シロヒメの休日
Ⅰ
「ぷりゅっ!」
今日も。
「ぷりゅにちは! なんだし!」
というか。いつも以上に。
「げ、元気ですね」
「元気だし!」
ぷりゅんぶるん! しっぽも。
「元気でかわいいシロヒメだし!」
「は、はあ」
それはいいのだが。
「何かあるんですか」
「ぷりゅ?」
首を。
「何かってなんだし」
「いや、だから」
それではりきっているのかと。
「あるんだし!」
「やっぱり」
「シロヒメ!」
元気いっぱい。
「毎日がぷりゅ曜日なんだし!」
「ぷ……」
そんなものは。
「だから」
ふらぁり。
「だから……」
パタン。
「えっ」
突然の。
「……白姫(しろひめ)?」
返事は。
「ちょ、し、白姫!」
本当に。
「どうしちゃったんですか! 大丈夫ですか!? しっかりしてくださーーーい!」
Ⅱ
「ぷりゅぅ~……」
目を。
「し、白姫」
はわわわわ。どうなってしまうのかと。
「体調の」
冷静に。
「一時的な失調」
「え……」
それは。つまり。
「風邪です」
「へ?」
「人間で言うならば」
触診を。終え。
「そうなんですか、依子(よりこ)さん」
「詳しいことは専門の方に診てもらわないとわかりませんが」
メイド服を。調え。
「アリスさん」
ぎろり。
「きゃあっ」
飛びあがる。
「何をされているのです」
「な、何をって」
突然、目の前で倒れられたことに驚きあわてて。
こうして来てもらって。
「あ……ありがとうございます!」
そうだ。お礼がまだ。
「………………」
違う。無言のその眼差しが。
(はわわわわ)
怖い。
「ごご、ごめんなさい」
「何をあやまっているのです」
(うううう)
もう。
「早く」
「えっ」
「行きなさい」
「え……」
何を。
「でも、白姫が」
「アリスさん」
冷たく。
「あなたにできることはありません」
「ええっ!?」
そんな。
「あなたがすべきことは」
「自分がすべきことは」
はっと。
「学校……」
目が。
「い、行ってきまーーーす!」
遅刻などしたら。
「あっ」
これだけは。
「白姫のこと、よろしくお願いします!」
深々と。
「そ、それじゃ!」
ダッシュ。
「ふぅ」
仕方ないと。
その。
「………………」
眼差しが。
Ⅲ
――シロヒメはお休みすることになりました。
Ⅳ
「ぷりゅー」
安静。
「つーまんないんだしー」
ゴロゴロ。
「誰か、かまうしー」
ゴロゴロゴロ。
「かまってくれないと」
ぷりゅぅ。
「泣いちゃうんだしー」
と。
「ぷりゅ!」
ピン! 耳が。
「ぷりゅぷりゅぷりゅぷりゅ」
短い脚で。
「ぷりゅーっ」
飛びこむ。
「わっ」
受け止め。
「よかった」
優しく。
「元気みたいだね、白姫」
「ぷりゅっ」
すりすり。
「でも、まだ」
抱え直し。
「ぷりゅー❤」
お姫様だっこ。
「おとなしくしてないとね」
「ぷりゅぅ?」
たちまち。
「白姫」
困ったと。
「元気になったら、またいっぱい遊べるから」
「ぷりゅっ」
約束。いなないて。
「ぷりゅー」
すりすり。
「ふふっ」
こちらからも。
(ヨウタロー)
それは。
(大好き)
心からの。
「ぷりゅ」
目が。
「ぷりゅぅ……」
夢。
(けど)
小さいころ。本当に。
「ヨウタロー」
ぽつり。
「それにしても」
ぷりゅー。頬を。
「なんで、シロヒメがびょーきになったりするんだし。かわいくていい子なシロヒメが」
ぷりゅぷん。
「シロヒメ、何も悪いことしてないんだし。なのに」
そのとき。
「ぷりゅはっ」
気づいたと。
「かわいいからなんだし」
ぷりゅぷりゅ……わなわな。
「美少女ははっこーなんだし! びょーじゃくなものと決まってんだし!」
盛り上がる。
「ぷりゅりゅりゅ……なんてふこーなシロヒメなんだし」
哀しみを。
「花の命は短いんだし。花のように愛らしいシロヒメも」
そう。いなないて。
「………………」
ぴたり。
「ぷりゅー」
でれーん。
「シロヒメだけでやっててもつまんないんだしー。誰かかまうしー」
かまってくれそうなのは。
「………………」
一人。だけ。
「白姫さん」
「ぷりゅ!」
跳びあがる。
「ぷりゅりゅりゅりゅ……」
ふるえつつ。
「シロヒメ、ちゃんといい子にしてました。かまってもらわなくて大丈夫です」
「………………」
何も。言わず。
「ぷりゅ?」
差し出される。
「ご飯です」
「ぷ、ぷりゅ」
動揺が。抜けないながらも。
「ぷりゅがとうございます」
お礼は。
「………………」
背を。
「ぷりゅー」
助かったと。
「ぷりゅっ」
果物や野菜がやわらかく煮られた。いかにもおいしそうな〝おかゆ〟が。
「ぷりゅだきます」
きちんと。
「ぷりゅぷりゅぷりゅ」
食欲のない身体に。それは染み入るようにおいしかった。
Ⅴ
「お母様」
頭を。
「ありがとうございます」
「………………」
何も。
「ふふっ」
うれしそうに。
「何が」
おかしいのか。
「だって」
心からの。
「お母様がいてくださるから」
「………………」
それは。
「あっ」
しまったと。
「ごめんなさい」
再び。
「こんなことでお時間を取らせてしまって」
こんなこと?
