霊能探偵・芥川九郎のXファイル(8)【さまよう鎧編】

第1章 アイドルグープ・みそ娘

 霊能探偵・芥川九郎は、中区にある自分の事務所で友人の牧田と話していた。
芥川「みそ娘の忍さんから連絡があってね。」
牧田「みそ娘って・・・あの、みそ娘かい?」
みそ娘とは、西三河のご当地アイドルグープである。全国的な知名度はまだまだであるが、西三河では人気がうなぎのぼりでかなり盛り上がっている。
芥川「以前、西三河で怪奇事件を解決したことがあってね。忍さんはその時の関係者だったんだ。」
牧田「その忍さんからの連絡というのは、また怪奇事件の調査依頼か何かかい?」
牧田は愛知県警の元刑事である。数年前に退職し、今はフリーランスとして活躍している。
芥川「みそ娘のコンサートに招待してくれたんだ。」
牧田「コンサートは西三河で開催されるのかな?おもしろそうだから僕も行こうかな。」
芥川「西三河に遊びに行くのはいいんだけど、忍さんが僕を招待する時には、何か魂胆があるんだよ。」
牧田「そうなんだ。やはり怪奇事件の調査依頼かもしれないね。」
芥川「とりあえず行ってみようか。何もなければ、コンサートを楽しんで、適当に観光して帰ってくればいいんだから。お土産に味噌をたくさんもらえるかもしれない。」
牧田「味噌?みそ娘だからかい?」
芥川「うん。みそ娘の有力なスポンサーが有名な味噌会社でね。以前、西三河で怪奇事件を解決した時にも、お味噌をたくさんいただいたよ。」
牧田「味噌は保存がきくから、たくさんもらっても困らないだろう。」
芥川「ほとんど叔母さんに上げてしまったけど、自分の分は冷凍庫に保存してある。もう大分使ってしまったけどね。」
芥川の叔母は隣の服部税理士事務所の先生の奥方である。甥っ子の芥川のためにいろいろ世話を焼いてくれる優しいご婦人だ。
牧田「怪奇事件を解決し、そのお礼にお味噌をもらってくるのが今回の目的か。」
芥川「別に味噌が目当てではないよ。怪奇事件の調査依頼かどうかも分からないからね。」
こうして芥川と牧田は、みそ娘のコンサートに参加するために西三河へ行くことになった。

第2章 みそ娘・忍の魂胆

 当日、芥川と牧田はコンサートを存分に楽しんだ。
牧田「本当にすごい人気だね。大勢のファンの熱気で、僕たちも盛り上がってしまったよ。」
芥川「せっかく来たんだから、楽しまないとね。」
牧田「忍さんに会って帰るのかい?」
芥川「うん。夕食を一緒に食べる予定だよ。」
牧田「みそ娘の忍さんに会えるのか。楽しみだなぁ。」
芥川「ハハハッ。牧田君はすっかり、みそ娘のファンになってしまったみたいだね。」
 夕方、芥川と牧田は街の居酒屋でみそ娘の忍と待ち合わせた。
芥川「忍さん、久しぶりだね。元気そうで何よりです。」
忍「お久しぶりです。芥川さんも相変わらずですね。」
牧田「はじめまして。私、芥川の友人の牧田と申します。」
忍「あなたが牧田さんですか。お話は伺っております。よろしくお願いします。」
とりあえず注文したビールを飲みながら、芥川は忍に聞いた。
芥川「それで、忍さん。今回の依頼は何ですか?」
忍「フフフッ。さすが芥川さん。察しがいいですね。」
忍が芥川をコンサートに招待したのには、やはり何か魂胆があるようだ。彼女もビールを一口飲んでから本題に入った。
忍「鎧を譲り受けていただきたいんです。」
芥川「鎧・・・?」
牧田「何かいわくのある鎧ですか?」
忍「はい。私の知人が所蔵するものなんですが、家の者がみんな寝静まった深夜にガチャガチャ音を立てて歩くそうなんです。」
芥川「歩く鎧か・・・」
忍「そんなに古いものではなく、骨董品としての価値はないそうです。処分したいそうなんですが、そんな呪われたものを普通の人に譲ることはできない。」
牧田「それで霊能探偵の芥川に連絡を。」
芥川「ハハハッ。お安い御用ですよ。その鎧、名古屋に持って帰ります。」
忍「ありがとうございます!芥川さんには、こんなお願いばかりして申し訳ありません。」
こうして芥川と牧田は、鎧と大量のお味噌を持って名古屋に帰ってきた。

