と軽蔑しながら、それでも二人は加虐を辞めなかった。
そんな歪な三人を、両親は見ていられなくなった。止めたら、累と黎は逆上して、窓ガラスを全て割った。
結論、両親は海外出張という形で、わが子たちから逃げた。
大きな家に、累と黎、そして芽瑠の三人だけが残る。
累と黎は歓喜した。芽瑠で、壊れるまで遊ぼう。壊れたら、次を考えればいい。そう言って、二人は笑っていた。それを、芽瑠も満面の笑みで、痣だらけの全裸を揺らしていた。
広大なリビングに、ブルーシートを広げた。
「芽瑠、おいで」
黎はそう言って、芽瑠を手招きする。累は牛刀を片手に、ブルーシートの端にいた。
芽瑠は、累の足元まで行くと、日向ぼっこをする猫のように、全裸を横たわらせた。
「今日から、愛しい芽瑠を食べていくよ」
近づく黎。累は寝転がる芽瑠の手に、キスをした。
長く、細い美しい指に、牛刀を当てる。
「綺麗だね」
薄く出血をし始めるその指を見ながら、黎は股間をまさぐっていた。
「やめろよ、俺もしたくなるだろう」
そんな黎を、苦笑しながら累は止める。しかし、黎はそれを止められなかった。
「あ、あ」
小さく、疼痛に呻きを漏らす芽瑠。声は、風鈴のように、どこか懐古があって、それが二人の心を昂らせた。
小指から、落ちた。劈く悲鳴。それも聞きなれており、愛らしい。
「やべえ、最高だよ、累」
ゾクゾクと波立つ背中。脳が焼き切れそうになる背徳。
「ああ、俺もだよ、黎」
防水のズボンがきついとまで感じる。
その勢いで、累はテンポよく、芽瑠の指を落としていく。
一本落ちるごとに、芽瑠の悲鳴が響く。傷口は、はんだごてで焼いた。止血のためだ。
「肉の香りがする」
立ち込める芳醇な、若い女の匂い。くらくらする。黎はそれを眺めながら、落とされた指を回収する。
「はは、本物のペンギンみたいだな、芽瑠」
肩で息をする芽瑠。その手にはすでに指は無い。
「さすがに痛いか? 楽にしてやる」
累はそう言うと、疼痛に震える芽瑠を横たわらせる。芽瑠の長い髪は、血だまりに落ちる。
赤く染まる芽瑠の左腕を駆血帯でくくると、素早く前腕に留置針を入れる。痛み止めの点滴を、ゆっくり滴下していく。芽瑠は留置された点滴を見ながら、うっすら微笑んだ。
芽瑠の指を回収した黎は、三徳包丁を握る。丁寧に皮と爪を剥ぐと、血抜きを行う。
累が芽瑠に点滴を施す頃、黎はフライパンで指を炒め始めた。塩コショウの、シンプルな味付け。
「累、できたよ」
黎は、皿に盛った指だったものを、ダイニングテーブルに並べた。累は芽瑠が閉眼するのを確認すると、ワインセラーから、赤ワインを取り出す。ダイニングテーブルにワイングラスを並べる。
「さあ、食べようか」
累は座るとそう言って、フォークを肉に突き刺した。
食す。
二人は無言のまま、五本ずつ並んだ肉を食べていく。ほのかに甘い。香ばしい。肉は、硬い。
「芽瑠、おいしいね」
五本目を食べ終えた累は、そう言うとナプキンで口角を拭う。
「そうだね」
黎も口角を拭うと、視線をリビングのブルーシートへ移した。
芽瑠は、寝息を立てて眠っていた。
残酷な二人には、幼い頃から夢があった。
人の肉を、食べたい。
芽瑠に性的な暴行を加え始めた頃、両親は逃げた。だから、大学生の二人は、芽瑠を食べる計画を立てた。
少しでもいい脂がのるよう、累はカロリー計算をする。解体の手筈も考える。それを美味く調理するのが、黎の役目であった。
芽瑠を、散歩以外は家の中に閉じ込める。狭い檻の中で、監禁する。そうして、この家が普通だと、認識させていた。
芽瑠は、家畜。俺たちは、いつか芽瑠を食べる。
そう言いながら、芽瑠に接していた。
累と黎は、寝室に行く。芽瑠もそこに連れていき、ガーゼと軟膏、包帯で傷口を手当する。
滴る血が、封じられる。ベッドも汚さなくなったと認識すると、二人は、芽瑠をベッドに上げた。
「芽瑠の子宮も食べたいな」
「でも、そうしたらセックスできなくなる。最後だよ、子宮は」
黎の発言を、笑いながら累が訂正する。二人は、芽瑠の乳首をまさぐりながら、そんな会話をする。
顔色の悪い芽瑠は、それでも拒否をするという認識すら持てずにいる。
