霊能探偵・芥川九郎のXファイル(22)【ユビのチリソース炒め編】
第1章 末期の胃癌
名古屋のとある零細企業に勤める中山は、勤続30年のベテラン社員である。ベテラン社員と言っても、プレイングマネージャーとしてバリバリ働いているわけでも、管理職として部下を指導しているわけでもない。名ばかりの役職を与えられ、日々をただ無難に過ごす毎日だった。そんな彼の人生を一変させたのは、健康診断で見つかった胃癌だった。
医師「中山さん。残念ですが末期の胃癌です。」
主治医にそう告知された中山は、頭の中が真っ白になってしまった。その後、医師は彼にいろいろな話をしたが、何も覚えていない。家に帰った中山はテーブルのイスに座り、ずっと黙っていた。彼は医師の説明どころか、自分がどうやって家に帰ってきたのかも覚えていない。ただ覚えているのは余命宣告だった。
中山「長くて半年・・・」
彼は会社の社長に事情を説明し、早期退職することになった。社長は中山にいたく同情し、涙を流しながら励ましてくれた。零細企業と言っても、退職金はそれなりの金額だった。退職金が振り込まれた預金通帳を見ながら、中山は寂しくつぶやいた。
中山「あと半年・・・私はどうしたら・・・」
第2章 メフィストフェレス
中山は名古屋の繁華街で毎日、日付が変わるまで飲み歩いた。いろいろな風俗で遊んでみたが、若い頃のように興奮することはできない。食欲も若い頃のように旺盛ではない。旅行を楽しむ気分にもなれない。結局、彼には飲酒以外に娯楽がなかった。
中山「いくら飲んでも、気分が晴れない・・・」
彼は今日も居酒屋で泥酔するまで飲み、深夜に帰宅した。そうして、涙を流しながら一人静かにつぶやいた。
中山「人間は、独りで生まれ、独りで死んでいく・・・」
中山はテーブルのイスに座り、しばらく居眠りしていた。やがて目を覚ました彼は、向かいのイスに見知らぬ男性が座っているのを見た。
中山「驚いた・・・とうとう幻覚が見えるようになったのか・・・」
男性「フフフッ。私は幻覚などではありませんよ。」
中山「あなたは誰ですか・・・」
男性「私の名はメフィストフェレス。魔界からやって来た悪魔です。あなたの底知れぬ絶望と深い悲しみが、私をここに導いたのです。」
中山「悪魔のメフィスト・・・悪魔と契約すれば、私は救われるのでしょうか?」
メフィスト「それはあなた次第ですよ。どんな人生だとしても・・・」
第3章 守屋愛の悪鬼
霊能探偵・芥川九郎の友人・牧田は、いつものように芥川の事務所にやって来た。事務所は中区にあって立地はよいが、古びたビルの一室に過ぎない。事務所に恐ろしい形相の悪鬼がいたので、牧田は驚いて思わず叫び声を上げてしまった。
牧田「ワァア!!驚いた!鬼がいる・・・なんで?」
芥川「やぁ、牧田君。驚かせてしまったようだね。ごめん。この鬼は守屋先生の手下だよ。」
牧田「驚いて心臓が止まるかと思ったよ。守屋愛の鬼が、なんでここにいるんだい?」
芥川「今日の夜まで預かることになったんだよ。守屋先生は何かと忙しいからね。」
守屋愛は、魔法学会を追放された危険な魔術師である。彼女は人気占い師でもあり、『愛の奇石』という怪しげな石を販売している。
牧田「君は、今日の夜まで鬼と一緒に過ごすのかい?」
芥川「僕は『愛の奇石』販売代理店第1号の名古屋エリア統括マネージャーになったんだ。ビジネスパートナーの頼みを無下に断れないよ。」
鬼「ガルルッ・・」
牧田「この鬼、人間の言葉を理解できるのかな?彼の名前は何て言うんだい?」
芥川「守屋先生は手下の魔物に一々、名前なんか付けてないんじゃないかな。彼は鬼だから、今から鬼塚君と呼ぼう。」
第4章 フランス料理店
芥川は牧田と一緒に、鬼塚(鬼)を連れてフランス料理店に来ていた。
牧田「夕食はフランス料理か。豪勢だね。」