「余計なお手間をお母様に」
余計――
「あなたは」
たんたんと。
「わたしの娘です」
「お母様……」
それでも。すまなそうな。
「だから」
言う。
「早く良くなりなさい」
うつむいたまま。
「……はい」
「………………」
自分は。なぜ。
こんな顔を。
この子に。
(わたしは)
「………………」
記憶。
「ふぅ」
軽く。頭を。
「あのぉー」
そこに。
「なんでしょう」
「はわっ」
ひるむも。
「そ、その、白姫に」
「白姫さんに?」
「お見舞いをって……みんなが」
「………………」
一間。
「わかりました」
ほっと。
「じ、じゃあ、伝えてきますね」
そそくさと。
「………………」
外を。
(もう)
こんな時間なのかと。
「白姫、へいきー?」
「白姫ぇー」
小さな影たち。囲まれて。
「ぷりゅー」
うれしげに。
「白姫は病気ですからね。あまり無理をさせてはだめですよ」
「はーい」
聞きわけよく。
「ぷりゅっ」
余計なことを。そんな。
「で、ですけど」
そこは。
「はい、白姫」
差し出される。
「お花ー。きれいだったからー」
「ぷりゅー」
「こっちはねー、白姫の絵ー」
「ぷりゅりゅ」
ありがとう、と。
「白姫、かしこーい」
「かわいー」
(……やっぱり)
にぎやかに。
「みなさん」
「!」
背筋が。
「ぷりゅ!」
こちらも。
「ありがとうございます」
しとやかに。一礼。
「白姫さんのために」
にっこり。
「わー」
「すごーい」
配膳台の上。見た目にもあざやかなケーキやお菓子の数々が。
「うわぁ」
よだれが。
「これ、全部、依子さんが」
「はい?」
「!」
聞かずもがなの。
「ぷりゅー♪」
わーい。こちらも。
「白姫さん」
「ぷ……!」
「白姫さんには」
地味な見た目の。あくまで療養のための。
「ぷりゅぅー」
がっかり。
「あの、白姫」
元気になればまた。
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
いつもの勢いはない。それでも十分に。
「なんでですか!」
「八つ当たりだし」
当然と。
「……ぷ」
視線が。
「ぷりゅりゅりゅりゅりゅ……」
冷たい。眼差しに。
「白姫ー」
そこへ。
「よかったー、元気ー」
「アリスちゃんと遊べるんだー」
(げ、元気?)
