映画『Never After Dark』レビュー

①ストーリーの中核をなすネタバレを含みます。人によっては観る気を失いかねない内容です。事前情報なしに鑑賞したい方はご注意下さい。

 真相にドッペルゲンガーを持ってきたのは大正解だと思います。あのモチーフひとつで①霊的なホラーと②異常者が繰り広げる惨劇の恐ろしさを表裏一体のものとして取り上げることができていた。
 劇中で愛里が言っていた通りなんですよね、幽霊と生身の人間とじゃ怖さの質が違う。前者だと、あり得ない現象に怯えはするけれど、それが起きている理由は必ずある。それを探り当てるコミニュケーションツールの乏しさがある種のミステリーとなって、その背景に人間ドラマを差し込むこともできる。
 でも後者じゃそうはいかない。相互理解の余地なんてまるでないから、why?の虚空に常識の何もかもが飲み込まれていくし、向こうが強いてくるルールに乗っからないと生き残れないから、こっちまで狂わなきゃいけない。立ち止まることを許さないシチュエーションから発せられる恐怖に身体のあちこちが力むし、汗をかく。普段、ホラー映画を全くと言っていいほど観ない私にとっては、こちらの恐怖の方が堪えました…。ある意味で幽霊よりも非現実的な怖さが殺人鬼にはありましたよ…。何なんだよ、もう…。
 「ドッペルゲンガーを見た者はその通りに死ぬ」という噂に従えば、本作の結末は愛里が依頼を受けてあの屋敷を訪れた瞬間から決まっていたようなもので、ストーリーのメインが実は「あいつ」が口を裂けて絶命するまでの運命を描くものだったといえます。冒頭のシーンからしてそうだったんですから、『Never After Dark』全体が循環する呪いにかかっている。愛里が儀式を経て、ベールの向こう側にいるお姉ちゃんの元に行ったのはその流れから逃れる唯一の方法であり、本編における唯一の救いでもありました。日本語でいうところの「めでたし、めでたし」に使われるever afterに決定的な否定を加えたタイトルの皮肉なニュアンス。そこに広がる闇に差し込むひとすじの光明は、死を迎えてこそ得られる安らぎを表現します。
「お姉ちゃん、怖いよ」
 どんな怪奇現象にも慄くことがなかった愛里が一度だけ口にしたこの台詞にもの凄く心を動かされたのは、生死の境に惑う状態になって、やっと素直になれた一人の女の子として、物語の全てを解き放っていたから。「あいつ」がいなくなった後の数秒間に覚える心地よさに安堵していたのは観客も同じだったから、そこに込められた意味の違いには余計に気持ちを揺さぶられました。穂志もえかさんの名演。ホラー初心者は、その中性的なビジュアルにひたすら救われていましたよ…。やさぐれと可愛いの絶妙なバランス。外見は俳優の才能であり、第二の台詞であるという思いを強くしました。感謝するばかりです。
 他にも賀来賢人さんの役が意外でびっくりさせられましたし、音楽もいい意味でホラー映画らしくない。展開のあちこちに施されたスタイリッシュな演出も取っ付きやすくて消化しやすい。ジャンルとしてのホラーに二郎系ラーメンのようなイメージを持っていたのですが、本作のおかげでその印象をかなり拭うことができました。当該ジャンルにも興味を持てたので、新旧両面から評判のいい作品に手を出していこうと思います。
 私のようなホラー耐性ゼロの人にこそおすすめしたい一作です。興味がある方は是非。

映画『Never After Dark』レビュー

映画『Never After Dark』レビュー

①ストーリーの中核をなすネタバレを含みます。人によっては観る気を失いかねない内容です。事前情報なしに鑑賞したい方はご注意下さい。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-06-09

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted