霊能探偵・芥川九郎のXファイル(32)【暗黒僧の最期編】

第1章 稲見陽子からの連絡

 霊能探偵・芥川九郎は、事務所で友人の牧田と話していた。彼の事務所は中区にあって立地はよいが、古びたビルの一室に過ぎない。
芥川「そろそろ小腹が空いてきたね。おやつタイムにしようか。能年君にコーヒーでも淹れてもらおう。」
能年は鎧の妖怪である。芥川の助手として、彼の事務所に住み込みで働いている。能年(鎧)は部屋の隅にある小さな机で漢字ドリルをやっていたが、芥川の言葉を聞いて立ち上がった。
牧田「いや。今日は長居しすぎたから、そろそろ帰るよ。」
芥川「そうかい・・・牧田君、ちょっと待ってくれ。」
牧田「どうしたんだい?」
芥川「名古屋観光中の稲見さんから連絡が入った。暗黒僧の居所が判明したよ。」
牧田「本当かい?まさに急展開だね。」
稲見陽子は、妖狐が人間の姿に化けた女性である。彼女は今日、東三河の霊能探偵・神谷寛志の使者として芥川の事務所にやって来た。芥川に神谷からの伝言を伝えた後に、事務所を後にしたのは数時間前だ。
芥川「神谷先生のことだから、暗黒僧の居所について見当が付いていたのかもしれないね。」
牧田「さすが芥川君の師匠だ。神谷先生は全部お見通しで、芥川君はその掌の上で転がされているのかもしれないよ。」
芥川「そうかもしれないなぁ。まぁ、とりあえず行ってみようか。」

第2章 暗黒僧・一休

 牧田は芥川をたしなめて言った。
牧田「とりあえずって・・・芥川君。相手は魔界転生した一休宗純様だよ。油断していると、また足をすくわれるよ。」
暗黒僧・一休は、室町時代の禅僧・一休宗純の生まれ変わりだと自称する、魔界転生した僧侶の魔物である。
芥川「うん、分かっているよ。今回は鉄パイプを忘れずに持っていこう。」
牧田「魔界転生の魔物相手に、鉄パイプなんか通用しないだろう。」
芥川「とりあえず持っていこう、2本。ほら、君の分だ。」
芥川はそう言いながら、鉄パイプを1本、牧田に手渡した。牧田はそれを受け取りながら、不安げに言った。
牧田「鉄パイプ以外に、事前の準備とか打ち合わせとか、用意を・・・」
芥川「そんなことしてる時間はないよ。さぁ、行こう。喫茶・山登りへ。」
牧田「暗黒僧は喫茶・山登りにいるのかい?」
芥川「そうみたいだよ。今から急いで行けば間に合うだろう。牧田君、車を出してくれ。能年君も一緒に来てくれ。」
牧田「了解。」
能年(鎧)は芥川の言葉にコクッと1回、大きく頷いた。

第3章 喫茶・山登り

 芥川と助手の能年(鎧)を乗せ、牧田の運転する車は喫茶・山登りに急行した。喫茶・山登りは、名古屋はもちろん全国的にも有名な老舗喫茶店である。SNSでバズりやすい珍しいメニューもあるが、普通においしくてボリューム満点の料理が大人気だ。
牧田「着いたけど、どうするんだい?」
牧田は車を駐車場に停めてそう言った。芥川はスマホで稲見と連絡を取っている。しばらくすると、稲見が牧田の車に近付いてきた。一行は車を降りた。
芥川「稲見さん、ごくろうさま。暗黒僧はまだ店の中かい?」
稲見「はい。料理の量が多いので一生懸命に食べています。特に、甘口のスパゲッティに苦戦しているようです。」
牧田「暗黒僧はグルメなんだね。」
芥川「腹いっぱい食べて、そのうち店から出てくるだろう。店の出入口付近で待ち伏せしよう。」
 しばらくすると、暗黒僧・一休が喫茶・山登りから出てきた。芥川は一休に向かって言った。
芥川「あなたが魔界転生したという、噂の暗黒僧ですか。私は名古屋の霊能探偵・芥川九郎と申します。」
一休は鷹揚に言った。
一休「名古屋の霊能探偵・・・拙僧に何か用ですかな?」
芥川「端的に言いますと、霊能探偵として、魔界転生した魔物を野放しのまま看過することはできないのです。」

