霊能探偵・芥川九郎のXファイル(31)【暗黒僧の噂編】
第1章 昼食(お好み焼き)
霊能探偵・芥川九郎は、中区の事務所で友人の牧田と昼食を食べていた。中区にあると言っても、古びたビルの一室に過ぎないのだが。ちなみに、今日の昼食はお好み焼きである。
牧田「ごちそうになってしまって、悪いね。」
芥川「ハハハッ。僕に礼を言う必要はないよ。叔母さんが作ってくれたんだから。」
牧田「服部夫人の作る料理はおいしいね。」
芥川の叔母・服部夫人は、彼の事務所の隣にある服部税理士事務所の税理士先生の奥方である。服部夫人は甥っ子の芥川のために、いろいろ世話を焼いてくれる優しいご婦人なのだ。
牧田「能年君は今日、服部夫人と一緒に本屋へ行ったんだって?」
能年(鎧)はコクッと1回、大きく頷いた。能年は鎧の妖怪である。芥川の事務所に住み込み、彼の助手として働いている。
芥川「おもしろい本はあったかい?能年君は今、小学校の国語の教科書で文字を勉強しているけど、すぐに中学校の教科書に進めると思うよ。」
それを聞いて、能年(鎧)は弱々しく首を振った。
牧田「能年君は器用で何でもできるけど、国語の勉強はまだまだみたいだね。漢字を覚えるのが難しいのかな?」
能年(鎧)はコクッコクッと2回、大きく頷いた。
芥川「漢字なんて書けなくても大丈夫だよ。今は老若男女みんな、パソコンやスマホを使っていて、そのせいで手で漢字が書けなくなっているんだから。皮肉なもんだね。」
第2章 魔界転生
昼食後に、芥川と牧田はお茶を飲みながら話していた。
芥川「えーと、牧田君にどこまで話したっけ?」
牧田「稲見さんが伝言で言っていた、暗黒僧の話だよ。」
稲見陽子は、妖狐が人間の姿に化けた女性である。彼女は、東三河の霊能探偵・神谷寛志の使者として芥川の事務所にやって来て、神谷の伝言を伝えるとさっさと帰っていった。
芥川「あー、そうそう。暗黒僧・一休の伝説だね。」
牧田「一休って・・・あの一休宗純かい?」
芥川「そう、あの一休。」
一休宗純は室町時代の禅僧である。アニメ『一休さん』のモデルとして世界的に知られている。しかし、史実はアニメのとんち小僧のイメージと異なる。彼は、権威を嫌い、戒律を無視して自由奔放に生きた破天荒な高僧だった。
牧田「室町時代の僧侶・一休宗純が、暗黒僧として復活したということかい?」
芥川「当たらずとも遠からずだね。牧田君は、魔界転生という言葉を知っているかい?」
牧田「魔界転生って・・・悪魔の儀式で、死んだ人間が魔力を持って蘇るという小説のことかい?」
芥川「そう、その魔界転生。これを原作とするマンガやアニメ、映画があったね。特に、映画は大ヒットしたから有名だよね。」
牧田「まさか、室町時代の一休宗純が魔界転生したということかい?」
第3章 噂の真相
芥川はお茶を一口飲んでから言った。
芥川「そうだと信じている人もいるけど、僕は違うと思うよ。神谷先生からの伝言は、『暗黒僧の噂は本当だった』という一言だけだ。」
牧田「『一休宗純が魔界転生したという噂は本当だった』・・・ということだろ?」
芥川「いや、正確に言うと、『暗黒僧という魔物がいて、その魔物が一休宗純の生まれ変わりだと自称している』・・・のは本当だったということだ。」
牧田はお茶を一口飲み、腕を組んで言った。
牧田「なんだか、ややこしい話だね。」
芥川「暗黒僧が一休宗純の生まれ変わりかどうかなんて、確かめようがないよ。例えば、僕の前世は織田信長だと言ったって、みんな笑い話だと思って真剣に受け取らないだろう。」
牧田「そりゃそうだよ。そんなの言った者勝ちだろう。」
芥川「じゃあ、なんで魔物の言うことは、みんな真に受けるんだろう。よく考えてみると不思議だよね。」
牧田「芥川君の言いたいことは分かったよ。確かなことは、一休宗純の生まれ変わりだと主張する、暗黒僧という魔物がいるということだね。」
芥川「もちろん、本当に一休宗純の生まれ変わりかもしれない。しかし、そうじゃないかもしれない。」
第4章 暗黒僧・一休
牧田は芥川に率直に質問した。
牧田「その暗黒僧はどこにいて、どんな悪いことを企んでいるんだろう?」
芥川「さぁ、魔物は神出鬼没だからね。榊原博士のように・・・」
榊原は、召喚魔法を完成させるために悪魔と契約した魔獣博士である。そのために魔界から出ることができないようで、仮体で人間界にやって来ては、魔獣を召喚したり、人間を騙したりしている。
牧田「暗黒僧の目的は何だろう?一休宗純の生まれ変わりとして一体、何をするつもりなんだろうね。」
芥川「一休宗純の生まれ変わりじゃないとしても、わざわざ一休宗純の生まれ変わりだと主張しているんだから、何か意味があるんだろうね。あるいは、嘘をついているわけではなくて、本当に自分は一休宗純の生まれ変わりだと信じているのかもしれない。」
牧田「榊原のように、仮体のようなものだったら退治できないね。」
芥川「いや。多分、ただの魔物だと思うよ。一休宗純が魔界転生したという噂が、おどろおどろしさを演出しているだけだと思うんだ。」
牧田「『魔界転生』の天草四郎は、恐ろしい魔物だったからね。暗黒僧はどんな妖術を使うんだろう。」
芥川「まぁ、どんな魔物が相手でもやることは変わらないよ。霊丸や攻撃魔法で退治するか、鉄パイプでボコボコにするか・・・」
牧田「・・・『魔界転生』みたいな奴なら、鉄パイプじゃ無理だと思うよ。」
芥川と牧田がそんな話をしている間中、能年(鎧)は部屋の隅にある小さな机で一生懸命に、漢字ドリルで漢字の練習をしていた。
霊能探偵・芥川九郎のXファイル(31)【暗黒僧の噂編】