第3章 さまよう鎧

 事務所の入口に置いた鎧を眺めながら、芥川は満足そうに言った。
芥川「これは見事な鎧だね。こうして事務所の入口に飾っておくと、この見慣れた事務所も見違えるというものだよ。」
牧田「でも、呪いの鎧なんだろう?どうやって除霊するんだい?」
芥川「確かに、何か妖気みたいなものを感じるけど、悪霊とかが憑いているわけでもなさそうだ。」
牧田「忍さんの話では、深夜に動き回るらしいけど。」
芥川「僕にもよく分からないけど、みんな難しく考えすぎなんだよ。こんなもの、ただの金属の塊だ。さっそく明日、バラバラに解体して業者に売り飛ばそう。」
牧田「バラバラにして業者に売るって・・・金属スクラップとして業者に売却してしまうのかい?」
芥川「バラバラの鉄クズにすれば、夜中に歩くことはできないだろう。」
牧田「なるほど。合理的な考え方だね。金切鋸とかハンマーとかペンチとか、いろいろ用意しないと・・・」
芥川「もう夜も遅いから明日にしよう。近所迷惑だからね。お味噌を叔母さんに上げないといけないし。君も持っていきなよ。京子の分もあるよ。」
牧田「うん、ありがとう。その後、今夜は事務所で寝ることにしよう。鎧が動き出すといけないからね。」
芥川「ハハハッ。そうだね。二人で酒でも飲みながら、この鎧を鑑賞しようじゃないか。」
 芥川と牧田は事務所で、深夜の晩酌会をすることにした。二人は酎ハイやウィスキーを飲みながら話していた。
牧田「芥川君、ちょっとペースが早すぎるよ。鎧が動く前に酔いつぶれてしまうよ。」
芥川「ハハハッ。そうだねぇ。大分酔いが回ってきたよ。」
しばらくすると芥川は眠ってしまった。牧田もうつらうつら舟をこいでいた。その時である。鎧が突然、ガチャガチャガチャガチャ震え出した。牧田は仰天し、言葉が出てこない。
牧田「あっ・・・あ・・・あく・・・よっ・・・よ・・・よろいが・・・」
やがて鎧はゆっくり歩き出し、外に出ていってしまった。

第4章 深夜の納谷橋

 ようやく落ち着いた牧田は、芥川を揺さぶって起こした。
牧田「大変だ!芥川君、起きてくれ。鎧が動いたぞ!!」
芥川「なんだってぇ?!」
芥川は目を覚ますと、事務所の隅に置いてある鉄パイプを2本つかんだ。
芥川「鎧はサーベルを持っている。牧田君もこれを持っていくんだ。」
鉄パイプを受け取った牧田は言った。
牧田「鉄パイプでアレと闘うのかい?」
芥川「素手よりましだろう。」
 二人は急いで歩く鎧の後を追った。鎧はちょうど納屋橋の上を歩いていた。
芥川「牧田君、あそこだ。挟み撃ちにしよう!」
牧田「分かった!」
芥川と牧田に行く手を阻まれた鎧は、サーベルを抜いて牧田に襲いかかった。
 カッキィイーーーン!!カッキィイーーーン!!カッキィイーーーン!!
芥川「牧田君!鎧とチャンバラしている暇はない!誰かに通報される前に始末するぞっ!!」
芥川は鉄パイプをフルスイングで打ち込んだ。
 ブゥウーーーーンッ!!バッキィイーーーーーンッ!!!
 芥川の鉄パイプが鎧のカブトに命中した。鎧から外れたカブトは、バットで打たれたボールのように、放物線を描いて堀川に落ちてしまった。
 バッシャアーーーンッ!!
 頭を失った鎧は動きを止め、そのまま崩れ落ちた。
牧田「鎧が止まった?!」
芥川「あのカブトが妖怪の本体だったみたいだね。」
牧田「妖怪?アレは妖怪だったのか。」
芥川「この種の妖怪について、話には聞いていたんだけど・・・初めて出くわしたから気付かなかったよ。」
牧田「川に沈んでしまったね。」
芥川「引き上げて処分したいんだけど、さすがに無理だろうね。」
二人は深夜の納谷橋の上でしばらくの間、街の灯りでかすかにきらめく堀川の流れを見つめていた。

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(8)【さまよう鎧編】

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(8)【さまよう鎧編】

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-04-25

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  1. 第1章 アイドルグープ・みそ娘
  2. 第2章 みそ娘・忍の魂胆
  3. 第3章 さまよう鎧
  4. 第4章 深夜の納谷橋