まるいぶちの、ねこといぬ

 まるいぶちの、ねこといぬ
 
 市場(いちば)には(さかな)だけでなく危険(きけん)なものもたっくさん()いてあるから、とにもかくにも()をつけろ、と最近(さいきん)()まれた(ねこ)どもに(つた)(ある)き、迂闊(うかつ)(ねこ)()らないように()をつけて(ある)くのが自分(じぶん)役目(やくめ)であると、老猫(ろうびょう)のぶちはよく()いました。
 ぶちはもともととある(いえ)()まう(ねこ)で、(かお)()(なか)(おお)きく、(すみ)でも()しつけたような()(くろ)なぶちがあり、それが(はな)(くち)も、()のあたりまでも(ひろ)がっているので、こいつは(すみ)()きに失敗(しっぱい)したんだなあと、()(ぬし)たちの(わら)いの(たね)でした。
 しかしその()(ぬし)がある()突然(とつぜん)先立(さきだ)ってしまい、ぶちは(よわい)(やっ)つで(きび)しい野良(のら)(みち)(はい)ることになりました。
 その(ころ)、その地域(ちいき)野良(のら)はぶちのほかに両手(りょうて)(かぞ)えるほどしかいませんでした。しかしその両手(りょうて)(ぶん)野良猫(のらねこ)たちは、よそ(もの)のぶちを最初(さいしょ)はけげんな()()ていたものの、その面白(おもしろ)(かお)(なが)めるうちに、ふ、と(こころ)(ひら)き、なわばりへ()れてくれたのです。さらにありがたいことに近所(きんじょ)魚市場(うおいちば)から(めし)()っては()(あた)え、なわばりのルールを全部(おし)えてくれたのです。
 今日(こんにち)、その(ころ)野良(のら)はもういません。しかしその野良(のら)たちが()んだ()がさらに()()み、ぶちが(とく)()をつけているからこそ、この地域(ちいき)野良(のら)両手(りょうて)両足(りょうあし)くらいに()えました。
「おまえたち、よく()えよ、だが(ほね)()さると(あぶ)ないから、(まる)()みはするなよ」
 ()いてねこまんましか()べられなくなっても、ぶちはこのなわばりのルールを(おお)くの野良(のら)(つた)えました。
「おまえたち、ここはすきま(かぜ)が入るから、あっちの発泡(はっぽう)スチロールのところへ()きなさい」
 ぶちがこんなに世話焼(せわや)きなのには、(わか)時分(じぶん)(たす)けられた(おん)を、(かえ)したい気持(きも)ちがあったからでもありました。
 最近(さいきん)ここらを散歩(さんぽ)ルートにした(いぬ)が、()(ぬし)一緒(いっしょ)にやって()ました。名前(なまえ)はぶちと()い、()(たか)雑種(ざっしゅ)で、右目(みぎめ)(かこ)うように(くろ)(おお)きなぶちがありました。()(ぬし)からは、きっと(すみ)つぼを熱心(ねっしん)(のぞ)いたんだろうと(わら)いの(たね)になっていて、そんな()(ぬし)()て、きっと(なに)かいいことがあったのだろうと(いぬ)のぶちは(おも)い、(した)()して(わら)いました。
 海沿(うみぞ)いの(みち)(いぬ)のぶちと()(ぬし)散歩(さんぽ)をしていると、潮風(しおかぜ)(かお)りがとても(たの)しくて、(いぬ)のぶちはいろんなところをくんくんしながら(すす)んでいきました。
 その()はとても()れて、野良猫(のらねこ)たちは(あさ)(はや)くから日向(ひなた)ぼっこに余念(よねん)がありません。なんせ(うみ)(てん)()()わりやすく、ぽかぽか陽気(ようき)かと(おも)えば(つめ)たい(かぜ)がびゅうびゅう()(とき)だってありましたから。
 お()()りの発泡(はっぽう)スチロールの(うえ)で、(なが)くて(すこ)(きたな)くなった尻尾(しっぽ)(まる)め、老猫(ろうびょう)のぶちはすやすやと()ていました。
 (いぬ)のぶちは途中(とちゅう)老猫(ろうびょう)のぶちに()がつくと、(えん)(りょ)なく(ちか)づいて、老猫(ろうびょう)のぶちの鼻先(はなさき)をくんくんしだしました。
「おや、この(ねこ)もぶちなんだね」
 (いぬ)のぶちの()(ぬし)()うと、老猫(ろうびょう)のぶちは(ねむ)たい()をゆっくり()けて、()(まえ)(いぬ)のぶちを発見(はっけん)しました。しかし(いぬ)というものを(はじ)めて()たので、これが一体(いったい)なんなのか、わからないようでした。
 されるがままに(にお)いをかがれ、老猫(ろうびょう)のぶちは、もしや()われるのではあるまいかと不安(ふあん)になりました。しかしそんな不安(ふあん)をよそに、(いぬ)のぶちはその()(すわ)()み、時折(ときおり)()(ぬし)見上(みあ)げ、老猫(ろうびょう)のぶちを()つめ、(なに)かを(うった)えているかのようです。
「ぶち、この()一緒(いっしょ)(かえ)りたいのかい?」
 ()(ぬし)(いぬ)のぶちの(かお)(のぞ)()むと、(いぬ)のぶちはにこっと(わら)います。仕方(しかた)がないねと()(ぬし)は、そのまま老猫(ろうびょう)のぶちを()れて(かえ)りました。
 病院(びょういん)でもなんの問題(もんだい)もなかった老猫(ろうびょう)のぶちは、それからまた(いえ)(ねこ)になりました。二匹(にひき)そろって「ぶち」と()ばれ、美味(おい)しいものをたくさん()べました。
 老猫(ろうびょう)のぶちがいたなわばりは、それからもいろんな(ねこ)がなわばりのルールを(つた)(つづ)け、たくさんの(ねこ)がしあわせに()らす地域(ちいき)になりました。

まるいぶちの、ねこといぬ

まるいぶちの、ねこといぬ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-06-06

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