第4章 自称一休の説教

 一休は芥川の言葉に一瞬、顔をしかめたが、また澄まし顔に戻して言った。
一休「私は確かに魔物です。しかし、普通の魔物ではありません。室町時代は一休宗純として生きました。そして、その後に幾度も転生を繰り返した挙句に、とうとう魔界転生を果たしたのです。」
牧田「あなたは本当に、一休宗純の生まれ変わりなんですか?」
一休「・・・いかにも。」
芥川「そうですか・・・一休禅師。私は、霊能探偵などという罪深い仕事をしております。これから私は、どう生きていけばよいのでしょうか?人生とは一体、何なのでしょう。」
一休「過去の後悔、未来の不安に惑わされてはなりません。今を生きるのです。特別なことをする必要はありません。ただ、日々の暮らしを丁寧に。お金、財産、名声、評価・・・執着を捨てることです。そうすれば、心は自ずと軽くなります。何かを足すのではなく、むしろ引き算が肝要です。人生とは、今この一瞬の積み重ねなのです。」
芥川は大きく頷いて言った。
芥川「なるほど。一休禅師。しかし、人間の欲望は、生きるためのエンジン、活力でもあります。」
一休「さよう。食欲も性欲も、命を維持・再生するための大切な自然の営みです。問題は、欲望自体ではなく、執着です。足るを知ることです。欲望を抑え込むということではありません。必要以上に追い求め、振り回されることが苦しみを生み・・・」

第5章 芥川の言い分

 突然、芥川が激高して絶叫した。
芥川「黙れっ!このクソ野郎!!」
芥川はフルスイングで、持っていた鉄パイプを自称一休の頭に打ち込んだ。
 ブゥウーーーンッ!バキッ!!
自称一休「ギャアーーーー!!!」
頭を砕かれた自称一休はその場に倒れ込んだ。
牧田「芥川君!君は・・・」
芥川の蛮行に、牧田は呆然と絶句し、能年(鎧)は硬直し、稲見は無表情で傍観していた。
芥川「僕はこういう、偉そうな説教をする、口だけのクソ野郎が大嫌いなんだ。虫唾が走る。稲見さん。妖狐の炎でコレを焼却してくれ。」
稲見は芥川の指示に小さく頷き、火炎魔法で自称一休を燃やして灰にした。
牧田「でも、彼の説教は立派だったよ。本当に、本物の一休宗純様だったのかもしれないよ。」
芥川「牧田君は真面目で、案外ナイーブだからね。本物の一休禅師にしては、説教の内容が薄っぺらいんだよ。」
牧田「そうかなぁ。いい話だったのに・・・」
芥川「僕は最初に結論を宣言したよ。魔界転生した魔物を野放しにはできないと。説教の内容が良かろうが悪かろうが、本物の一休宗純だろうがなかろうが、関係ないよ。」
牧田「・・・・・・」
牧田は憮然とした表情で黙っていた。鎧の能年と妖狐の稲見の気持ちは、表情から読み取ることはできなかった。

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(32)【暗黒僧の最期編】

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(32)【暗黒僧の最期編】

「僕はこういう、偉そうな説教をする、口だけのクソ野郎が大嫌いなんだ。虫唾が走る。」 今回の敵は、魔界転生したと噂される「自称・一休宗純」! 説教の内容が良かろうが悪かろうが関係ない。 霊能探偵・芥川は、独自の倫理観と鉄パイプで容赦なく一刀両断する・・・ 人生の真理を説くありがたい説教を一瞬で台無しにする、あまりにも非情なお気楽バイオレンスコメディ第32弾!

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-05-28

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  1. 第1章 稲見陽子からの連絡
  2. 第2章 暗黒僧・一休
  3. 第3章 喫茶・山登り
  4. 第4章 自称一休の説教
  5. 第5章 芥川の言い分