映画『ネムルバカ』レビュー

 映画でも何でもそうですが、vs社会の構図で位置付けられるモラトリアムはその前提として「いつかは適合しなきゃいけないよね?」という諦念を置いていることが多い。嫌だ、嫌だと泣き叫ぶ赤ん坊のようなナイーブさを物語にしている。
 それはそれで非常に面白いけれど、そのナイーブさすら定型文のようにパターン化してしまったら「モラトリアム」自体が社会の向こう側の消費物と化してしまうようで、なんか癪に障る。けれど、その怒りをストレートに表現したら、それもまた結局「はいはい、モラトリアムね。モラトリアム」って感じで回収されかねない。あれ、てことはもううちら完全敗北してね?マジか〜って萎える姿も映像化すればまたモラトリアム。それを嘆いてもモラトリアム。だからまたモラトリアム。モラトリアム…。
 と、永遠に再生産できるモラトリアムの無間地獄を見事に断ち切るのが本作、『ネムルバカ』です。
 中途半端な才能に苦しむバンドマン鯨井ルカと、やりたい事もできる事もない入巣柚実が先輩後輩の関係で一緒に暮らす大学の貧乏寮。その日暮らしのギリギリ感満載で先の見えない不安を抱える先輩に対して、後輩はとにかくぽけ〜っとしっぱなし。そこに絡むのがこれまたモラトリアムを満喫しまくる入巣の同級生、田口と伊藤の野郎共。ホットケーキの素のようなふにゃふにで甘々な言動を行い、都合よく利用されたりして二人の日常に波風を立てる。
 テレビドラマとしても放送された大人気シリーズの『ベイビーわるきゅーれ』を手掛けた阪元裕吾さんが本作の監督を務めていると記せば、本作の大部分を占めるモラトリアムがどれだけ上質なものか誰もが瞬時に理解できるはず。ルカと入巣の間に流れる雰囲気は原作ファンほど身悶えすること必至です。再現度が高いどころじゃないその「本物」感は、平祐奈さんと久保史緒里さんの演技力の高さをも証明しています。特に久保さんは当時、乃木坂46に在籍中。にも関わらず本業ガン無視で袖を捲し上げ、腕をボリボリ掻いてジョッキをぐびぐび飲み干す酔っ払いな姿を見事に演じ切る。今、思い返しても強く思う、彼女が入巣でほんとに良かった。マジでファンになりましたよ。
 ストーリーの展開に関しては、転換点となるルカのプロデビューこそ冒頭に記したようなモラトリアム的なお決まりといえるものだけど、本作の真骨頂はその後の描写にあります。モラトリアムの塊のような『ネムルバカ』が世間のど真ん中で歌われる意義はvs社会の構図を超越して、向こう側から届けられる心からの叫びにまで至ってしまう。
 ルカがなんであそこに入巣を呼んだのか、かつての仲間たちがなんで、あそこでああなってしまったのか。ガンガンに鳴らされる音楽と、ルカに入れ込む入巣が叫んで泣いて、叫んで泣いてを繰り返して『ネムルバカ』というモラトリアムは確固たる地位を確立する。後戻りは勿論、そこから先にも何もない。だから輝くこの一文。
「かくして先輩は失踪を遂げる。」
 名作と謳われる漫画の原作をここまで映像として表現するとは。その感動も相まって、こちらも綺麗な涙をたっぷりと流せました。とんでもなくいい作品。ちょ〜お勧め。UーNEXT、Netflixなどで絶賛、配信中です。興味がある人は是非!

映画『ネムルバカ』レビュー

映画『ネムルバカ』レビュー

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-05-29

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