Dark N-auth-est : White S-auth-word【1】
※このページは【1】のみ掲載しています。
「また、闇が来たか」
女はそうひとりごつ。
前方からは、黒い渦の波が、一つ、二つ。
その女が乗っている狼も、ただ静かにそれを見守っている。
「……ということは、また裏側で、一つの生命が生まれたな」
女はそう言うと、乗っている狼のたてがみを軽く叩く。 狼は踵を返してその場を離れる。
「こちら側の肉体はどこか……」
狼に乗せられ、風を切る女はそう言っている。
「早々に見つけて、対処しなければ」
「ヴィヴィ、こっちこっちっ!」
草原に寝っ転がってひなたぼっこをしながら、うとうとしていた私を呼んだのは、紛れもない彼女だった。
「うーん……。なに、ヨミ?」
私は目をこすりながら半身を起こすと、ヨミは遠くで 亜麻色の髪を揺らしながら元気に手を振っていた。
「一緒に追いかけっこしようよ」
「ちょっとごめんね。さっきまでかくれんぼしてたから、ちょっと疲れちゃった」
正直にそう言うと、ヨミは、えー、なんで、と言って少し残念そうな顔をする。
「だって疲れちゃったんだもん」
私はそう言ってまた寝っ転がる。
――カンカンカン――
その時、私たちが住む村のほうから、そんな甲高い音が聞こえた。
「あっ、時報だよ。何かあるのかな」
――時報……? 少し怪訝に思って、私は晴れた空を見上げるが、まだ太陽は、正午時まで昇っていない。
――何か、ある。でも、なんで?
そう思ってパッと上半身を上げて村のほうを見ると、そこは曇りがかって、黒くなってるように見えた。
「雨でも降るんじゃない」
私は適当にそう言っておいた。しかし、何かが不自然だった。今までで豪雨が降る時であってもそんなことは 鳴らさなかった。
「そうかもね。あはは」
と、ヨミは私の隣に来て、一緒に寝っ転がる。
「ヴィヴィロット、ヨミ! 何してるの!? 早く来なさいッ!!」
その直後、聞き覚えのある声――私のお母さんの声が先ほどの時報よりも巨大でけたたましく聞こえた。
私はピンと体を起こした。
「お母さん、何? わざわざこっちまで来て」
私は少しも驚くことを隠さずに母にそう言った。
「闇が来たのよ! 逃げるわよ!」
私とヨミは女衆が 騎乗する馬の群れの中にいた。
「闇って本当に来るんだね この村で初めてじゃない」
私は真剣そのもののお母さんにそう 呼びかける。
「そうだね、時報が鳴らされてもほとんど 誰も気づかなかったのは仕方のなかったことかもしれない」
お母さんは 手綱を少し引く。
先ほどの 黒い影はどんどん濃くなっているような気がする。
「それより 村が闇に飲まれてしまって私たちこれからどうすればいいのかしらね……。一度 闇をかぶった大地は干上がって回復しないと言うし」
お母さんが目に見えて頭を抱えているのが見える。
「私 怖いよ ヴィヴィ……」
ヨミは見るからに不安そうな表情をして私に抱きついてくる。
「大丈夫だよ、生きてる限り何とかなる」
そんなきれいごと地味 たこと言った直後だった。
「魔物が近づいてくるッ!! 早く逃げろ、馬をかけらせろ!」
村の自警団のリーダーの女性はそう言って後方から走ってくる。
「魔物だって……嫌、私……」
ヨミは私の服に顔を埋めてくる。
「皆 行くぞ! 今出なければ命はないと思え!」
前方の副リーダーは先陣を切って走らせる。
行くよ 2人! ちゃんとつかまってなさい!」
お母さんがそう言った、
直後だった。
左の方から何か黒い槍のようなものが飛んできて お母さんの左手を突き刺した。
「……ッッ!!」
「お母さんっ!!」
お母さんは声にならない叫びを上げて 馬上から吹っ飛ぶ。私たちも明後日の方向に吹き飛んだ。
「魔物の攻撃だ! はっきり言う、今は全員が生き延びることを願うな!! 1人でも多くを生き残らせろ! 自分の身は自分で守れ!!」
――ヒヒーン!!――
と言った副リーダーもその直後に頭を貫かれたようだ。
――きゃあッ!!
