悪魔城殺人事件 in 東三河(7)【世界編】

第1章 サルバドール・ダリの『記憶の固執』

 美雪は廊下を行ったり来たりしている。廊下の壁にはいろいろな絵画が掛けられている。何かおもしろい作品はないか、物色しているのだ。やがて立ち止まった彼女は、目の前の絵画を指差して神谷に言った。
美雪「すごい。神谷さん。サルバドール・ダリがありますよ。」
神谷は彼女のところへ歩いていって、その絵画を見て言った。
神谷「本当だ。あの有名な絵画だ。歪んだ時計の。」
美雪「これは『記憶の固執』です。これも、日本でけっこう有名ですよね。」
神谷「うん。ダリはスペインの画家で、シュルレアリスムを代表する存在だ。」
美雪「はい。『記憶の固執』は、ダリが1931年に制作した傑作です。夏に溶けたカマンベールチーズから着想を得たと言われています。」
神谷「硬い時計がチーズのように溶けて歪んでいる。時間の絶対性が喪失し、夢や無意識の世界を象徴しているようだ。」
美雪「背景に描かれている険しい岩山は、ダリの故郷・カタルーニャ地方のクレウス岬の海岸です。この風景と溶けて歪んだ時計の対比が、見る人に違和感と神秘性を与えています。」
神谷「一般に、アインシュタインの相対性理論の具象化だと解釈されているね。」
美雪「諸説ありますが。当時の芸術家たちも、ニュートンの絶対時間の概念を覆したアインシュタインの新しい時空概念に衝撃を受けたのは事実でしょう。」

第2章 特殊相対性理論

 神谷は話題をアインシュタインの相対性理論に変えた。
神谷「相対性理論は、アインシュタインが20世紀初頭に発表した時間と空間、そして重力に関する革新的な理論だ。」
美雪「光の速さは一定であるという原則から、速く動くと時間が遅れ、空間が縮むという不思議な結論が導出された。」
神谷「エネルギーと質量の関係を、一つの方程式で表した。これは、質量・重力はエネルギーであり、エネルギーは質量・重力であることを意味する。」
美雪「原子力の原理は、アインシュタインの数式に基づくんですよね。核分裂反応の際に失われるごくわずかな質量が、膨大なエネルギーに変換される。」
神谷「ウランなどの重い原子核に中性子を当てると、原子核が分裂する。この時に質量が欠損する。喪失したそのわずかな質量が、凄まじい熱エネルギーとなって放出される。核分裂の際に中性子が飛び出すので、それが隣のウランに当たって次々と分裂が続く。この連鎖反応により、莫大なエネルギーを取り出し続けることができる。」
美雪「原子力は別格のエネルギーなんですね。」
神谷「普通の燃焼などの化学反応においても実は、厳密には質量が減少している。しかし、その減少量が核分裂反応に比べて極微量なので、普通の方法では計測することができないんだ。」
美雪「なるほど。特殊相対性理論は、普遍的な理論なんですね。」

第3章 一般相対性理論

神谷「特殊相対性理論だけでもすごい理論だった。しかし、アインシュタインはさらに一般相対性理論を完成・発表した。」
美雪「重力の正体は、時間と空間、すなわち時空の歪みであると定義した理論ですね。」
神谷「それまでのニュートン力学では、重力は物体と物体が引き合う力と定義した。しかし、アインシュタインは、重いものがそこにあるだけで周囲の空間が歪むと考えた。」
美雪「重力が強い場所ほど、時間はゆっくり流れるんですよね。」
神谷「重いものの近くでは時空の歪みが大きく、光さえも曲がり、時間そのものが引き延ばされる。」
美雪「質量によって空間そのものが歪んで、そこを通る光も曲がって進む。」
神谷「重力レンズ効果だね。遠くにある星が、手前にある巨大な銀河の重力によって歪んで見えたり、増幅されて見えたりする現象だ。現代の天文学において、宇宙の深部を観測するのに欠かせない知識だよ。」
美雪「曲がった空間を計算するために、難しい数学を利用するんですよね。」
神谷「うん。ニュートンまでは平らな紙の上の幾何学だった。アインシュタインはリーマン幾何学という、歪んだ面を扱う高度な数学を駆使した。」
美雪「テンソルって、難しくてよく分かりません。」
神谷「座標系が歪んでも変わらない本質を記述するための、ベクトルをより強力にした数学的道具だよ。」
美雪「ベクトルまでは理解できるんですが・・・」
神谷「成分を増やすほど複雑になり、直感で理解するのが難しくなる。階数を増やすと名前や機能が変化する。0階はスカラー、1階はベクトル、2階は行列、3階以上が高階テンソル。」
美雪「アインシュタインの理論では、3次元空間+時間で4つの要素が絡み合う。これを扱うのにテンソルが必要になるんですね。」
神谷「正確に言うと、一般相対性理論の2階テンソルは、座標系を変えたときに、特定の変換則により、成分が自動的に書き換わる行列のことだ。」
美雪「ローレンツ変換までは何とか理解できるんですが・・・」

第4章 物理学と軍事技術

 神谷は話題を物理学と軍事技術の関係に変えた。
神谷「ちなみに、物理学と軍事技術の関係は密接で、切り離せない関係だ。ニュートン力学により、大砲の弾道を計算できるようになった。風向き、火薬の量、そして角度から着弾地点を予測できる。」
美雪「蒸気機関や電気の研究も、軍事に利用されました。熱力学により、エンジンの研究が進み、軍艦、戦車、それに航空機が登場。」
神谷「電磁気学により、無線通信が実現した。これも重要な軍事技術だ。」
美雪「そして、アインシュタインの相対性理論と核物理学。 特殊相対性理論は原子爆弾の理論的根拠となった。」
神谷「一般相対性理論により、重力による時空の歪みが解明された。これは現代のGPSの精度を支えている。」
美雪「GPSはもともと、アメリカ軍がミサイルの精密誘導のために開発した軍事技術です。」
神谷「量子力学も重要だ。半導体の開発により、コンピュータの性能が飛躍的に向上した。」
美雪「レーザー技術とか、ミサイルやドローンの開発、それらを迎撃して撃墜するシステムとか。あと、暗号技術も重要ですね。」
神谷「今、それらの技術を駆使して、各地で戦争が行われている。」
美雪「悲しい現実ですね。」
彼女はそう言うと、黙って『記憶の固執』を見つめた。

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悪魔城殺人事件 in 東三河(7)【世界編】

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-04-23

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  1. 第1章 サルバドール・ダリの『記憶の固執』
  2. 第2章 特殊相対性理論
  3. 第3章 一般相対性理論
  4. 第4章 物理学と軍事技術