悪魔城殺人事件 in 東三河(5)【運命の輪編】

第1章 冨嶽三十六景『穏田の水車』

 美雪は廊下を行ったり来たりしながら、壁に掛けられている絵画を鑑賞している。やがて立ち止まった彼女は、目の前の絵画を指差して神谷に話しかけた。
美雪「神谷さん。浮世絵がありますよ。」
神谷「本当かい?」
彼は美雪の傍らまで歩いていって、その絵画に目をやった。
神谷「本当だ。葛飾北斎だね。」
美雪「これは冨嶽三十六景の一つ『穏田の水車』です。」
神谷「美雪さんは西洋の絵画だけでなく、日本の浮世絵にも詳しいんだね。」
美雪「いえ、そんなによく知らないんですけど。この水車の浮世絵は、どこかで見た覚えがあるんです。」
神谷「葛飾北斎のこの浮世絵も本物かな?」
美雪「本物かもしれませんね。」
神谷「水車小屋の周りで、女性が洗い物をしているね。穀物を運び入れる男性と、亀を連れている子どももいる。おもしろい絵だな。」
美雪「当時の人々の暮らしぶりと、美しい富士山の眺望が描かれていて、とても素敵な浮世絵です。」
神谷「葛飾北斎・・・NHKの大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』では、芸人のくっきー!が演じていたね。」
美雪「葛飾北斎は日本を代表する浮世絵師です。70年以上も活躍し、約3万点の作品を残しました。90歳で亡くなるまで絵を描き続けたということですから、本当に真の芸術家だったんですね。」
神谷「すごい人物だったんだね。」

第2章 水車の原理

 神谷は話題を浮世絵から水車に変えた。
神谷「水車は、水の位置エネルギーや運動エネルギーを、回転エネルギーに変換する装置だ。」
美雪「そのエネルギーを利用して穀物を挽いたり、ついたりするんですよね。『穏田の水車』でも、男性が穀物を運び入れています。」
神谷「あと、低い場所にある川の水を、高い場所にある田んぼへ流したり。水車自体は昔のものだけど、水のエネルギーを利用する原理は今も活用されているよ。現代では必要不可欠なエネルギーを生み出すために。」
美雪「電気・・・水力発電ですね。」
神谷「そう。水のエネルギーで発電機を回して発電する。いろいろな種類の発電所が存在するけれど、何らかのエネルギーを利用して発電機を回しているんだ。」
美雪「火力発電は、燃焼によって生じた熱で水を沸騰させ、その蒸気の力でタービンを回すんですよね。燃料は、石炭とか石油とかLNGとか。」
神谷「原子力発電は、核分裂によって生じた熱で水を沸騰させている。」
美雪「タービンは、水や蒸気のエネルギーを回転力に変換する装置ですよね。水車小屋の水車がそれに当たるんだ。」
神谷「そうそう。タービンで発電機を回転させるという原理は、みんな同じだよ。」
美雪「話を水力発電に戻すと、ダムとかで、巨大な水力タービンを回して発電するのが水力発電ですね。」

第3章 車輪の発明

神谷「回転する円盤は、人類がエネルギーを利用するために発明した最も重要で汎用的な形と言える。」
美雪「車もそうですね。」
神谷「自動車は、エンジンの中で燃料を燃やして、その爆発の力を回転力に変換している。」
美雪「そもそも、車輪というものが発明されたこと自体がすごいと思います。自動車に限らず、馬車とか自転車とか、車輪やタイヤがなければ走らないですからね。」
神谷「車輪の発明は、人類史上、最も重要かつ不自然な発明の一つと言われている。」
美雪「石器や火は自然界に存在するけど、回転する円盤とその軸という車輪の形って、自然界には存在しませんよね。」
神谷「5000年前には発明されていたらしい。」
美雪「車輪の発明により、運べる荷物の量と距離が飛躍的に増え、物流と貿易が拡大して都市が発展する。さらに、戦車などの軍事技術の革新にもつながりますね。」
神谷「発電所のタービン、いろいろな機械の歯車、ベルトコンベアなどの工場設備・・・あらゆる産業の基盤となる原理・技術だ。」
美雪「丸太を下に敷き、転がして運ぶのはもっと古い時代から行われていたんですよね。」
神谷「車輪には軸が必要だ。重い荷物を載せても壊れない軸、その軸がスムーズに回るための穴、摩擦で回転が止まらないための工夫。なかなか難しいことだと思うよ。」

第4章 秦の始皇帝

美雪「秦の始皇帝は、車輪の規格を統一したんですよね。」
神谷「始皇帝は中国を初めて統一した皇帝で、中国全土におけるあらゆる規格の統一という革命的な事業を行った。」
美雪「度量衡という単位、文字の書体、貨幣、それに車輪の幅ですね。」
神谷「車軌の標準化は、意外と重要な事業だった。道にある轍の幅を合わせるために、馬車の車輪の幅を統一した。」
美雪「そうすれば、全国どこでも同じ馬車がスムーズに走れるようになりますね。物資や軍隊の移動速度が向上します。」
神谷「現代にも通じる政策だね。鉄道の線路幅とか道路幅とか、同じ発想だと言える。」
美雪「全国的な道路網は、全国的な物流、貿易、それに軍事的なネットワークのために不可欠なインフラです。」
神谷「始皇帝の政治の本質は、法家による現実的な思想に基づいていた。徹底的な法治主義だ。」
美雪「法家と言えば、商鞅、韓非、李斯・・・『キングダム』を見たくなりました。アニメ化もされていますし。」
神谷「そうだね。実際の歴史も、中華を統一するまでが山場だね。」
美雪「厳格すぎる法律が逆に、秦がわずか15年で滅亡する原因になったんですよね。」
神谷「法による統治が民衆の限界を超えてしまった。法家は確かに優秀だったけど、人間の感情や限界を計算に入れていなかった。」
美雪「この反省から、次の漢の時代には、法治と儒教を組み合わせてバランスをとり、統治システムが改善・進化していくんです。」
美雪はそう言いながら腕組みをして、壁に掛けられている絵画を見つめていた。

悪魔城殺人事件 in 東三河(5)【運命の輪編】

【運命の輪(Wheel of Fortune)】、【皇帝(Emperor)】

悪魔城殺人事件 in 東三河(5)【運命の輪編】

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-04-22

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  1. 第1章 冨嶽三十六景『穏田の水車』
  2. 第2章 水車の原理
  3. 第3章 車輪の発明
  4. 第4章 秦の始皇帝