霊能探偵・芥川九郎のXファイル(12)【最恐ラブドール・あべサダ編】

第1章 アンドロイド

 霊能探偵・芥川九郎は彼の事務所で、知人のアンドロイド開発者・南条の相談に乗っていた。南条は、芥川の友人である天才ICTエンジニア・遠藤の友人だ。友だちの友だちは、みんな友だちである。芥川の友人・牧田も同席している。
芥川「さすが、遠藤君の友人だ。あなたも相当なエンジニアですね。まぁ、専門領域の違いによる得手不得手はあるんでしょうけど。」
牧田「遠藤さんというのは、僕たちが手がけた事件で度々、重要な技術的サポートをしてくれた人だね。」
南条「どうも、恐れ入ります。」
牧田「今回の依頼は、研究所から脱走した開発中のアンドロイドの捜索ですか?」
芥川「アンドロイドと言われるとどうしても、スマホのAndroid OSを連想してしまうよ。」
南条「そうですよね。Androidのスマホが普及する前は、アンドロイドと言えば、人間そっくりに作られたロボットのことだったんですが。」
牧田「でも、アンドロイドの脱走で、南条さんは何故そんなに狼狽しているんですか?確かに、アンドロイドが不用意に道路に飛び出して、交通事故でも起こしたら大問題になりますけど。」
南条「脱走したアンドロイド・あべサダは、ある意味、人間よりも賢いんです。交通事故を起こすようなヘマはしません。」
芥川「じゃあ尚更、そんなに慌てることもないでしょう。ゆっくり地道に捜索したらいいじゃないですか?そのうちバッテリーが切れて、どこかで停止してるのを誰かが発見・通報してくれますよ。」
牧田「そうですよ。なんで南条さんがわざわざ、自分の私的なコネクションを利用して霊能探偵なんかに依頼するのか、正直よく分かりません。」
南条は思案顔で質問に答えた。
南条「あべサダは人間よりも賢い。ということは、バッテリーが切れる前に、自分で充電することができるということです。つまり、こちらが見つけるまで彼女は、ずっとこの街を徘徊し続けます。」

第2章 あべサダの正体

 芥川は、南条の話に抱いた疑念を率直に表明した。
芥川「南条さんは何か隠しておられる。会社のアンドロイドが脱走したなら、会社が対応するべき話だ。危険な事態であれば、会社の総務から警察に通報することになるはずです。」
牧田「そうですよ。なんで南条さんが一人で狼狽・苦悩し、霊能探偵の事務所に駆け込む必要があるんですか?」
 三人がそんな話をしていると、能年(鎧)がコーヒーを持ってきてくれた。能年は鎧の妖怪である。芥川の事務所で、彼の助手として住み込みで働いている。能年(鎧)を見た南条は一瞬ビックリしたが、彼の中で勝手に解釈・納得したようで、鎧のことについては何も言及しなかった。
南条「どうもありがとう。いただきます。」
南条はコーヒーを静かにすすった。芥川と牧田もコーヒーを一口飲んだ。
牧田「能年君、ありがとう。」
芥川「ごくろうさま。」
南条はようやく意を決したらしく、真剣な面持ちで事情を説明した。
南条「実は、あべサダは私が個人的に研究・開発しているラブドール・アンドロイドなんです。」
芥川「なるほど。腑に落ちた。会社や警察に相談できないし、したくないですよね。」
牧田「ラブドールかぁ。今はAI技術を駆使したものすごい製品が開発されていますよね。」

