かんれき夫婦のバイクライフ 53
ジニー&リン、BSTR2026にエントリーする その1
年の瀬も間近になった12月のある日、スマホを見ていたリンが、何かを見つけたようだ。
「ジニーこれ見て」
リンがスマホの画面をジニーに見せる。
「何?」
「四国でスタンプラリーするらしいよ」
「ふ~ん」
特に興味のないジニーが受け流す。
「私、参加したいな」
「え!そうなん?なんで?」
「だって、四国内思いつくところほぼ行ったし、次どこ行こうかなって思いつかなくなってるし。こういうイベントに参加するのもアリかなって思うのよね」
「なるほど、そうだな。よし、参加してみるか」
二人は早速申し込み手続きを始めた。
年が明けて2026年3月、旅のしおりとゼッケン入りのステッカーが送られてきた。早速チェックする。
「ん~ここからだと、徳島方面がなかなかハードだなあ。日帰りは無理か?」
「香川、徳島、高知の東半分を一泊二日で回るのもありだねえ」
「そうだなあ。大歩危のポイントがどうなんだろう。パスするか?」
「え~。松山に住んでいるのに?全部回るでしょう」
「そうだよなあ。島外の人ならともかく、四国にいるのにパスは無いよなあ」
ジニーは地図を見ながらルートを考える。
「まあ、スタートしてから考えるか」
ジニーは旅のしおりを片付けた。
4月10日、明日からいよいよイベントが開催される。二人は地図を広げてルートを考える。
「足摺から行かない?ビオスおおがたで鰹も食べれるし」
「のぼりガツオの季節やなあ。でも明日は、近場に行こうと思う」
「なんで?」
「何かの不具合でスタンプが取れなかったとき、もう一回行かないとだから。初期トラブルが出そうな気がするんだよなあ」
「なるほど。じゃあ、明日は今治、西条、四国中央行って、時間があれば銭形か大歩危に行こう」
「そうだな、それで行こう」
「ジニー高速使うでしょ?」
「帰りに使う予定」
「じゃあ、二輪車定率割引に登録しとこう」
「わかった」
こうして4月11日は、近場から回ることとなった。
4月11日、朝6時に起きたジニーは、日課となっているコーヒーを淹れる。それから目玉焼きとソーセージを焼いた。
「お早うジニー」
「お早う」
「洗濯物干した?」
「まだだよ」
「わかった~」
リンは洗面所に行き、洗いあがった洗濯物をかごに入れて外のデッキに持ってゆく。ジニーも一緒になって洗濯物を干して、それから朝食をとる。使い終わった食器を洗い、それから出発準備を始める。リンは身支度をして、ジニーはバイクを車庫から引っ張り出す。久しぶりに大型を動かすので手際が悪い。やっとのことで準備を済ませ、出発できるようになったのに、今度はインカムの使い方を忘れてしまっていた。
「あれ?ジニースイッチどれだっけ?」
「確かこことここを同時押しで」
「ああ、思い出した」
インカムの電源が入り、通話が始まった。
「リンさん。この前原チャで桜見に行った時、リンさんが新しく買った別の機種をメッシュ通信でつないだら、雑音が入らなかったよね」
「うん、すごくクリアだったよ」
「これもメッシュにしたら、雑音消えるかな?」
「やってみたら?」
ジニーはボタンを操作してメッシュ通信にしてみた。
”メッシュインターコム、オン”
「あ、メッシュ通信になった。しばらくこれで使おう」
8時50分、二人は出発した。まずはいつものスタンドで給油する。
「一時は馬鹿みたいに値上がったのに、すぐに落ち着いたな」
「補助金出たからね。まあでも、じりじりと値上がるでしょうね。トランプさん戦争やめないし」
「そうだよなあ」
”メッシュインターコムオフ、ブルートゥースオン”
「???なんだこれ」
「何?」
「メッシュインターコムが勝手に切れた。ブルートゥースに切り替わった」
「そうなん?」
