273 三題噺『しークレットアジサイ男』
『しー』『アジサイ』『ハサミ』の三題噺になります。ムズい!
「あー!!!!! 仕事クビになったーー!!!」
俺は叫んでいます。
「あー!!!!! 競馬負けたーー!!! 30万!!!」
俺は心の底から叫んでいます。
世界で一番叫んでいます。
なので、町の名物おじさんになります。
ちょうど梅雨だったので、俺は道端に咲いていた紫陽花を摘んで、レインコートにガムテープで貼っつけて、ハサミを持って街に出た。
『テキトーラブで腰砕け~🎵』
今流行りの曲をスマホで流しながら、俺は街を冷静に、平然と闊歩する。俺はこの状態で冷静になれる自分に逆に驚いた。
『甘い声で中身スカスカで~🎵』
「何あの人、こわ」
「見ない方が……」
傘越しに女子高生と瞳が会う。俺はレインコートなので傘はないが、女子高生は傘を傾けて視線を遮った!
「ちょっと」
振り返るとそこに居たのは警察官だった。
□
「で、リストラされて、ヤケになってギャンブルしてタコ負けして、で、なんで名物おじさんになりますってなるんですか」
「はい、すみません」
「ハサミはね、長さによっては銃刀法違反になるから、気をつけてくださいよ?」
「はい、すみません。でも、しばらくはこの格好でいます」
「なんでまた」
警察官の方は優しい。真摯にこんな俺に付き合ってくれる。
「実は秘密があるんです」
「どんな」
「それが、その……」
「その醜態晒して、言えない秘密って逆に気になりますね」
警察官はふふと笑った。
「恋愛絡みでしょ?」
「あ、いえ。娘の大学入学試験です」
「あんた、独り身じゃないのか!」
「ええ、なんですか、その反応」
「いえ、てっきり、冴えない中年独身男性かと……」
「まぁ、名物おじさんやってたらそう思われるか……」
「仕方ないですね。まぁいいです。今回は注意ということで、帰っていいですから」
「いえ、ここの留置所にいさせてください。金も家族に合わせる顔もないもので……」
「全く……」
「ありがとうございます」
「1つ条件があります」
そう言うと彼はほくそ笑む。
「娘さんの写真をば……」
「あー、そういう。読モやってるんですよ。これです」
写真を仕方無く見せる。
「えー!!!! 田中リレイラじゃないですか!」
「まぁ、なので、私も同じく名物方面に行こうとしたんです」
「そういうことだったんですね」
「はい……」
「じゃあ紹介してください」
「は? い?」
「泊めてあげるんでどうか!」
その後、二人は夜を語り明かしたという。しークレットアジサイ男は一夜限りの伝説となった。ちなみにその姿はちゃんと複数名の匿名投稿によりネットの玩具にされた。
273 三題噺『しークレットアジサイ男』