第3章 南条の憂鬱

 芥川は腕を組み、いろいろ考えながら南条に聞いた。
芥川「しかし、まぁ、最悪、彼女を発見できなくても、別に実害はないでしょう。一見、人間と見分けがつかないんだから、誰も騒いだりしません。そんなに心配することはないですよ、南条さん。」
牧田「そうですよ。大切なラブドールが失踪し、心配なお気持ちはよく分かりますが。」
南条は少しの間黙っていたが、やがて涙を流しながら白状した。
南条「そうではないんです。私は、とんでもないことを・・・」
牧田「南条さん・・・どうしたんですか。何があったんですか?」
南条「発端は、エンジニアの友人たちとの宴会です。と言ってもZoom飲みだったので、部屋で一人で飲んでいたのですが。」
芥川「その宴会で何があったんですか?」
南条「参加者は男ばかりだったんです。酔うほどに、話がどんどん卑猥になっていって・・・」
芥川「南条さん、あなたは優秀なエンジニアです。結論から簡潔に説明していただけませんか。」
 南条はしばらく沈黙した後に、おもむろに口を開いた。
南条「サキュバスのように淫乱で、興奮度がMAXになった瞬間、あべさだになるようプログラムしました。その夜はそのまま寝落ちし、翌朝起きるとあべサダは脱走していたんです。」
牧田「それで南条さんは、そのアンドロイドのことをあべサダって呼んでいるのか。」
芥川「どれだけ危険で、どんな事件が起こり得るか、具体的に説明できますか。」
南条「男を誘って情事に至るまではいいんですが、それを繰り返すうちにある変数が増加します。当該変数がMAXになるとフラグが立ち、暴走モードに入ります。最悪、ナニを噛み切る可能性があります。」
牧田「なんでまた、そんなしょうもない・・・」
芥川「牧田君、それを言ったって仕方がないよ。みんな泥酔していたんだろう。」

第4章 金山地区のラブホテル

 芥川と牧田は南条と一緒に、金山地区にあるラブホテルを監視していた。
牧田「芥川君。名古屋市内にはラブホテルがたくさんある。彼女がこのホテルに来るという確証はあるのかい?」
芥川「確証はないけど、確率が高い。南条さんと遠藤君に、アルゴリズムとデータを解析してもらったんだ。あべサダが脱走後に、どのように行動するか。」
牧田「すごいなぁ。」
南条「もちろん、予測には限界があります。確率的なゆらぎやブラックボックスの部分もありますし。」
 三人は何時間も持ち続けた。
芥川「昼から待つ必要はなかったかもしれないね。まさか真昼間からあべサダの誘いに乗る男も、そうそういないだろう。」
牧田「でも、いつ来るかまでは分からないんだろう。」
南条「確率の問題ですからね。」
三人がそんな話をしていると、腕を組んだアベックがラブホテルに向かって歩いてくる。アベックを見た南条が驚いて言った。
南条「あべサダだ!あの女です。間違いありません。」
芥川「よし、行こう!」
 三人はアベックの前に立ちはだかった。南条が男の方に言った。
南条「彼女は私が開発した、危険なアンドロイドなんです。」
南条の言葉に男は驚いたが、見る見るうちに怒りの表情に変貌した。
男「お前、何言ってんだ!頭、おかしいんじゃないか?ふざけるのもいい加減にしろよ!!」
芥川は隠し持っていた鉄パイプを出し、近くに転がっていたビール瓶を叩き割ると、大声で叫んだ。
芥川「俺の女に手を出して、ただで済むと思ってんのか!このクソ野郎!!頭、カチ割ってやる!!!」
それを見た男は血相を変え、あべサダを残して逃げ出した。堅気の人間だったのだろう。
牧田「芥川君、また鉄パイプで解決かい?」
芥川「仕方ないだろう。まぁ、嘘も方便さ。」
南条「芥川さん、牧田さん。本当にありがとうございました。」
あべサダを回収した南条の表情は、ようやく本来の明るさを取り戻した。一歩間違えれば人生が詰みかねない深刻な問題から今、彼は解放されたのだ。

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(12)【最恐ラブドール・あべサダ編】

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(12)【最恐ラブドール・あべサダ編】

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-05-05

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  1. 第1章 アンドロイド
  2. 第2章 あべサダの正体
  3. 第3章 南条の憂鬱
  4. 第4章 金山地区のラブホテル