霊能探偵・芥川九郎のXファイル(46)【新栄鯱編】
第1章 中警察署の鯱島
霊能探偵・芥川九郎は、中区にある事務所で友人の牧田と話していた。中区にあると言っても、古びたビルの一室に過ぎないのだが。
芥川「今日は京子からの紹介で、中警察署の刑事さんが来るんだろう?」
牧田「そうだよ。僕は今日、そのためにここへ来たんだ。」
牧田は愛知県警の元刑事である。京子は彼の元同僚で、今も刑事として活躍している。牧田は数年前に退職し、今はフリーランスとして活動する身だ。
芥川「中警察署の管内で、何か怪奇事件でも起こったのかな?」
牧田「相談内容の詳細は本人から聞いてくれだとさ。今日来る刑事さんは、愛知県警随一の変わり者だよ。」
芥川「変わり者と言ったって、いろいろ種類があるだろう。どんな変わり者なの?」
牧田「名前は鯱島さん。国家公務員総合職試験に優秀な成績で合格し、警察庁に入ったエリートだ。」
芥川「いわゆるキャリアだね。中警察署で現場経験を積み、いずれ県警本部や本庁を行ったり来たりしながら、官僚として出世していくんだろう?」
牧田「それが、鯱島さんは違うんだ。もうずっと中警察署の現場で、バリバリ捜査している。」
芥川「確かに変わり者だな。でも、公務員の人事には一定のルールがあるだろう。なんでそんな特例が許されているのかな?」
牧田「鯱島さんは、警察の人事を操作できるような幹部の連中と、表に出せないような因縁があるらしい。真偽不明な噂だけどね。」
第2章 新栄鯱
芥川は腕を組んで考え事をしていたが、おもむろに口を開いた。
芥川「そんないわくのある人物なら、あまり関わらない方がいいんだろうけど・・・おもしろそうな男だね。」
牧田「鯱島さんは新栄鯱と呼ばれていて、県警内ではちょっとした有名人だよ。」
芥川「新栄鯱?新栄で何か捜査しているのかな。」
牧田「鯱島さんは昔、風俗関係の事件捜査で名を馳せたんだ。その現場が新栄の風俗エリアだったんだよ。」
芥川「なるほど。今回の相談も、風俗関係かな?あぁ、本人から聞いてみないと分からないんだったね?」
牧田「鯱島さん、そろそろ来るだろう。もう約束の時間だよ。」
二人がそんな話をしていると、噂の新栄鯱が事務所にやって来た。
鯱島「こんにちは。鯱島です。お世話になります。」
芥川「こんにちは、いらっしゃい。霊能探偵の芥川です。」
牧田「お久しぶりです、鯱島さん。牧田です。」
鯱島「芥川先生、今日はよろしくお願いします。牧田君、本当に久しぶりだね。元気にしてたかい?」
牧田「はい、相変わらずです。どうぞお掛けください。」
鯱島「うん。ありがとう。」
鯱島は牧田に勧められたイスに座った。芥川と牧田もイスに座った。
第3章 妖魔・エロティカヘブン
そこへ、能年(鎧)が淹れたてのコーヒーを3人分、運んできた。
芥川「能年君、ありがとう。」
牧田「いただきます。いつもありがとう。」
鯱島「どうもありがとうございます。」
能年は鎧の妖怪である。芥川の助手として、彼の事務所に住み込みで働いている。
芥川「鯱島さん。さっそくですが、今日はどのようなご用件で・・・」
鯱島「実は最近、東京の霊能力者と知り合いまして、彼女が言うには、名古屋の風俗街で妖しい魔物が暗躍しているらしいんです。」
牧田「情報源は東京からの霊能力者ですか。」
鯱島「はい。私には霊能力どころか、霊感すらありませんので、確かめようがありません。そもそも、県警の刑事が霊能力者の話をそのまま信じて、調査することはできません。」
芥川「東京の霊能力者が地方に来て、自分の能力を披露して悦に浸るのはよくあることです。分かりました。私たちで調査して、必要であればその魔物を除霊なり退治します。」
鯱島「ありがとうございます。芥川先生のお噂は、かねがね伺っておりました。よろしくお願いします。」
牧田「ちなみに、その東京の霊能力者は、どういう魔物がどんな悪さをしていると言ったんですか?」
鯱島「エロティカヘブンという魔物だそうです。なんでも、人間を色狂いにする恐ろしい魔物だとか・・・私には半信半疑です。」
芥川「あぁ、あいつか!先日、夜の街を歩いていた時に、どこかで見かけたよ・・・あれはどこだったかなぁ?」
牧田「なんだって!芥川君はその魔物を街で見かけたのかい?」
芥川「うん。今夜から街を巡回して、奴を見つけ次第、退治してしまおう。」
第4章 新栄の風俗エリア
その日から芥川と牧田は、名古屋にある風俗街を夜の散策がてら巡回した。
芥川「すぐ見つかると思ったけど、なかなか見つからないね。」
牧田「君には霊能力があるから、魔物の魔力や妖力を探知できるんだろう?」
芥川「できるけど、人間のやることだからね。機械のように迅速かつ正確に探知できるわけじゃないよ。」
二人は深夜に、新栄の風俗エリアを散策していた。
牧田「芥川君は先日、そのエロティカヘブンという魔物を見かけた時に、なぜ退治しなかったんだい?」
芥川「人間が何かに狂うことはよくあることだよ。お酒、ギャンブル、風俗の三つは王道だ。最近だと、SNSとかゲームとか推し活とか・・・」
牧田「君が言いたいことは、なんとんなく分かるよ。確かに、性欲自体は人間の正常な本能だ。」
芥川「何かに狂う・・・依存症の本質は、つらくて苦しい何かから目をそらすための防衛機制だ。何かに依存しなけりゃ、やってらんない・・・長い人生、現実から逃避したい時だってあるだろう。」
牧田「そうは言っても、魔物の妖力で風俗にはまり、本人や家族の人生が崩壊するのを看過するわけにはいかないだろう。」
芥川「だからこうして毎晩、エロティカヘブンを探しているんだよ。噂をすれば影だね。あそこに立っているよ。」
牧田「本当かい!?」
芥川は懐から霊丸拳銃を取り出した。
牧田「それは・・・左京さんが持ってたやつと同じだね。」
左京は先日、芥川の事務所を訪ねてきた警視庁特別係の霊能刑事である。
芥川「うん。彼に感化されてね。さっそく作ってみたんだ。」
芥川は霊丸拳銃の引き金を引いた。
ズバァアーーン!!
霊丸は妖魔・エロティカヘブンの急所を貫通した。エロティカヘブンは全身から白い煙を出しながら消えてしまった。
牧田「あっけなく退治できたね。」
芥川「うん。この霊丸拳銃、想像以上の威力だよ。さすが警視庁随一の狂人が開発しただけのことはある。」
牧田「帰ろうか。鯱島さんには明日、報告しよう。」
芥川「そうだね。でも、あと数時間もすれば夜が明けるよ。」
名古屋の歓楽街もさすがに、丑三つ時から夜明けまでは閑散としていた。
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