ジニーはもう一度ボタンを操作して、メッシュ通信に入りなおす。しかし3分ほどでまた切り替わる。走りながら何度か繰り返したが、とうとうジニーは諦めた。信号待ちのタイミングで電源を切り、再度入れるが今度はインカムが沈黙してしまった。何度やっても治らないので、ジニーはリンに、手ぶりでインカムの故障を伝えた。
「弱ったな。出だしからこれか?」
ジニーはボタンを操作しながらぼやいたが、突然音が聞こえ始めた。
「ジニー何しよるん?」
「あれ、聞こえる。もしかしてボリューム下げていたのか?」
「電源はちかちか点滅しているのに何やってるのかと思ったら、操作間違った?」
「そのようですな」
はははっとリンが笑う。
R196を今治方面に向けて走り、北条、菊間を通過して、大西町で大西波止浜線に乗り換える。波方町を抜け、R317との交差点を右折し、さらに県道161号へと左折する。そのまま道なりに走ってゆくと、右手に来島大橋自転車道入り口がある。そこを横目にさらに奥に走ると、今日の一つ目の目的地である来島海峡展望館に行きつく。
「よし着いた。何時だ?」
「10時10分。他の参加者もちらほら居るね」
二人はヘルメットを脱いで、早速スタンプの獲得にかかる。
「あ、取れない」
リンが声を上げる。
「そうなん?・・・本当だ。取れない。やっぱり初期トラブルあったなあ」
ジニーはLINEを確認する。
「まあ、取れないときは申請してくださいってあるし、・・・あ~何か来てる。石岡神社も同じトラブルが発生しているみたいだ」
「あとでスタンプとれるならいいや。せっかくだから、展示見ていきましょう」
リンは売店の人と話をして、展示室に向かった。そこには来島海峡大橋の構造や、工事の様子が展示されている。
「こういうのを見ると、これを考えた人や作った人の凄さがわかるよなあ」
機械整備の仕事をしていたジニーが、感心してつぶやく。
「ジニーの仕事も、他人から見たらすごいと思うけど?」
「いや、リンさん。僕の仕事は壊れた機械の部品を交換するだけで、言ってしまえば誰でもできる。交換後の調整はノウハウあるけどね。本当にすごいのは、何もない所から図面を起こせる人達だ。僕とはレベルが違い過ぎる」
「そう?そんなに自分を下げなくてもいいんじゃない?」
「そうだな。すべての仕事に意味があって、同じように世の中を動かしているのには違いない」
「はいはい、次行くよ!」
二人は手早く写真を何枚か撮ってバイクに戻る。
「次は西条市の石岡神社だな。どう行こうかな」
「任せる。私には行き方が分からん。それよりジニー、おなか空いた」
「そうか、朝食べたの7時前だった。今何時だ?」
「10時45分。私久しぶりにそば食べたいな。前行った所。周越の向こうの・・・」
「あ~あそこね。じゃあ、あの蕎麦屋さん目指して行くよ」
バイクを始動して、二人は駐車場を出る。来た道を引き返し、R317との交差点を左折して今治市内へと向かう。今治球場の横を通り、市役所、国際ホテルを右に見ながら通過して、蒼社川、屯田川を渡り、途中右に向かう県道162号へと右折し、R196を横断してボートピア朝倉を左手に見ながらさらに先へ進む。広域農道との交差点を左折して、タオル美術館の横を通って周越トンネルを潜る。トンネル出口から道は下り、道前平野に向かってゆく。やがて目的の蕎麦屋さんに到着した。
「少し早いから空いてる。奥に止めるよ」
ジニーはバイクを駐車場の奥に止める。その後ろにリンが止めた。ヘルメットを脱いでバイクに固定して、二人は店内に入った。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「二人です」
「あちらの席にどうぞ」
ジニーとリンは、案内された席に着く。
「何にしよっかな~」
ジニーがメニューを開く。二人は頭を突き合わせてのぞき込み、しばらく悩んでからリンは天せいろ、ジニーは天丼そばセットを頼む。
「少しご飯頂戴」
「ええよ」