そういう問題では。
(まあ)
元気。になってはきたのか。
「みなさん」
優しく。
「白姫さんが休めませんから。おやつはあちらで」
「はーい」
素直に。
「アリスさん」
「は、はいっ」
言われずとも。
「走っちゃだめですよー。危ないですからねー」
面倒を見つつ。共に。
「ぷりゅぅ」
しょんぼり。
「ぷりゅ」
療養食に。口を。
「ぷりゅぷりゅぷりゅ」
おいしかった。
Ⅵ
「白姫」
優しく。
「ぷりゅ」
ぱちっ。目を。
「ぷりゅ!」
そこに。
「ぷりゅーっ」
大はしゃぎで。
「わっ」
受け止める。
「ふふっ」
昔と。同じ。
「元気みたいだね」
「ぷりゅっ」
さらに。
「甘えん坊だな、白姫は」
「ぷりゅ!」
あらたな。
「いい子にしていたか」
「ぷりゅ」
「そうだな。白姫はいい子だものな」
「ぷりゅー」
すりすり。
(違うんだし)
いまは。他にも。
(よかったし)
心から。
(シロヒメ……)
幸せな。
(花房家の馬で)
はっと。
「ぷ……」
夢。また。
「ぷりゅぅ……」
どうして。
夢でなく本当に。
「っ」
まさか。
(嫌い……)
本当は。
(そんなこと)
ない。絶対に。
(だったら)
どうして。そればかり。
「ぷりゅっ」
耐えられない。
来てくれないなら、こちらから。
「ぷ!?」
膝が。
力が入らず、そのまま。
「ぷりゅぅっ」
まともに。
「ぷ……りゅ……」
涙が。
(嫌だし……)
どうしようも。なく。
(こんなの……嫌なんだし……)
「ぷりゅっしゃいませー」
そこは。
「ようこそ、白馬のおみせやさんへー」
明るく。はつらつ。
「どんな蹄鉄がお好みですかー」
愛想よく。
「パカパカもありまーす」
にこやかに。
「白馬名物パカーンはいかがですかー」
いなないて。
「ぷりゅぷりゅー❤」
こだまする。
「………………」
誰も。
「……ぷりゅっ」
それでも。
「ぷりゅがとうございまーす。ご一緒にシロヒメは」
元気よく。
「シロヒメ……は」
元気。
「………………」
どこに。
「げ、元気」
それは。
「元気はどこだしー。どこにあんだしー」
探す。求める。
「誰か」
弱々しく。
「元気……」
ヒヅメを。伸ばす。
「シロヒメ……に……」
「はくばのーはるーわーあ~♪」
絶唱。
「ぷりゅぷーりゅなーはるでーす~♪」
海に向かって。
(……違うし)
こうでは。
(シロヒメは)
ふり返る。
「アイドルなんだしっ❤」
スポットライト。
「ぷりゅっきり、ぷりゅっきり、もお~♪ ぷりゅっきりーですか~♪」
重い。
(こういうアイドルじゃないしっ!)
もっと明るい。
「ぷりゅーやかーにうたって~♪ ぷりゅーりゅなとーきーは~♪」
ちょっとだけ。
(足りないし)
もっと。
「ひーざしーのーなーかをーはしーりーぬーけーてーくーまっかなはくば♪」
と。
「『真っ赤な白馬』って何なんだし!」
自ツッコミ。
「………………」
なぜなら。
「ぷ……」
客席に。誰も。
「いないんだし」
ぽつり。
「なんでいないんだし! シロヒメが歌ってるのに! シロヒメ、アイドルなのに!」
応えは。
「なんでだし……」
ない。
「シロヒメ」
がくり。力なく。
「シロヒメぼっちなんだし」
もう。歌も。
真っ白な。
(ぷりゅぅ……)
心地いい。
(何も)
感じない。
(もう)
どうでも。
(誰もいなくたって)
いい。
(そうなんだし)
だって。
(ぜんぜん)
さびしくない。
(いないんだから)
自分さえ。
(このまま)
白い世界で。
白く。
ただ。
「……ぷ?」
いた。
「ぷりゅ……」
白い世界に。同じように。
けど。
はっきり。
「ママ」
それは。
「ぷりゅぅー」
すり寄る。
「ママぁ」
優しく。鼻先を。
(ママ……)
それだけで。
もう。
色のない世界に。
「ぷりゅっ」
まばゆい。
「ぷりゅがとう」
あふれる。光に包まれ。
「………………」
そばに。
「ぷりゅ!」
いた。
(ヨリコ……)
なぜ。
「お目覚めですか」
「ぷりゅっ!」
跳び上がる。
「おお、お目覚めです」
ふるえつつ。
「!」
手が。こちらに。
「ぷりゅっ」
目を。
「ぷ……」
そっと。額に。
「下がったようですね」
「ぷりゅ?」
「これなら」
立ち上がる。
「あ、あの」
あせあせ。
「それって」
「………………」
「シロヒメ……良くなったって」
答えは。
「油断大敵」
「ぷ……!」
「今日一日はまだ安静です」
言って。
「ぷ、ぷりゅ」
行かれて。
「………………」
ひとまず。
「ぷりゅぅ」
ほっと。
「治ったんだし」
けれど。
「ぷりゅー」
複雑な。
「なんだか」
ゴロン。
「納得いかないんだし」
もやもやと。
「ぷりゅぅ……」
思い出す。
(ママ……)
夢の中の。
それは。
やけにはっきり。
(でも)
くんくん。気配もにおいも。
(ないんだし)
あるのは。
「ぷりゅ!」
ピン!
(ひょっとして)
ずっと。寄り添ってくれていた。
(ヨリコ……)
なのかと。
「ぷりゅぅー」
考える。
「わかんないんだし」
正直。
(でも)
気分は。
悪くなかった。
Ⅶ
「元気になってよかったね」
そこに。
「ぷりゅ!」
並べられた。待ち望み続けた。
「ごちそーだし!」
こだまする。
「ふふっ」
今度こそ。本物の笑顔が。
「ヨウタロー❤」
すりすり。
「シロヒメ、さびしかったんだし」
「ごめんね」
心からの。
「依子さんに止められてて」
「ぷりゅ!」
どういうことだ。
「ヨリコ……」
ぷりゅぷりゅ。わなわな。
「やっぱり、シロヒメのこと嫌いなんだし。だから、いじわるして」
「違うよ」
はっきり。
「シロヒメのためって」
「ぷりゅぅ?」
どこが?
「だって」
かすかに。すまなそうな。
「僕がそばにいると白姫が休めないって」
「ぷりゅ?」
「前も」
はっと。
(そうだし……)
小さいとき。はしゃぎすぎてしまって。
(それで)
治るのが遅くなって。
(同じなんだし)
今回も。
みんなが来たとき。短い時間とはいえ。
(だから)
また悪化して。
「もう構わないのだろう」
そこに。
「白姫は元気になったのだから」
「マキオー」
すりすりすり。
「マキオもヨリコに止められてたの」
「む?」
「違うよ」
横から。
「真緒(まきお)は自分で会わないって決めたんだ」
「ぷりゅ!」
ショック。
「マ、マキオ……」
ぷりゅぷりゅ。うるうる。
「シロヒメのこと、嫌いだから」
「何をそんな顔をしている」
仕方ないと。
「葉太郎(ようたろう)だ」
「ぷりゅ?」
「葉太郎が」
当然と。
「白姫に会えないのに、私だけ会うわけにはいかないではないか」
「ぷ……!」
それは。
「本当は会いたかったんだし?」
「ん?」
「シロヒメに」
「ふふっ」
たてがみを。
「ぷりゅー」
それが。何より。
「マキオは本当に優しい子なんだしー」
心から。
「比べて」
ぷりゅぎろっ。
「アリスはデリカシーねーんだしー」
にらんだ。そこに。
「な、なんでですか」
驚きあわて。
「自分だって白姫のことを心配して」
「じゃー、何してくれたし」
「えっ」
そういななかれると。
「えっと、その、がんばりましたよ」
「何をだし」
「何をって」
「がんばってアホだったんだし?」
「アホじゃないです!」
なんていう。
「あははっ」
明るい。笑いが。
「元気だ」
「ぷりゅ?」
「よかったな、白姫」
うれしくて。仕方ないと。
(マキオ……)
伝わる。
「シロヒメもだし」
すりすり。
「ぷりゅがとう」
あらためて。
「さあ、白姫」
うながされる。
「今日は白姫が主役だよ」
「ぷりゅ!」
もちろん!
「依子さんが白姫のためにごちそうを作ってくれたから」
「ぷ……」
はっと。
「ヨ、ヨウタロー」
おそるおそる。
「ヨリコ、怒ってないんだし?」
「えっ」
「シロヒメのこと」
きょとんと。
そして。優しく。
「どうして?」
「ぷりゅ……」
はっきりとは。
「依子さんはね」
たてがみを。
「シロヒメのことがとっても大切なんだよ」
「ぷりゅぅ?」
本当に。
「もちろん」
笑顔で。
「家族なんだから」
「っ……」
家族。
(そうなんだし)
胸に。すっと。
(そうだったんだし)
「ヨリコ」
一人。隅に控えていたそこへ。
「どうされました」
「ぷ……!」
ぷりゅびくっ。なるも。
「あ、あのね」
頭を。
「ぷりゅがとうなんだし!」
そして。ぽつり。
「……ママ」
「っ」
かすかに。
「だ、だって」
ぷりゅあわ。
「シロヒメたち、家族なんだし。ヨリコ、シロヒメたちのママなんだし」
「………………」
「って……ヨウタローが」
ぷりゅおど。
「そ、そーゆーことなんだし!」
ぷりゅっ。逃げるように。
「………………」
一人。その場に。
「ふぅ」
一つ。
そして、何事もなかったように。
「………………」
かすかな。
「ふぅ」
また。
シロヒメの休日