芥川「鬼塚君を預かるお礼として、守屋先生がフランス料理をおごってくれることになってね。ここのオーナーは守屋先生のパトロンの一人だよ。」
鬼塚(鬼)「ガルルッ・・」
牧田「鬼塚君は、フランス料理のテーブルマナーなんて知らないだろう。どうするんだい?」
芥川「鬼塚君。僕が食べるのを見てから、僕の真似をすればいいからね。」
鬼塚(鬼)「ガルルッ。」
しばらくすると料理が運ばれてきて、3人はコース料理を堪能した。
牧田「おしいい料理だね。」
芥川「うん。おいしい。」
鬼塚(鬼)「ガルルッ。」
その時、隣のテーブルの男性が話しかけてきた。
榊原「おやおや、こんなところで奇遇ですなぁ。」
なんと、そこには魔獣博士・榊原がニヤニヤ笑いながら座っていた。榊原は魔獣研究者だ。召喚魔法を完成させるために悪魔と契約した外道である。榊原の向かいの席に座る男性が言った。
中山「メフィストさん。お知り合いですか?」
榊原の連れは末期癌の中山だった。
第5章 ユビのチリソース炒め
榊原は相変わらずニヤニヤ笑いながら言った。
榊原「彼は名古屋の霊能探偵・芥川氏です。今日は鬼の友だちと一緒みたいですね。彼は狡猾で陰険だから、鬼や妖怪しか友だちがいないんですよ。」
榊原(メフィスト)に心酔する中山は調子に乗って言った。
中山「ハハハッ。メフィストさん、そんなことを言ったらダメですよ。あの鬼は、フランス料理を上手に食べられないみたいですね。」
鬼塚(鬼)の口元やナプキンは、落とした料理やソースで汚れていた。
牧田「あなたは榊原・・・メフィストの友人ですか?」
中山「私は末期の胃癌であと半年の命です。しかし、私の魂はメフィストさんによって救われたのです、永遠に。」
芥川は中山の失礼な言動に激怒した。彼はイスから立ち上がると、中山の上半身をテーブルの上に組み伏せた。
芥川「半年の命だかなんだか知らないが・・・黙って聞いてりゃ、調子に乗りやがって!堅気(非能力者)が調子に乗るなよ!!」
芥川は鬼塚(鬼)に向かって言った。
芥川「鬼塚!そこのナイフでこいつの指を全部切断しろ!!どうせ死ぬんだから、指なんか必要ないだろ。ユビのチリソース炒めを作らせて、お前に食わせてやる!!!」
鬼塚(鬼)「ガルルッ!」
鬼塚(鬼)は一番内側のナイフを手に取った。それを見た芥川が大声で叫んだ。
芥川「鬼塚!ナイフは一番外側のやつから順番に使うもんだっ!!」
鬼塚(鬼)「ガルルッ?・・・!」
鬼塚(鬼)は芥川に叱られて落ち込んでいる。
第6章 芥川の霊能力:霊丸
牧田が慌てて芥川を羽交い絞めにした。
牧田「芥川君!落ち着いてくれ!!」
榊原は相変わらずニヤニヤ笑いながら、騒動を見物している。芥川は牧田の羽交い絞めを振りほどくと、榊原に向かって霊丸をぶっ放した。
芥川「なに笑ってんだっ!このクソ野郎!!」
ズッバァアーーーンッ!!!
芥川が撃った霊丸は榊原の頭部に命中し、榊原はそのまま後ろに倒れてしまった。しばらくすると榊原の体は、白い煙は放ちながら消滅してしまった。
牧田「榊原の本体は魔界にあるんだから、仮体をいくら倒しても意味はないだろう。」
芥川「そうかと言って、奴の無法を黙って見過ごすわけにはいかないだろう。」
牧田「無法者は君だろう。今日の榊原はニヤニヤ笑いながらイスに座っていただけだよ。」
中山「メフィストさん・・・」
心の支えであったメフィストを失った中山は、ひざまずいて涙を流している。
牧田「後始末はどうしよう。」
芥川「ここは守屋先生のパトロンのお店だから、何も心配することはないよ。夕食は終わりだ。鬼塚君を守屋先生の事務所まで送っていこう。」
鬼塚(鬼)「ガルルッ。」
芥川と牧田は、鬼塚(鬼)を連れて店を出た。夜空には雲一つなく、美しい三日月が輝いていた。
霊能探偵・芥川九郎のXファイル(22)【ユビのチリソース炒め編】