二人はやって来たそばを早速食べる。ジニーはリンと天丼をシェアしながら、そばセットをあっという間に平らげた。
「ジニー相変わらず早いねえ」
「うん。ゆっくりどうぞ」
リンはゆっくりと味わいながら食べた。
昼食を終えて、二人は再び走り始める。周越農道を走り、周ちゃん広場を右手に見ながら通過する。中山川を渡り、R11へ出る。そこから小松方面に走り、朝日町交差点を左折する。JR予讃線の踏切を越えた左側に、石岡神社が見える。駐車場まで走り、バイクを止める。
「何時?」
「12時30分」
「スタンプとれるかな?」
ジニーはスタンプ取得画面を呼び出して、石岡神社のマークを押す。
「あ、取れた。不具合治ったんだ」
「私も取れたよ」
「なるほど、こんな感じか。わかった」
「ジニーお参りしていくよ」
二人は鳥居をくぐり、神社にお参りをする。
「なかなか雰囲気のある所だなあ」
「前に一度来たよ」
「え?覚えてない」
「バイク屋さんツーリングで来たことある。バイクの神社だからね」
「ふ~ん」
ジニーは全く記憶にないが、リンが言うから来たことはあるのだろう。
「お守り買っていくよ」
リンはイベント限定お守りと、御朱印を買った。お守りはストラップになっていて、バイクに留めれるようになっている。
「さあリンさん。どんどん行くよ。次は具定展望台だ」
バイクを始動して、石岡神社から出発する。来た道を戻り、R11に出る。そこから新居浜方面に走るが、車の流れのあまりの遅さにリンが耐えられなくなってきた。
「眠い。むっっちゃ眠い」
始まった。リンの眠い病だ。どうするかジニーは黙って考える。どこかで休憩したいのだが止まれるところもなく、ずるずると遅い車列についてゆく。リンの眠いはますます進行してゆく。何とか土居町まで走ったが、いよいよ限界となった。
「ジニーどこか止まって」
「その先のハローズに止まるよ」
「よろしく」
二人はハローズの駐車場に入り、隅っこにバイクを止めた。ヘルメットを脱ぐ。
「ヤバかった」
リンが目をしょぼつかせる。二人は店内に入り、ジュースを買う。菓子パンも取ってレジで精算する。そのまま休憩コーナーのテーブル席に座り、おもむろにジュースを飲む。
「あ!これは・・・消費税縛りじゃない?」
「あ~そうだな。もう遅いけど」
二人は急にこそこそとしてジュースを飲み、パンを食べる。しばらく座って休憩してから、バイクに戻った。
「西条I.Cから三島川之江I.Cまで高速使えばよかったね」
「ああ、全然思いつかんかった」
バイクを始動して店を出る。R11を東に走り、三島川之江バイパスに乗り換えて中曽根町交差点を右折してR319に乗る。そこからどんどん登り、具定展望所に到着した。
「着いた。ここはバイクには優しくないな。平らな所が無い」
「ジニーこれ、私は無理。よう出さんよ」
「大丈夫。ちゃんと回すから」
二人は斜めっている駐車場にバイクを止め、展望台に向かう。展望台からは、四国中央の工場群や、瀬戸内の島々、遠くには本州の山並みがかすんで見えた。
「夜景がきれいみたいだけど、昼間もいい景色だ」
「うん。写真も撮ったし、次行こう」
「リンさん、次はどこ行く?」
「何時?15時か。大歩危行っとくか」
「ああ、行けるなあ。三島川之江I.Cから高速乗って、徳島道井川池田I.Cで降りて、R32を高知方面に走るか。1時間も有れば十分だ。スタンプ取ったら大豊まで走って、高速乗って帰ろう」
「オッケー」
二人はバイクに戻る。ジニーはリンと自分のバイクの向きを変え、エンジンを始動する。
「出るよ」
「どうぞ~」
具定展望台をスタートして、R319を駆け下る。R11バイパスとの交差点を右折して暫く走り、三島川之江I.Cから松山道に乗る。川之江JCT,川之江東JCT経由で徳島道に乗り換え、井川池田I.Cまで走る。
「JCTから池田I.Cまでが案外遠いんだよな。走っても走ってもって感じがする」
