霊能探偵・芥川九郎のXファイル(30)【稲見陽子編】
第1章 芥川の失恋?
霊能探偵・芥川九郎は、事務所で友人の牧田と話していた。彼の事務所は中区にあって立地は最高だが、古びたビルの一室に過ぎない。
芥川「牧田君。フォーさんには婚約者がいることが判明したよ。」
芥川の言葉に牧田は少し驚いた。
牧田「えっ!そうなのかい?」
フォーは、日本で唯一の公的な超能力研究機関・ハルサメ研究所の研究員である。と言っても、彼女はもともと自衛隊に所属していて、ハルサメ研究所に出向という形で勤務している。
芥川「フォーというのはコードネームで、彼女の本名は島津小百合。京介君と婚約しているそうだよ。」
神谷京介は東三河の霊能探偵である。芥川は駆け出しの霊能探偵だった若い時分、京介の父・神谷寛志に師事していた。
牧田「フォーさんと京介君か。お似合いのカップルだね。」
芥川「僕とフォーさんの儚いラブロマンスは、あっけなく終了してしまったわけさ。」
牧田「ラブロマンスって・・・君が勝手に盛り上がっていただけで、何も始まっていなかったじゃないか。」
芥川「そういう解釈もできるけど・・・まぁ、この話はもうやめよう。終わってしまったんだから。」
牧田「君がおかしなことをする前に終わって、逆によかったんじゃないかな。」
第2章 能年君のお勉強
芥川は席を立ち、コーヒーを2杯入れた。
芥川「牧田君、君も飲むよね。朝、能年君が淹れてくれたのが残っているんだ。」
能年は鎧の妖怪である。芥川の助手として、彼の事務所に住み込みで働いている。
牧田「ありがとう、いただくよ。能年君は、今日はどこへ出かけたんだい?スーパーで買い出しかな。」
芥川「いや。今日は叔母と一緒に本屋へ行ったよ。」
牧田「本屋?能年君は本を読めるのか。」
芥川「叔母が能年君に文字を教えているんだよ。まだ、小学校の国語の教科書だけどね。」
牧田「へー。服部夫人が能年君の国語の先生か。」
服部夫人は芥川の叔母である。芥川の事務所の隣に税理士事務所があり、服部夫人はその税理士先生の奥方だ。服部夫人は甥っ子の芥川のために、いろいろ世話を焼いてくれる優しいご婦人なのだ。
芥川はコーヒーを牧田に渡し、自分の分を持って席に戻った。牧田はコーヒーを一口すすって言った。
牧田「能年君の淹れたコーヒー、おいしいね。」
芥川もコーヒーを一口すすって言った。
芥川「うん、おいしいね。」
牧田は話題をフォーと京介の婚約に戻した。
牧田「京介君はフォー・・・えーと、本名は小百合さんだっけ?彼女とどこで出会ったんだろう。」
芥川「僕たちと同じだ。日本超能力協会(NCK)の総会で出会ったそうだよ。京介君は寛志先生と一緒に出席していて、彼女と出会って一目惚れ。寛志先生も、彼女のことを非常に高く評価している。それ以来、トントン拍子で進展してとうとう婚約と相成ったわけさ。」
牧田「なるほど。そういうわけか。」
第3章 稲見陽子
芥川はコーヒーを一口飲んでから、おもむろに言った。
芥川「今日は、その寛志先生からのお使いが来るんだ。」
牧田もコーヒーを一口飲んでから言った。
牧田「芥川君。君の気持ちも分からないではないけど、京介君をお使い呼ばわりは失礼じゃないか。」
芥川「いや、京介君じゃないよ。本当にお使いが来るんだ。狐のね。」
牧田「狐?」
芥川「正確に言うと妖狐だよ。その昔、豊川市で妖狐騒動があってね。東三河の霊能探偵・神谷寛志先生が見事に退治した・・・」
牧田「その妖狐が今日、ここに来るのかい?」
芥川「そう。神谷先生は優しい霊能力者だから、妖狐の命までは取らなかった。妖狐は賢いからね。その恩に報いるために、彼女はその日から神谷先生の忠実なお使いとなった。」
牧田「彼女ということは、女性の妖狐か。」
芥川「もちろん、妖狐の姿で来るわけじゃないよ。人間と相対する時は、ちゃんと人間の姿に化けている。名前は稲見陽子さん。」
牧田「豊川稲荷の妖狐だから、稲見陽子さんか。何の用で来るんだい?」
芥川「用事自体は簡単な言付けだと思うよ。でも、今の時代、電話やメールがあるんだから、わざわざ来る必要はない。稲見さんを名古屋へ出張させること自体が目的だろう。」
牧田「妖狐の見聞を広げるためか。神谷先生は本当に面倒見がいいんだね。」
第4章 妖狐の伝言
しばらくすると、稲見陽子が芥川の事務所にやって来た。
稲見「こんにちは、芥川先生。おひさしぶりです。」
芥川「やぁ、稲見さん。こんにちは、ひさしぶり。こちらは僕の友人の牧田君。」
牧田「はじめまして、牧田です。」
稲見「あなたが牧田さんですか。お噂はかねがね伺っております。よろしくお願いします。」
牧田は稲見を見て驚いた。フォー・・・小百合に勝るとも劣らない美人である。
芥川「稲見さんはコーヒー・・・と言うか、カフェイン系の飲み物は苦手だよね。」
稲見「お気遣いなく。飲めないことはありませんが、あまり好きではありません。」
芥川「冷蔵庫に麦茶があるから、それを出すよ。」
牧田「僕も飲みたいから、僕が3人分入れるよ。」
牧田は麦茶を3杯入れて、稲見と芥川に1つずつ渡した。
稲見「ありがとうございます。」
芥川「ありがとう。」
牧田は自分の分の麦茶を持って席に戻った。稲見は麦茶をゴクゴク飲んでいた。
芥川は麦茶を一口飲んでから、稲見に向かって言った。
芥川「稲見さん。さっそくですが、神谷先生からの伝言をお聞かせいただけますか。」
稲見「はい。暗黒僧の噂は本当だったそうです。」
芥川「そうか・・・稲見さん、ありがとう。ごくろうさま。せっかく名古屋に来たんだから、適当に観光して帰るといいよ。」
稲見「芥川先生、お心遣いありがとうございます。せっかくですので、そうさせていただきます。」
稲見はそう言うと、芥川と牧田に頭を下げ、さっさと事務所から出ていった。
牧田「芥川君。稲見さんが伝言で言った暗黒僧って、何のことだい?」
芥川「・・・話すと長くなるからね。牧田君、もうすぐお昼だよ。そろそろ叔母さんと能年君も帰ってくるだろう。とりあえず、昼食にしよう。」
牧田「・・・そうだね。確かにお腹が空いてきた。」
芥川は腕を組み、何やら真剣に考え事をしているようだった。
霊能探偵・芥川九郎のXファイル(30)【稲見陽子編】