霊能探偵・芥川九郎のXファイル(33)【文学論議編】
第1章 村川冬樹
霊能探偵・芥川九郎は、中区にある事務所で友人の牧田と話していた。中区にあると言っても、古びたビルの一室に過ぎないのだが。
芥川「先日、叔母は能年君と一緒に本屋へ行ったんだけど、村川冬樹の新作を買ってきたそうだよ。」
牧田「へー。服部夫人は村川冬樹のファンなのかい?」
服部夫人は芥川の叔母である。彼女は、芥川の事務所の隣にある服部税理士事務所の税理士先生の奥方だ。服部夫人は優しいご婦人で、甥っ子の芥川のためになにかと世話を焼いてくれる。
芥川「ファンと言うほどではないけどね。能年君は結局、何も買ってこなかったんだよね。」
能年(鎧)は芥川の言葉に、コクコクと2回小さく頷いた。能年は鎧の妖怪である。芥川の事務所に住み込み、彼の助手として働いている。
牧田「能年君はまだ、漢字を一生懸命に勉強しているようだね。」
能年(鎧)は牧田の言葉に、コクッコクッと2回大きく頷いた。彼(鎧)は部屋の隅にある小さな机で、漢字ドリルをやっている。服部夫人が時々、能年(鎧)に文字を教えているのだ。今はまだ小学校の国語の教科書で勉強しているが、そのうち中学校の教科書に進むだろう。
芥川「正直に言うけど、僕は村川冬樹の何が良いのかさっぱり分からないよ。」
第2章 文学論議
牧田はコーヒーを一口飲んでから言った。
牧田「僕も文学にはあまり興味がないから、なんとも言えないね。」
芥川もコーヒーを一口飲んでから言った。
芥川「僕は20代の頃、いろんな本を読み漁ったんだ。政治、経済、歴史、科学・・・もちろん文学もね。その上で、村川冬樹の本はつまらないと思うんだ。」
牧田「村川冬樹の本と言ったって、たくさんあるだろう。」
芥川「僕は村川冬樹の代表作『スウェーデンの森』を読んだんだ。彼の最大のベストセラーだよ。」
牧田「それがつまらなかったのかい?」
芥川「そうなんだ。僕は非常にがっかりした。なにがおもしろいのかさっぱり分からない。こんなものが、ノーベル文学賞候補である偉大な作家の、最大のベストセラーだと・・・とても信じられなかった。」
牧田「それで君は村川冬樹に幻滅してしまった・・・君のことだから、それ以外の作品は読んでいないんだろう?」
芥川「そのとおり。お金と時間の無駄だからね。あんなものを買って読むお金と時間があったら、ゴロゴロコミックやコミックポンポンでも買って読んだ方がましだよ。」
牧田「・・・僕は君の性格を知っているから何とも思わないけど、他人にそんな話をしない方がいいよ。」
第3章 評論家の狂気
芥川は冷めたコーヒーを飲み干してから言った。
芥川「そうなんだよ。どんな世界でも権威を批判すれば、逆にバカにされ、場合によっては迫害される。でも、文学論壇はちょっと異常だと感じるんだ。」
牧田「文学作品を批評したり評論したりする業界のことかい?」
芥川「そう。文学に限らないんだけど、自然科学と違って、絶対的な真理があるわけじゃないだろう。」
牧田「まぁ、数学とか物理学とか、そういう自然科学と比べれば、そうだね。」
芥川「例えば、全く教養のない人間が、世界的に名作と評価されている映画を観て、つまらないと思ったとする。誰も、彼の感想を否定することはできないだろう。」
牧田も冷めたコーヒーを飲み干してから言った。
牧田「君が言いたいことはなんとなく分かったよ。映画評論家は、つまらないと言ったその人間を、教養がないから映画の良さが分からないと断罪するだろうね。この映画は、もっと教養を身に付けてから鑑賞するべきだと。」
芥川「ポジショントークなら仕方ないけど、本気でそう思っているなら・・・一種の狂気だと僕は思うよ。」
牧田「芥川君はあまり、文学について語らないよね。」
第4章 市役所職員・最上(作家志望)
芥川は腕を組みながら言った。
芥川「文学は好きだし、評論家の仕事を否定するつもりもないけど、そういう界隈にはあまり深入りしたくないね。最近はブログが廃れて、その代わりにノートというサービスが流行っているみたいだけど・・・」
牧田「ノートはブログと違って、コミュニティを形成するための機能があるんだ。その種の機能に着目すればSNSと言ってよいだろう。自分の書いた記事を販売することもできるらしいよ。」
芥川「僕の友人に趣味でノートをやっている男がいるんだ。最上と言う名前なんだけど、彼はもともと作家志望でね。」
牧田「へー。芥川君の友人には作家志望の人もいるんだね。最上さんは普段、何をやっている人だい?まさか霞を食って24時間、小説を書き続けているわけじゃないだろう。」
芥川「最上君は市役所職員だよ。僕たちなんかよりよっぽど真面目で、真っ当に生きている人間だ。」
牧田「その人はどんな作品を執筆しているんだい?」
芥川「さぁ。最上君のノートにはエッセイしか載っていない。きっと執筆した小説は、どこかの文学賞にでも送っているんじゃないかな。」
牧田「なるほど。そういうことか。」
芥川「その最上君からおもしろい・・・と言ったら不謹慎か。彼から興味深い相談があってね。」
牧田「悪魔祓いだね。僕は今日、その話を聞きに来たんだよ。」
芥川「ハハハッ。前置きが長くなってしまったね。」
二人がそんな話をしている間、能年(鎧)は漢字ドリルを真面目にカリカリ音を立てて書いていた。
霊能探偵・芥川九郎のXファイル(33)【文学論議編】