シロヒメの休日

「ぷりゅっ!」
 今日も。
「ぷりゅにちは! なんだし!」
 というか。いつも以上に。
「げ、元気ですね」
「元気だし!」
 ぷりゅんぶるん! しっぽも。
「元気でかわいいシロヒメだし!」
「は、はあ」
 それはいいのだが。
「何かあるんですか」
「ぷりゅ?」
 首を。
「何かってなんだし」
「いや、だから」
 それではりきっているのかと。
「あるんだし!」
「やっぱり」
「シロヒメ!」
 元気いっぱい。
「毎日がぷりゅ曜日なんだし!」
「ぷ……」
 そんなものは。
「だから」
 ふらぁり。
「だから……」
 パタン。
「えっ」
 突然の。
「……白姫(しろひめ)?」
 返事は。
「ちょ、し、白姫!」
 本当に。
「どうしちゃったんですか! 大丈夫ですか!? しっかりしてくださーーーい!」

「ぷりゅぅ~……」
 目を。
「し、白姫」
 はわわわわ。どうなってしまうのかと。
「体調の」
 冷静に。
「一時的な失調」
「え……」
 それは。つまり。
「風邪です」
「へ?」
「人間で言うならば」
 触診を。終え。
「そうなんですか、依子(よりこ)さん」
「詳しいことは専門の方に診てもらわないとわかりませんが」
 メイド服を。調え。
「アリスさん」
 ぎろり。
「きゃあっ」
 飛びあがる。
「何をされているのです」
「な、何をって」
 突然、目の前で倒れられたことに驚きあわてて。
 こうして来てもらって。
「あ……ありがとうございます!」
 そうだ。お礼がまだ。
「………………」
 違う。無言のその眼差しが。
(はわわわわ)
 怖い。
「ごご、ごめんなさい」
「何をあやまっているのです」
(うううう)
 もう。
「早く」
「えっ」
「行きなさい」
「え……」
 何を。
「でも、白姫が」
「アリスさん」
 冷たく。
「あなたにできることはありません」
「ええっ!?」
 そんな。
「あなたがすべきことは」
「自分がすべきことは」
 はっと。
「学校……」
 目が。
「い、行ってきまーーーす!」
 遅刻などしたら。
「あっ」
 これだけは。
「白姫のこと、よろしくお願いします!」
 深々と。
「そ、それじゃ!」
 ダッシュ。
「ふぅ」
 仕方ないと。
 その。
「………………」
 眼差しが。

 ――シロヒメはお休みすることになりました。

「ぷりゅー」
 安静。
「つーまんないんだしー」
 ゴロゴロ。
「誰か、かまうしー」
 ゴロゴロゴロ。
「かまってくれないと」
 ぷりゅぅ。
「泣いちゃうんだしー」
 と。
「ぷりゅ!」
 ピン! 耳が。
「ぷりゅぷりゅぷりゅぷりゅ」
 短い脚で。
「ぷりゅーっ」
 飛びこむ。
「わっ」
 受け止め。
「よかった」
 優しく。
「元気みたいだね、白姫」
「ぷりゅっ」
 すりすり。
「でも、まだ」
 抱え直し。
「ぷりゅー❤」
 お姫様だっこ。
「おとなしくしてないとね」
「ぷりゅぅ?」
 たちまち。
「白姫」
 困ったと。
「元気になったら、またいっぱい遊べるから」
「ぷりゅっ」
 約束。いなないて。
「ぷりゅー」
 すりすり。
「ふふっ」
 こちらからも。
(ヨウタロー)
 それは。
(大好き)
 心からの。


「ぷりゅ」
 目が。
「ぷりゅぅ……」
 夢。
(けど)
 小さいころ。本当に。
「ヨウタロー」
 ぽつり。
「それにしても」
 ぷりゅー。頬を。
「なんで、シロヒメがびょーきになったりするんだし。かわいくていい子なシロヒメが」
 ぷりゅぷん。
「シロヒメ、何も悪いことしてないんだし。なのに」
 そのとき。
「ぷりゅはっ」
 気づいたと。
「かわいいからなんだし」
 ぷりゅぷりゅ……わなわな。
「美少女ははっこーなんだし! びょーじゃくなものと決まってんだし!」
 盛り上がる。
「ぷりゅりゅりゅ……なんてふこーなシロヒメなんだし」
 哀しみを。
「花の命は短いんだし。花のように愛らしいシロヒメも」
 そう。いなないて。
「………………」
 ぴたり。
「ぷりゅー」
 でれーん。
「シロヒメだけでやっててもつまんないんだしー。誰かかまうしー」
 かまってくれそうなのは。
「………………」
 一人。だけ。
「白姫さん」
「ぷりゅ!」
 跳びあがる。
「ぷりゅりゅりゅりゅ……」
 ふるえつつ。
「シロヒメ、ちゃんといい子にしてました。かまってもらわなくて大丈夫です」
「………………」
 何も。言わず。
「ぷりゅ?」
 差し出される。
「ご飯です」
「ぷ、ぷりゅ」
 動揺が。抜けないながらも。
「ぷりゅがとうございます」
 お礼は。
「………………」
 背を。
「ぷりゅー」
 助かったと。
「ぷりゅっ」
 果物や野菜がやわらかく煮られた。いかにもおいしそうな〝おかゆ〟が。
「ぷりゅだきます」
 きちんと。
「ぷりゅぷりゅぷりゅ」
 食欲のない身体に。それは染み入るようにおいしかった。

