予期せぬ出来事 22

電車案内

 8月のある金曜日の出来事である。
 仕事が終わって会社を出て、赤羽東口の「文教堂書店」や「ブックオフ」を巡りながら時間を過ごし、20時過ぎの高崎線に乗った。
 いつも通りに、吊革に掴まって文庫本を読んだ。
 やがて電車は、大宮駅に着いた。
 そこで、外国の人が乗ってきてボクの横に立った。
 その外国の人は20代の男性で、スマホを操作しながら首を捻っていた。
 すると突然
「この電車は栗橋駅にいきますか?」とその外国の人が、ボクに訊ねてきたのである。
 もちろん日本語だった。
 栗橋、栗橋駅は宇都宮線じゃんと思い、違いますよ!って言おうと思った瞬間、プシューとドアが閉じてしまったのである。
 動き出した電車の中で、この電車は高崎線で栗橋には行かないよと説明した。
 じゃあどうすれば……と外国の人は、スマホに表示されている路線図をボクに見せながら訊いてきた。
 画面は英語表記だった。
 外国の人は、ここです、と言いながら指で画面を示している。
 スマホを覗き込みながらボクは、今乗っている電車と、乗らなければならない電車を指で教えた。
 このまま次の宮原駅で降りて、一度大宮に戻ってから宇都宮線に乗り換えればOK牧場だと説明したのである。
 やがて、電車は宮原駅に到着し、ドアが開いた。
 二人で開いたドアの前に移動し、このホームは下り専用だから、階段を渡って向こうに見えているホームへ行くべし! と教えた。
 その外国の人は「ありがとございます」と丁寧なお辞儀をして降りていった。
 善行を施したボクは、これで天国へ行けると思ったのである。
 これには余談がある。
 大宮駅に着いた時に、ボクの前の席が空いた。
 左右に女性は居なかったので……じゃあ座ろう、と思った瞬間に、その外国の人に声を掛けられたのだ。
 そこから二人で、あ~でもないこ~でもない、とやっているうちに、見知らぬ若造がその席に無遠慮に座ってしまったのだった。
 何だこの若造は! お前の天国への切符は無いぞと思ったのである。
    *
 また、別のある日の出来事だ。
 その日も、ボクは赤羽駅ホームで下りの高崎線を待っていた。
 待っていた電車は、東京駅を経由するいつもの上野東京ラインではなく、新宿池袋を経由してやってくる湘南新宿ラインだった。
 そこに背後の反対のホームに上り電車が入ってきて、そこから一人の外国の人が降りてきたのだった。
 でも、ボクは下り電車の方を向いて本を読んでいたので、確実とは言えないが、多分上りの湘南新宿ラインから降りてきたのだと思うのだ。
 すると、その外国の人がいきなり、もしもし、とボクに声を掛けてきた。
 振り返るとインド人風な男性が立っていた。
 絶対にインドの人だったとは言えないが、映画やテレビで観るインドの人に似ているからそう思ったのである。
 でもってそのインドの人が
「新宿へ行くには、どの電車に乗ればいいですか?」と流暢な日本語で訊いてきたのである。
 あれ、確かあなたは……あなたは今、上り湘南新宿ラインから降りてきたんではなかったでしたっけ?
 だったらそのまま、その電車に乗っていれば新宿に行けたのに、と思ったのだが後の祭だ。
 電車はもう行っちゃったあとだったのである。
 どうしょうかなぁ、このままこのホームで待っていれば新宿へ行けますよ、と教えてもあげても良かったのだが、そのインドの人にボクは
 また同じ電車に乗るの、マジですか、だったら乗ってれば良かったじゃん、がっかり↓……という思いをさせたくなかった。
 しかも、ホームの掲示板を見ると、次の上り電車がやって来るまでは結構な時間があったのである。
 そこでボクは、隣の向かいに見える埼京線ホームを指して
「階段を下りてあそこに入ってきた電車に乗れば新宿へ行けますよ」と教えてあげたのである。
 そのインドの人らしき人は、ありがとうと礼を言って階段を下りていった。
 でさぁ
 同じ日本人に道を訊かれたら即答出来るのに、外国の人ってなると、日本語で話し掛けられているにも関わらず、一瞬思考がストップしちゃうんのはなんでなんでしょうね……

 おしまい

予期せぬ出来事 22

予期せぬ出来事 22

電車案内

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-05-29

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted