香り

香り

春の訪れを感じるのは、自分の場合暖かな陽射しや徐々に咲き出す草花ではない。
風に乗って感じる目鼻のむず痒さで、冬も終わるんだと毎年感じる。

夜勤・日勤…その他様々、今日は日がまだ高いうちの帰宅。

マスクはしっかりしていても全部は防ぎきれないようで鼻がむず痒い。

いつもと変わらない風景のなか、いつもと違う懐かしい香りがした。

目線を少し上にあげて、香りのもとを探す。

一歩また一歩足を進めるごとに強くなる香りは
古い記憶をひきずりだした。

伸ばした手を柔らかく振り払われたあの日
頭を撫でて、差し出してくれた手の暖かさ
こんなにやわらかな音があるんだとな安心しきって眠ったあの日
歩けば、いつも斜め前にのこっていたやわらかな足跡

いつだったか何かの本で読んだことがある。

人は、最期に何を一番憶えているのか

目で見た…泣きたくなるような暖かな光景。
手で触れた…やわらかで壊してしまうんじゃないかと怖々と手にした暖かな感触。
耳で聴いた…泣きたくなるようなあの聲よりも

人は、匂いを憶えているんだと。

匂いをかぐことでその匂いに付随する様々なことを想い出すのだと。
      

香り

香り

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-06

CC BY-NC
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CC BY-NC