「お母様」
 頭を。
「ありがとうございます」
「………………」
 何も。
「ふふっ」
 うれしそうに。
「何が」
 おかしいのか。
「だって」
 心からの。
「お母様がいてくださるから」
「………………」
 それは。
「あっ」
 しまったと。
「ごめんなさい」
 再び。
「こんなことでお時間を取らせてしまって」
 こんなこと?
「余計なお手間をお母様に」
 余計――
「あなたは」
 たんたんと。
「わたしの娘です」
「お母様……」
 それでも。すまなそうな。
「だから」
 言う。
「早く良くなりなさい」
 うつむいたまま。
「……はい」
「………………」
 自分は。なぜ。
 こんな顔を。
 この子に。
(わたしは)


「………………」
 記憶。
「ふぅ」
 軽く。頭を。
「あのぉー」
 そこに。
「なんでしょう」
「はわっ」
 ひるむも。
「そ、その、白姫に」
「白姫さんに?」
「お見舞いをって……みんなが」
「………………」
 一間。
「わかりました」
 ほっと。
「じ、じゃあ、伝えてきますね」
 そそくさと。
「………………」
 外を。
(もう)
 こんな時間なのかと。


「白姫、へいきー?」
「白姫ぇー」
 小さな影たち。囲まれて。
「ぷりゅー」
 うれしげに。
「白姫は病気ですからね。あまり無理をさせてはだめですよ」
「はーい」
 聞きわけよく。
「ぷりゅっ」
 余計なことを。そんな。
「で、ですけど」
 そこは。
「はい、白姫」
 差し出される。
「お花ー。きれいだったからー」
「ぷりゅー」
「こっちはねー、白姫の絵ー」
「ぷりゅりゅ」
 ありがとう、と。
「白姫、かしこーい」
「かわいー」
(……やっぱり)
 にぎやかに。
「みなさん」
「!」
 背筋が。
「ぷりゅ!」
 こちらも。
「ありがとうございます」
 しとやかに。一礼。
「白姫さんのために」
 にっこり。
「わー」
「すごーい」
 配膳台の上。見た目にもあざやかなケーキやお菓子の数々が。
「うわぁ」
 よだれが。
「これ、全部、依子さんが」
「はい?」
「!」
 聞かずもがなの。
「ぷりゅー♪」
 わーい。こちらも。
「白姫さん」
「ぷ……!」
「白姫さんには」
 地味な見た目の。あくまで療養のための。
「ぷりゅぅー」
 がっかり。
「あの、白姫」
 元気になればまた。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 いつもの勢いはない。それでも十分に。
「なんでですか!」
「八つ当たりだし」
 当然と。
「……ぷ」
 視線が。
「ぷりゅりゅりゅりゅりゅ……」
 冷たい。眼差しに。
「白姫ー」
 そこへ。
「よかったー、元気ー」
「アリスちゃんと遊べるんだー」
(げ、元気?)
 そういう問題では。
(まあ)
 元気。になってはきたのか。
「みなさん」
 優しく。
「白姫さんが休めませんから。おやつはあちらで」
「はーい」
 素直に。
「アリスさん」
「は、はいっ」
 言われずとも。
「走っちゃだめですよー。危ないですからねー」
 面倒を見つつ。共に。
「ぷりゅぅ」
 しょんぼり。
「ぷりゅ」
 療養食に。口を。
「ぷりゅぷりゅぷりゅ」
 おいしかった。

「白姫」
 優しく。
「ぷりゅ」
 ぱちっ。目を。
「ぷりゅ!」
 そこに。
「ぷりゅーっ」
 大はしゃぎで。
「わっ」
 受け止める。
「ふふっ」
 昔と。同じ。
「元気みたいだね」
「ぷりゅっ」
 さらに。
「甘えん坊だな、白姫は」
「ぷりゅ!」
 あらたな。
「いい子にしていたか」
「ぷりゅ」
「そうだな。白姫はいい子だものな」
「ぷりゅー」
 すりすり。
(違うんだし)
 いまは。他にも。
(よかったし)
 心から。
(シロヒメ……)
 幸せな。
(花房家の馬で)


 はっと。
「ぷ……」
 夢。また。
「ぷりゅぅ……」
 どうして。
 夢でなく本当に。
「っ」
 まさか。
(嫌い……)
 本当は。
(そんなこと)
 ない。絶対に。
(だったら)
 どうして。そればかり。
「ぷりゅっ」
 耐えられない。
 来てくれないなら、こちらから。
「ぷ!?」
 膝が。
 力が入らず、そのまま。
「ぷりゅぅっ」
 まともに。
「ぷ……りゅ……」
 涙が。
(嫌だし……)
 どうしようも。なく。
(こんなの……嫌なんだし……)


「ぷりゅっしゃいませー」
 そこは。
「ようこそ、白馬のおみせやさんへー」
 明るく。はつらつ。
「どんな蹄鉄がお好みですかー」
 愛想よく。
「パカパカもありまーす」
 にこやかに。
「白馬名物パカーンはいかがですかー」
 いなないて。
「ぷりゅぷりゅー❤」
 こだまする。
「………………」
 誰も。
「……ぷりゅっ」
 それでも。
「ぷりゅがとうございまーす。ご一緒にシロヒメは」
 元気よく。
「シロヒメ……は」
 元気。
「………………」
 どこに。
「げ、元気」
 それは。
「元気はどこだしー。どこにあんだしー」
 探す。求める。
「誰か」
 弱々しく。
「元気……」
 ヒヅメを。伸ばす。
「シロヒメ……に……」


「はくばのーはるーわーあ~♪」
 絶唱。
「ぷりゅぷーりゅなーはるでーす~♪」
 海に向かって。
(……違うし)
 こうでは。
(シロヒメは)
 ふり返る。
「アイドルなんだしっ❤」
 スポットライト。
「ぷりゅっきり、ぷりゅっきり、もお~♪ ぷりゅっきりーですか~♪」
 重い。
(こういうアイドルじゃないしっ!)
 もっと明るい。
「ぷりゅーやかーにうたって~♪ ぷりゅーりゅなとーきーは~♪」
 ちょっとだけ。
(足りないし)
 もっと。
「ひーざしーのーなーかをーはしーりーぬーけーてーくーまっかなはくば♪」
 と。
「『真っ赤な白馬』って何なんだし!」
 自ツッコミ。
「………………」
 なぜなら。
「ぷ……」
 客席に。誰も。
「いないんだし」
 ぽつり。
「なんでいないんだし! シロヒメが歌ってるのに! シロヒメ、アイドルなのに!」
 応えは。
「なんでだし……」
 ない。
「シロヒメ」
 がくり。力なく。
「シロヒメぼっちなんだし」
 もう。歌も。


 真っ白な。
(ぷりゅぅ……)
 心地いい。
(何も)
 感じない。
(もう)
 どうでも。
(誰もいなくたって)
 いい。
(そうなんだし)
 だって。
(ぜんぜん)
 さびしくない。
(いないんだから)
 自分さえ。
(このまま)
 白い世界で。
 白く。
 ただ。
「……ぷ?」
 いた。
「ぷりゅ……」
 白い世界に。同じように。
 けど。
 はっきり。
「ママ」
 それは。
「ぷりゅぅー」
 すり寄る。
「ママぁ」
 優しく。鼻先を。
(ママ……)
 それだけで。
 もう。
 色のない世界に。
「ぷりゅっ」
 まばゆい。
「ぷりゅがとう」
 あふれる。光に包まれ。


「………………」
 そばに。
「ぷりゅ!」
 いた。
(ヨリコ……)
 なぜ。
「お目覚めですか」
「ぷりゅっ!」
 跳び上がる。
「おお、お目覚めです」
 ふるえつつ。
「!」
 手が。こちらに。
「ぷりゅっ」
 目を。
「ぷ……」
 そっと。額に。
「下がったようですね」
「ぷりゅ?」
「これなら」
 立ち上がる。
「あ、あの」
 あせあせ。
「それって」
「………………」
「シロヒメ……良くなったって」
 答えは。
「油断大敵」
「ぷ……!」
「今日一日はまだ安静です」
 言って。
「ぷ、ぷりゅ」
 行かれて。
「………………」
 ひとまず。
「ぷりゅぅ」
 ほっと。
「治ったんだし」
 けれど。
「ぷりゅー」
 複雑な。
「なんだか」
 ゴロン。
「納得いかないんだし」
 もやもやと。
「ぷりゅぅ……」
 思い出す。
(ママ……)
 夢の中の。
 それは。
 やけにはっきり。
(でも)
 くんくん。気配もにおいも。
(ないんだし)
 あるのは。
「ぷりゅ!」
 ピン!
(ひょっとして)
 ずっと。寄り添ってくれていた。
(ヨリコ……)
 なのかと。
「ぷりゅぅー」
 考える。
「わかんないんだし」
 正直。
(でも)
 気分は。
 悪くなかった。

