魔術師・守屋愛と夢幻鉄道の旅(1)【岡崎駅】

第1章 ご当地アイドル・みそ娘

 西三河のご当地アイドルグープ・みそ娘の人気が沸騰する前の話である。みそ娘の忍は引退を考えていた。みそ娘が結成されてから早5年。結成以来のメンバーである忍は全力で活動してきた。しかし、みそ娘の認知度はなかなか上がらない。2010年代にご当地アイドルが次々と誕生し、群雄割拠し戦国時代のような状況なのだ。
忍「そろそろ潮時かな・・・」
彼女は今年、26歳になる。年を取るほどに時の流れは加速する。すでに、四捨五入すれば30歳のアラサーである。あっと言う間に三十路になってしまうだろう。
忍「アイドル活動は引退して、堅気の仕事に専念しよう・・・」
彼女は岡崎駅のホームで名古屋行きの電車を待っていた。就職活動のためである。
忍「何だか頭が重い。頭痛というほどではないけど・・・」
彼女はホームの椅子に腰を下ろし、物思いにふけっていた。
 やがて、眼を開いた彼女は驚いた。
忍「?!」
世界が静止していた。電車も、ホームにいる駅員も、電車を待つ人々も、空を飛ぶ鳥も・・・全てが、時が止まったように静止していた。いや、本当に時が止まっているのだ。そうでなければ説明がつかない。
忍「なんで・・・?」

第2章 魔術師・守屋愛

 彼女はただただ戸惑い、狼狽し、絶句したまま呆然としていた。
忍「あれは?」
彼女から少し離れたところに女性がいた。普通の女性のようだが、全てが静止した世界で普通に歩いているのだから、普通の女性であるはずがない。
忍「あの人だけ動いてる。」
忍はそろそろと女性に近付き、恐る恐る話しかけた。
忍「あのー、すいません・・・」
話しかけられた女性は、鳩が豆鉄砲を食らったような表情で驚いた。
女性「えっ?!・・・驚いた、あなた動けるの?」
忍「はい。さっきまでみんな普通に動いていたんです。突然、みんな・・・世界が止まってしまったんです。」
女性「ここは夢現境なのよ。夢幻世界と現実世界の狭間。普通の人は入れないはずなんだけど・・・不思議ね。」
忍「申し遅れました。私、アイドルグープ・みそ娘の忍と申します。あなたは・・・」
女性「私は守屋愛。魔術師よ。小賢しい霊能探偵にはめられてね。しばらく夢現境をさまよっていたんだけど・・・」
忍「魔術師・・・霊能探偵?」

第3章 夢幻鉄道

守屋「あなたに出会えたのは、私にとってチャンスかもしれない。ようやく、ここを抜け出して現実世界に戻る端緒をつかんだわ。」
守屋は忍の手を引いた。
忍「えっ?!」
守屋「とりあえず、進みましょう。」
 その瞬間、二人は静止した世界から別の世界へ入り込んだ。
忍「ここはどこですか?」
守屋「さっきも言ったけど、ここは夢幻世界と現実世界の狭間。あそこに夢幻鉄道の列車が止まっているでしょう。私はあれに乗って、ずっとさまよっていたの。さぁ、行きましょう。」
忍「夢幻鉄道?」
守屋「静止した世界に出口はない。夢幻世界のどこかに、現実世界に戻る手がかりがあるはずなの。あなたが一緒に来てくれれば、きっと見つかるはずよ。」
守屋は忍の手を引き、夢幻鉄道に乗り込んだ。
忍「切符とか買わなくていいんですか?」
守屋「そんなもの必要ないわ。どこでもいいから、席に座りましょう。」
二人は、車両の中ほどにある座席に向かい合って座った。しばらくすると、列車が動き出した。

第4章 次の駅へ

忍「この列車、どこまで行くんですか?」
守屋「フフフッ。どこまでも行くわ。現実世界に戻るまで、永遠にどこまでも・・・」
忍「どうしよう、困ったな。私、名古屋に行かないと。予定があるんです。」
守屋「心配する必要はないわ。現実世界の時間は止まっているんだから。」
忍「でも、ここは岡崎なんですよね。この列車、どっちに向かっているんだろう・・・名古屋の方ですか?」
守屋「さぁ、どっちだろう。列車が停まれば分かるんだから、それまで車内でくつろいでいればいいのよ。どうせ停車するまで何もできないんだから。」
忍「そんな・・・」
守屋「向こうに食堂車もあるし、けっこう快適よ。ロングバケーションで、列車旅を楽しんでいると思えばいいのよ。何か飲み物をもらってくるわね。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
忍「じゃあ、コーヒーにします。」
守屋「あなたはそこで待ってて。すぐに戻るから。」
守屋はそう言うと、向こうの車両へ歩いていってしまった。
忍「これが本当の現実逃避か・・・」
忍は車窓の流れる景色をぼんやり眺めながら、そうつぶやいた。

魔術師・守屋愛と夢幻鉄道の旅(1)【岡崎駅】

魔術師・守屋愛と夢幻鉄道の旅(1)【岡崎駅】

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-04-26

CC BY
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  1. 第1章 ご当地アイドル・みそ娘
  2. 第2章 魔術師・守屋愛
  3. 第3章 夢幻鉄道
  4. 第4章 次の駅へ