何処
いつだったか
わたしがわたしでなかった時
きっとあなたも
あなたではなかったのでしょう
夕べに雨が降り
夜が来て
暗闇が世界を覆って
朝になって
わたしは産声をあげた
空の向こうに虹がかかり
蜘蛛の巣に水がつたった
わたしがわたしでなかった時から
海は海であったし
わたしがわたしになった時も
空が空であることは変わらなかった
その日も陽が沈み
やがて朝が訪れた
壁の穴から虫が這い出て
鳥が木の枝の上で鳴いた
あなたがいつ
あなたになったのかわたしは知らない
昼もあなたを知らなかった
夜があなたを連れてきたから
しんと静まりかえった街道の
隅っこでこおろぎが鳴いていた
何処からか声がして
わたしは振り向いたけれど
そこにはまだ誰もいなかった
あなたがあなたになった時
わたしはまだあなたを知らなかった
けれどいずれ知ることになるでしょう
風がそよぐ爽やかさも
太陽の眩しさも
月の静けさも
あなたの声が心地よいことも
手が温かいことも
涙がどこからやってくるのかも
なぜ胸が苦しくなるのかも
空に虹がかかり
虫が地を這い
鳥が木々の間を通り抜ける
朝は命をつなぎ
夜がそっと瞼を閉じる
ああ 何処から
朝はわたしを何処から連れて来て
夜はあなたを何処へ連れ去るのだろう
空が開け
光が差し込んでもなお
わたしは待っている
それが声なのか
姿なのか
喜びなのか
涙なのか
何処から来るのか
何処へ去るのか
今も分からないまま
何処