――死にたくないッ!!
全員が全員 狂ったように叫ぶ。
混濁する意識の中 私は1つの 黒い塊のようなもの 捉えていた。
それは巨大な人型のように見える、右手には剣のようなもの 構え、私の方にゆっくりと歩いてくる。
「お前が、お前がこちら側の光か?」
女の声が聞こえる。魔物に性別 などあるのか。
「お前のせいで私がどれほど苦しい目に遭ってるかわかるか?」
私は恐怖で何も言葉を出せずただヨミの手を握っていた。
「ここでお前を殺す」
私に向けて剣を振りかざした魔物はこう叫んだ。
「――あたしの、みんなの家族のため、父さんのため、母さんのために」
そう叫んで 剣を振り下ろした。
その時、私は反射というか……何かに囚われたように、
ヨミを抱きかかえた。そうして縦のようにして身を守った……いや、身を守ってしまった。
なぜか。
大好きな親友だったのに。
剣の一撃はもちろん、ヨミに当たる。
……ァ……
ヨミは叫ぶことも叶わず 即時に絶命した。
「ヨミ!! ヨミッ……!! なんで……どうして……」
……私は、血を吐いた ヨミを抱えてもはや涙も出なかった。
「……クソが ……こんな時に限って」
女の魔物はそう言って、一歩下がる。なぜか頭を抱えている。
「ヨミッ!! ヨミッ……!!」
私は亡くなった彼女にとにかく 叫んでいる。叫ぶことしかできなかった。
「……お前の憎しみはどこだ? 憎しみを表してみろ。私に対してな」
女の魔物はもはや 構えも忘れ、そういう風に言っている。
「このッ……化物……ッ!!」
私は無意識に右手を出し、空間から現れた黒い刃を受け取る。女の魔物に戦いの心得など何一つもないのに突撃していた。
「そうだ、それで良い。その女を守ろうとするな、自分が一番なんだろう?」
私はもはや 答え さえしなかった。女の魔物に一太刀を浴びせなければ気が済まなかった。
――魔物の姿は 神々しい天使のような騎士の姿に変貌していた。
「私は、私の『信念』を貫き通す。お前はどうだ?」
「ただお前をコロす!! それダケだッ!!」
私はそう叫び、闇の刃を白い天使に振りかざす。無論 そんなものが当たるはずもない。
すぐに次の1刀を振り抜くがそれは化け物の剣に防がれてしまう。
「そうだ、ヴィヴィロット。自分を解放しろ、全てを曝け出せ」
――なぜ名前を知ってる――ッ!!
私と騎士は叫び合いながら剣をかわす。
その時 刃が 鍔迫り合い を起こしていた時に、その剣間に細い 腕が組み込まれた。
「何……?」
魔物は一瞬たじろいでその腕を向けたものの 方を向く。
その右手は、刃を抑えようとして肉が食い込み 血だらけになっていた。
「お母さん……!」
私はその女性に叫ぶ。
「化け物、私の娘に何かをしようとするのなら大間違いだ。だったら私を殺せ」
「お母さん ダメだよ! 一緒に帰ろう? 私ももうこんなことしたくもない
ようやく 私の瞳からは大粒の涙が流れてきた。剣を消し 母に抱きつく。 体温を感じた。
「クソッ……クソッ……クソッ……!!」
白い天使は黒い騎士の狂戦士に変貌していた。
……あたしは、憎しみなんて持ちたくないのに……
自分の得物を落とし、顔を両手でおおい、意味不明なこと言っている。
魔物はその場に崩れ落ちた。もはや戦う気など一つもないように見える。
「お母さん 逃げよ? 私ももう耐えられない」
その前に 私はヨミの小指にはめられていた1つの銀の指輪を持っていく。
「……ヨミ、絶対、忘れないからね」
「……人間よ、なぜ貴様らは光を。喜びを、前提にして作られているのだ?」
魔物は崩れ落ちた体制のまま泣きでもしているのか、涙声でそう言っている。
「……ダメ、もう意味がわからない。お母さん、逃げよ」
私たちは後ろも見ず無心で走った。なぜだか それは本当にあの化け物が1つも攻撃してこないという気配が、本当に、本当にわかったからだ。
【1】終
Dark N-auth-est : White S-auth-word【1】