「元気になってよかったね」
 そこに。
「ぷりゅ!」
 並べられた。待ち望み続けた。
「ごちそーだし!」
 こだまする。
「ふふっ」
 今度こそ。本物の笑顔が。
「ヨウタロー❤」
 すりすり。
「シロヒメ、さびしかったんだし」
「ごめんね」
 心からの。
「依子さんに止められてて」
「ぷりゅ!」
 どういうことだ。
「ヨリコ……」
 ぷりゅぷりゅ。わなわな。
「やっぱり、シロヒメのこと嫌いなんだし。だから、いじわるして」
「違うよ」
 はっきり。
「シロヒメのためって」
「ぷりゅぅ?」
 どこが?
「だって」
 かすかに。すまなそうな。
「僕がそばにいると白姫が休めないって」
「ぷりゅ?」
「前も」
 はっと。
(そうだし……)
 小さいとき。はしゃぎすぎてしまって。
(それで)
 治るのが遅くなって。
(同じなんだし)
 今回も。
 みんなが来たとき。短い時間とはいえ。
(だから)
 また悪化して。
「もう構わないのだろう」
 そこに。
「白姫は元気になったのだから」
「マキオー」
 すりすりすり。
「マキオもヨリコに止められてたの」
「む?」
「違うよ」
 横から。
「真緒(まきお)は自分で会わないって決めたんだ」
「ぷりゅ!」
 ショック。
「マ、マキオ……」
 ぷりゅぷりゅ。うるうる。
「シロヒメのこと、嫌いだから」
「何をそんな顔をしている」
 仕方ないと。
「葉太郎(ようたろう)だ」
「ぷりゅ?」
「葉太郎が」
 当然と。
「白姫に会えないのに、私だけ会うわけにはいかないではないか」
「ぷ……!」
 それは。
「本当は会いたかったんだし?」
「ん?」
「シロヒメに」
「ふふっ」
 たてがみを。
「ぷりゅー」
 それが。何より。
「マキオは本当に優しい子なんだしー」
 心から。
「比べて」
 ぷりゅぎろっ。
「アリスはデリカシーねーんだしー」
 にらんだ。そこに。
「な、なんでですか」
 驚きあわて。
「自分だって白姫のことを心配して」
「じゃー、何してくれたし」
「えっ」
 そういななかれると。
「えっと、その、がんばりましたよ」
「何をだし」
「何をって」
「がんばってアホだったんだし?」
「アホじゃないです!」
 なんていう。
「あははっ」
 明るい。笑いが。
「元気だ」
「ぷりゅ?」
「よかったな、白姫」
 うれしくて。仕方ないと。
(マキオ……)
 伝わる。
「シロヒメもだし」
 すりすり。
「ぷりゅがとう」
 あらためて。
「さあ、白姫」
 うながされる。
「今日は白姫が主役だよ」
「ぷりゅ!」
 もちろん!
「依子さんが白姫のためにごちそうを作ってくれたから」
「ぷ……」
 はっと。
「ヨ、ヨウタロー」
 おそるおそる。
「ヨリコ、怒ってないんだし?」
「えっ」
「シロヒメのこと」
 きょとんと。
 そして。優しく。
「どうして?」
「ぷりゅ……」
 はっきりとは。
「依子さんはね」
 たてがみを。
「シロヒメのことがとっても大切なんだよ」
「ぷりゅぅ?」
 本当に。
「もちろん」
 笑顔で。
「家族なんだから」
「っ……」
 家族。
(そうなんだし)
 胸に。すっと。
(そうだったんだし)


「ヨリコ」
 一人。隅に控えていたそこへ。
「どうされました」
「ぷ……!」
 ぷりゅびくっ。なるも。
「あ、あのね」
 頭を。
「ぷりゅがとうなんだし!」
 そして。ぽつり。
「……ママ」
「っ」
 かすかに。
「だ、だって」
 ぷりゅあわ。
「シロヒメたち、家族なんだし。ヨリコ、シロヒメたちのママなんだし」
「………………」
「って……ヨウタローが」
 ぷりゅおど。
「そ、そーゆーことなんだし!」
 ぷりゅっ。逃げるように。
「………………」
 一人。その場に。
「ふぅ」
 一つ。
 そして、何事もなかったように。
「………………」
 かすかな。
「ふぅ」
 また。

シロヒメの休日

シロヒメの休日

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-04-24

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work