悪魔城殺人事件 in 東三河(6)【塔編】

第1章 ブリューゲルの『バベルの塔』

 美雪は廊下で立ち止まり、壁に掛けられている絵画を鑑賞している。彼女は、目の前の絵画を指差して神谷に言った。
美雪「神谷さん。これ、バベルの塔ですよね。」
神谷はその絵画をまじまじと見ながら言った。
神谷「本当だ。ブリューゲルの『バベルの塔』だ。」
美雪「バベルの塔って、日本でもけっこう有名ですよね。」
神谷「うん。旧約聖書の創世記に登場する巨大な塔なんだけどね。日本では、16世紀の戦国時代終盤にイエズス会の宣教師が、西洋のいろいろな文物と一緒に聖書の話を持ち込んだのが始まりと言われている。」
美雪「でも、このブリューゲルの『バベルの塔』は、日本でも美術の教科書や展覧会で人気があるんです。2017年に日本に来た時も大きな話題になりました。」
神谷「マンガやアニメなど、サブカルチャーでもそのモチーフが流用されているからね。幅広い世代に浸透しているんじゃないかな。」
美雪「人間が天まで届く高い塔を建設して、神に挑戦しようとした。それを見た神は塔を崩してしまった・・・という物語が一般に流布していますね。」
神谷「神は人々の言葉をバラバラにして、塔の建設をやめさせた。混乱した人々は、世界各地へ散らばっていった・・・」
美雪「人間の傲慢から神の怒りを買い、言葉をバラバラにされてしまった・・・という教訓的なエピソードは、日本人の価値観や感性にもなじみやすかったんでしょうね。」

第2章 高層建築物の歴史

 神谷は高層建築物の話を始めた。
神谷「世界的には、エッフェル塔が近代建築史における決定的な転換点だった。」
美雪「フランスの首都・パリにある塔ですね。フランスに興味がない人でも知っている、超有名な観光名所です。」
神谷「それまではエジプトのピラミッドとか、ヨーロッパの石造大聖堂とか、石造りが当たり前だった。しかし、石を積み上げる構造は自重で崩壊するリスクがあり、高さに限界がある。」
美雪「だから、エッフェル塔ができた時に、みんな衝撃を受けたんですね。」
神谷「錬鉄という新しい素材と橋梁技術を応用し、従来の限界の2倍を実現した。300メートルなんだけどね。当時の人々はさぞかしビックリしたんだろう。」
美雪「エッフェル塔は、1889年から1930年までの41年間、世界一高い建造物の座を守り続けたんですよね。」
神谷「日本では、1958年に東京タワーが完成した。これは333メートル。エッフェル塔の構造をモデルにして、さらに高くかつ軽量に設計された。」
美雪「エッフェル塔は、単に高いだけでなく、世界中の人々に影響を与え、世界の建築史を変えてしまったんですね。」
神谷「うん。計算された鉄の骨組みがいかに強固であり、どれだけ高くできるかを世界に証明した。その後のニューヨークなど、摩天楼の建設ラッシュへとつながっていく。」

第3章 パウロの異邦人伝道

 神谷は話をバベルの塔に戻した。
神谷「人類は神の怒りによって言葉をバラバラにされて、世界各地へ散らばっていった・・・キリスト教はそもそも、ユダヤ人の宗教だった。」
美雪「それがローマ帝国中に広がり、やがて世界中に広がっていったんですね。」
神谷「イエスも弟子も、もちろんユダヤ人だった。イエス自身がユダヤ教の伝統の中で育ち、彼が説いたのは旧約聖書の預言の成就だった。」
美雪「救世主はユダヤ人を救いに来ると考えられていたから、割礼とか食事制限とか、ユダヤ教の厳しい律法を守ることは当然とされたんですね。」
神谷「キリストの死後、パウロがイスラエル外の異邦人への布教を開始した。この伝道の過程で、イエスを信じるなら、ユダヤ人の律法を守らなくても救われるという理論が成立した。」
美雪「だから、異民族にもキリスト教が浸透していったんですね。」
神谷「パウロの活動により、キリスト教はユダヤ人の宗教から、民族を問わない世界宗教へと脱皮していった。初期教会では、ユダヤ人の律法をどこまで守るべきかという論争もあったんだよ。」
美雪「歴史を俯瞰すると、パウロの功績ってすごいですね。」
神谷「そうだね。ちなみに、ローマ教皇は、イエス・キリストの筆頭弟子であるペトロの後継者なんだ。」

第4章 ローマ教皇

美雪「現在の教皇は第267代のレオ14世ですね。」
神谷「教皇の権威は、カトリック教会の教義による。ペトロは初代ローマ司教であり、これを引き継ぐ者が代々の教皇となる。ペトロはローマで殉教し、その地で教会を導いた伝統を継承している。地上におけるキリストの代理人であり、全世界のカトリック教会を統治する最高の権威とされる。」
神谷「プロテスタントには、ローマ教皇のような概念はないですよね?」
神谷「カトリックとプロテスタントの決定的な違いの一つだね。16世紀の宗教改革者ルターは、信者はみな等しく神と直接つながっており、教皇のような仲介者は不要であると説いた。誰か一人が権威を独占的に継承するという考え方はない。」
美雪「聖書に書かれていることが重要なんですね。」
神谷「牧師はいるけど、教皇のようなキリストの代理人ではなく、あくまで信仰の指導担当者とされる。」
美雪「中世ヨーロッパの歴史とか宗教改革とか、高校の世界史で勉強しました。」
神谷「中世から近代までのヨーロッパの歴史を理解する上で、キリスト教とその歴史を理解することはとても重要だね。」
美雪「歴史を知ることは、現代の理解につながるんですね。」
彼女はそう言って、壁に掛けられている『バベルの塔』を鑑賞していた。

悪魔城殺人事件 in 東三河(6)【塔編】

【塔(Tower)】、【教皇(Hierophant)】、【女教皇(High Priestess)】

悪魔城殺人事件 in 東三河(6)【塔編】

  • 小説
  • 掌編
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-04-22

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  1. 第1章 ブリューゲルの『バベルの塔』
  2. 第2章 高層建築物の歴史
  3. 第3章 パウロの異邦人伝道
  4. 第4章 ローマ教皇