累は、自分の陰部を芽瑠に舐めさせる。その横で、黎は芽瑠の陰部に指を入れた。肛門から生える尻尾は、ゆらゆらと揺れた。
芽瑠の解体は進む。
足の指、下腿、大腿。特に大腿は、健康的に脂が乗っていて、ステーキにした。三食かけて、右大腿を食べる。
左大腿は、生ハムにすることにした。黎がブレンドしたオリジナルスパイスをかけ、冷蔵庫の中にそれを入れる。
「楽しみだね」
黎は冷蔵庫の中を覗きながら、言う。
「うん」
累も冷蔵庫の中を覗くと、そう呟いた。
芽瑠は、足を失った。それでも、累と黎の元へ這って行っては、その足元を舐めた。
「芽瑠を肥育してよかったよ。おかげで、毎日美味しい肉が食べられる」
累は這いつくばる芽瑠を、足で小突きながらそう言う。
「それは、俺の腕がいいからじゃあないか?」
はは、と鼻で笑いながら、黎は言う。
「まあ、累の解体作業もてきぱきとしていて、見惚れてしまうよ」
黎はそう付け加えると、芽瑠の顎を蹴った。
日に日に、芽瑠の白い肌は、赤い血に染まってゆく。
「一緒にお風呂でも入ろうか」
累はそう言って、芽瑠の手綱を引く。芽瑠は無くなった足の代わりに、腕でほふく前進を行う。
「芋虫みたいになっちゃったね」
黎はブラウスを脱ぐ。薄い筋肉質の上肢が、露になる。
瓜二つの容姿を持つ累も、ブラウスを脱いだ。同じような薄付きの筋肉を露出させる。
猫足のバスタブに、二人は浸かる。累と黎は、いつもどこにいても一緒だった。そのバスタブの外、大きめの桶の中で、芽瑠は泡ぶろを楽しんでいた。入浴に際して、痛み止めを点滴で流し込みながら。
外は快晴。耳を澄ませると、小鳥のさえずりが聞こえる。
「全く平和だね」
累はバスタブから出ると、芽瑠を洗い始める。芽瑠は幸せそうに、累の手を撫でる。
「そうだね」
黎は、湯に浮かべたバラの花弁を掬う。
「今日は料理と解体を休んでもいいかもね」
と、黎は付け加える。
ふかふかのバスタオルで、身体を拭く。芽瑠は、タオルで撫でられ、笑顔を浮かべる。
そのまま定位置の檻まで行くと、優しい日差しの中でウトウトとしてしまう。
幼少。
母と父は、芽瑠のことなど見向きもしなかった。だから、見向きをしてくれる累と黎が、好きだった。
大好きで、たまらなかった。何をされても、笑って過ごした。
乳房に蝋を垂らされても。至る所にピアスを開けられても。陰部に瓶を入れられようと。
その瞬間は、芽瑠のことをめいっぱい見てくれる。それが、嬉しい。
もうすぐ、累と黎に食べられつくして、二人の血肉となるだろう。
大好きな人たちの、一部となる。
芽瑠はそんなことを考えながら、ニコニコとしたあどけない顔で、眠っていた。
翌日。累はメスを取り出した。黎は、ブルーシートを敷く。
「今日からは、内臓に行こうと思って。繊細な作業が必要になるよ」
と、累。
芽瑠の腹に、メスを突き刺す。その白い腹には、一筋の赤が映える。
悲鳴。歓喜の声とも取れるそれは、二人の耳を劈いた。
「いいねいいね」
黎はそれを、興奮した眼差しで見つめる。
眩むほど綺麗な赤が、床にびたびたと、滴り落ちる。
黎は、それを啜る。グラスに取ると、滴り落ちる血を掬う。
「これ、累の分ね」
黎はそう言って、累の傍に置いた。
「ありがとう」
累はそう言って、それを飲み干す。
芽瑠の顔色が悪くなっていく。累はそれを、冷徹な眼差しで見ていた。
「出血量が多すぎた。さすがに輸血なんてものはないし」
チッ、と小さく舌打ちする。すると、黎は腕を累に見せた。
「俺の血、使う? まだ芽瑠には死んでほしくない」
無邪気な顔で、黎。
「お前のことも大切だから、なあ」
空を仰ぎながら、累。はんだごてを手に取ると、出血の多い動脈付近を焼いていく。
「またの機会に、頼むよ」
と、一言告げた。
内臓には臭みがあるため、黎が塩揉みを行う。
その間に、芽瑠に痛み止めの点滴と、止血処理を行う。
「ねえ、累」
処理を終えた黎が戻ってくる。
「眼もやろうよ」
「いいよ。いずれやりたいと思っていたし」
累も賛同する。金属製のスプーンを、黎は累に渡す。
「これあぶったら、くり抜けるかな?」