「実際はそうでもないけどね」
長いトンネルをくぐり、吉野川を渡るとすぐに池田I.Cに到着する。I.Cから高速を降りて、R32を高知方面に走る。
「リンさん、どこだっけ?」
「ジニーは道の駅って言ってたよ」
「そうだった」
暫く走って大歩危峡までやって来た。
「あった、ここだ」
ジニーが道沿いの施設の駐車場に止まった。
「ジニーここ違いますよ。道の駅じゃないって」
「え?あ、本当だ。間違えた」
ジニーは再び国道に戻る。道の駅はそこから数百m先だった。二人は駐輪場にバイクを止めて、ヘルメットを脱いで施設内に入った。
「さて、スタンプを取って・・・」
ジニーはアプリを起動して、スタンプ取得ボタンを押す。
”ここは圏外です”
「あれ?取れない。何故だ?」
「ジニー案内では大歩危峡まんなかになっているけど?」
「え?それってさっき間違えて止まった所じゃない?てっきりスタンプは道の駅だと思ってた」
「でもちょっと変なのよね。位置情報では大歩危峡まんなかじゃなくて、少し山の上にある神社になってるのよね~」
「ふ~ん?パンフレットと違うのか?まあ行ってみたら分かるか。せっかくだから、ここで休憩していこう」
二人は道の駅でしばらく休憩してから、再び大歩危峡まんなかに移動した。駐車場でアプリを起動するが、やはり圏外でスタンプが取れない。
「ジニーやっぱり上の神社だって。間違いないよ」
リンがスマホの位置アプリで神社の位置を示す。
「リンさん、ここは大型で行くのは無理だ。いきなり鋭角ターンじゃないか。歩いて近くに行こう」
二人はバイクを置いて、道沿いに歩いてゆく。少し歩いたところにある旅館の前で、スタンプ取得ボタンを押してみる。
「あ、リンさん取れた」
「うん、取れたねえ。上まで歩かずに済んだ」
二人はバイクまで引き返す。
「場所によってはこういう設定しているのかな。ジニーお土産買って帰る?」
「うん」
バイクを止めたお礼の気持ちもあり、施設内に入る。売店でしばらく物色してから、ジニーは祖谷そば6人前買った。
「ジニー6人前?そんなに?」
「うん。4人前じゃ足りんもんね」
ジニーは家のそば食い野郎どもの顔を思い浮かべる。
本日の予定を終了して、二人は帰路につく。時間はすでに17時を回っていた。R32を大豊まで走り、R439へ右折する。大豊I.Cから高知道に乗り、松山目指して走る。
「あ、リンさんガソリン無いや。点滅が始まった」
「そうなん?こちらはまだ平気だけど」
「松山まであと70㎞か。できれば松山で給油したいな。エコランで行くか」
ジニーはメーター表示を操作して、残走行距離表示にする。
「何とか行けそう」
「大丈夫?高速でガス欠は面倒だよ?」
ジニーは速度を落として80㎞/hで走る。アクセルを絞り、下りは惰性で走る。残走行距離が少しずつ減ってゆく。ドキドキしながら走り、松山I.Cを降りたときには残走行距離14㎞になっていた。スタンドにより、給油する。
「やれやれ、何とか届いた」
「思ったより燃費伸びなかったんじゃない?340㎞しか走ってないよ?ジニーのバイクって、満タンで380㎞くらい走ったよねえ」
「多分、渋滞と高速道走行が原因だろう。それよりリンさんのバイクもよく持ったね」
「うん。回さなかったら燃費いいよ」二人はスタンドを出て、家に向かう。
「おつかれ」
「お疲れ様」
家に到着して、バイクを車庫に仕舞う。
「ジニー明日は八幡浜と宇和島のスタンプを取りに行くよ」
「そうだな。じゃあ朝は、どーや食堂の賄い海鮮丼だな」
「いいねえー。そうしよう」
翌日の予定も決まり、二人は装備を解いた。
「あ、ジニー。大歩危のポイントが移動してる。神社から大歩危峡まんなかになった」
「やっぱり。初日は初期トラブルが出るなあ」
今後は変なトラブルが出ませんように、と思うジニーだった。
かんれき夫婦のバイクライフ 53