黎は、どことなく楽しそうだ。
それを、痛みにのたうつ芽瑠は、それでも煌めいている眼を向ける。
「芽瑠、俺たちを見るのは最後だよ。よく、目に焼き付けておいて」
累はそう言って、芽瑠の顎を上げる。そのまま、炙ったスプーンを突き立てた。
痛い。
芽瑠は獣のように吠えた。手をのたうち回らせる。
視界が暗転する。
「はは、すごい」
黎の声。
「これは、血のワインに浮かべたら映えるな」
累の声。
次第に、芽瑠の耳は遠くなっていく。
そうして、芽瑠の意識まで暗転した。
芽瑠が意識を失ったのを確認すると、累と黎は顔を見合わせる。
「さすがに今日は盛りだくさんだったかな?」
と、累。
「いいんじゃない?」
黎はそう言って、血をワインで伸ばす。
その中に、先ほどくり抜いた宝石めいた眼球を入れる。
「明日が最後になりそうだな」
累はそれに口をつけながら、言う。
「そうだね」
黎は頬杖をついて、芽瑠を眺めていた。
その日は、雨が降っていて、窓の外も薄暗かった。
芽瑠の呼吸が、浅くなる。
「芽瑠、芽瑠」
黎は、芽瑠を揺らす。それでも、反応が鈍い。
「最後に、子宮と心臓、それに脳をくり抜こう」
累はそう言って、新しいメスを手にする。
腹部は、昨日軽く縫ったところだ。それを丁寧に外す。芽瑠の反応は、それでも薄い。
下腹部のあたり。小さな子宮が顔をのぞかせる。
「これが子宮かあ。案外小さいね」
と、黎は体内に指を入れ、つんつんと突く。
累は手際よく、それを体外へと切り取る。
黎はそれを受け取ると、ズボンをおもむろに脱ぎ始め、子宮口へと自身の陰部をつけた。
「妊娠確定、ゼロ距離発射!」
さすがにそれは阿呆の極みだ。累は黎をやや軽蔑した視線だけを送る。
累は何も言わぬまま、芽瑠の腹を縫い合わせる。黎はそれを見て、己のくだらなさをようやく感じる。恥ずかしくなって、子宮を持ったままキッチンに行き、塩揉みを行う。
累は豊満な芽瑠の胸に、メスを突き刺した。肋骨が邪魔をするため、裁ちばさみで強引に切った。
芽瑠からの反応はない。肋骨の下には、弱弱しく動く、か細い心臓がそこにあった。
「心臓はいつでも手が届く。だから、先に脳を解体しよう」
と、累。黎はそれを聞いて、再び芽瑠の傍へ駆け寄る。
芽瑠の長い髪を引っ張る。累はそれを裁ちばさみで切る。糸鋸で、芽瑠の額を傷つける。
「これ結構重労働だな」
累は汗を拭う。
「俺も手伝うよ」
黎は、累の握る糸鋸に手をかける。累は頷くと、もう虫の息の芽瑠の身体に視線を送る。
「芽瑠、頑張ってるな」
紫色に変色した、かさついた唇に、小さくキスをした。糸鋸の、開頭する音が響く。
「芽瑠、死ぬんだよね」
開頭すると、黎は急に涙声で累に聞く。
「うん。俺たちのせいで、芽瑠は死ぬ」
累は、至って冷静に、はっきりとそう言った。
スプーンを手にすると、脳漿を掬って、食べた。
「この世界は弱肉強食? だから? ううん、違う」
黎は涙を拭うと、累と同じように、芽瑠の脳漿を食べる。
「芽瑠が好きだから、食べたいと思った」
顔を上げる黎は、まっすぐ前に座る累を見る。累の顔も、やや笑みを浮かべていた。
「そうだ。俺たちは芽瑠が好きだから、食べたいと思った」
累はそう言うと、心臓に視線を落とした。それは、もう止まってしまう儚い時間。
夢のような、時間だった。
芽瑠と、一緒になれた。それだけで、幸せだった。
累と黎は、顔を見合わせた。泣きながら、笑っていた。
動かなくなった芽瑠のために、庭に穴を掘った。そこに、たくさんのバラと共に芽瑠を入れた。
土をかける。頭や腹は、累が丁寧に縫い合わせた。黎は、次々と、美しい芽瑠に土をかける。
木の札に、芽瑠の生年月日と、没日を書く。これが、墓標のかわりだ。
「俺たち、どうしようね」
黎はスコップを地面に突き刺すと、ぼんやりとそんなことを呟く。
「しばらくは食べるものにも困らなさそうだからな」
累は腕を組んで考え込む。
「死ぬまでこのまま、二人で暮らそうか」
と、累。それは、黎も一緒だった。
「そうする」
そう言って見上げた空は、青かった。
フンボルトペンギンの握力について