悪魔城殺人事件 in 東三河(4)【正義編】
第1章 刑事弁護士
神谷と美雪が3階の廊下で話していると、東側から弁護士の誉が歩いて来た。
美雪「誉さんだ。」
神谷「どうも。大変なことになりましたね。」
誉「えぇ。まさかこんな事件に直面することになるとは、夢にも思いませんでした。」
神谷「今夜のパーティーは中止ですね。私たち、パーティーの参加者は警察が来るまで、この館の中で待機することになりそうですね。」
誉「そうですね、お気の毒ですが。まぁ、私も参加者の一人なんですけど。」
美雪「でも、おいしい晩ご飯を提供してもらえるみたいなんで、不幸中の幸いです。夕食後は、自分の部屋で待機していればいいんでしょ。食後のコーヒーでも飲みながら、くつろいで過ごすつもりです。」
神谷「誉さんは刑事弁護士ということで、警察が来るまで執事さんのサポートをすることになって大変ですね。」
誉「いえいえ。大したことはできませんよ。警察が来るまで、現場を保存・管理するだけです。神谷さんと美雪さんは、絵画を鑑賞しておられたんですね。」
美雪「はい。ゴッホとかミレーとか、すごい絵画ばかりですよ。」
誉「そうなんですか。私は芸術方面には疎いのでよく分からないのですが・・・そういえば、東側の階段の踊り場に金のテミス像が置いてありますね。」
第2章 金のテミス像
神谷「あぁ、ありましたね。あれ、本物でしょうか?金メッキかな。」
誉「けっこう大きかったですよね。純金なら、かなり高価な代物ですよ。」
美雪「私、まだ見てないんですけど、テミス像って・・・」
神谷「正義の女神・テミス様だよ。目隠しをしていて、一方の手に天秤、他方の手に剣を携えているんだ。目隠しは、財力や権力の有無に関係なく、万人に等しく法を適用する・・・法の下の平等を象徴しているんだ。」
誉「天秤は、正邪や善悪を測るためのもので、正義と公平を象徴しています。剣は、法を執行する力や威厳を象徴しています。」
神谷「剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力・・・ドイツの法学者イェーリングの言葉だけど、法と力、両方そろって初めて機能するんだよ。」
美雪「なんか、かっこいいですね。」
神谷「誉さんは東三河出身なんですか?」
誉「いえ、私は関西出身です。関西の大学で法律を学び、そのまま法科大学院に進学しました。大阪市内の法律事務所に就職したんですが、まぁ、いろいろあって、数年前に東三河の法律事務所に移ったんです。」
美雪「へぇー、そうなんですか。誉さん、関西人なんですね。」
神谷「誉さんは法科大学院を修了して、新司法試験をみごとに合格されたんですね。」
誉「はい。私が大学を卒業する頃にはもう、旧試から新試へ移行していましたから。」
美雪「旧試?新試?」
神谷「ハハハッ。若い人にとってはもう、歴史の話に聞こえるんだろうね。無理もない・・・20年前の過去の出来事だからなぁ・・・」
第3章 司法制度改革
美雪「20年前に試験が変わったんですか?」
神谷「うん。いわゆる司法制度改革だよ。司法をより身近で、迅速、公正なものにするために、抜本的な改革が断行されたんだ。」
美雪「なんか難しそうな話ですね。」
誉「裁判員制度の導入、法テラスの設立、法科大学院の設置、新司法試験の実施、法曹人口の拡大・・・」
美雪「すごい。まさに改革だったんですね。」
神谷「特にインパクトが大きかったのは、法科大学院の設置と新司法試験かな。」
誉「旧試と新試で、法曹になるためのシステムが変更されたようなものですからね。」
美雪「何がそんなに違うんですか?」
神谷「旧試は、法学部卒業生ならみんなチャレンジできたんだけど、合格者は1000人未満で、文字通りの狭き門。有名大学の法学部出身でも、数年間の試験浪人が当然という世界だったんだよ。」
美雪「有名大学で4年間も勉強して、さらに数年間の試験浪人ですか。なんか過酷な試験だったんですね。」
誉「司法試験のための予備校に通うのが普通だったらしいですね。試験に受かるためには、予備校のテキストと講座の方が効率的で、法学部の授業が軽視され、法学者の基本書が参考書扱いされてい時代だった・・・」
第4章 正義の行方
神谷「子女を後継者にしたい弁護士、法曹養成機関としての権威を取り戻したい大学法学部、法曹人口の拡大を望む諸勢力・・・いろいろな思惑や利権がからんで、まさに奇跡的に実現した改革だったんだよ。」
美雪「なんだか、本当に興味深い歴史の話を聞いている・・・というのが私の正直な感想です。」
誉「ハハハッ。十年一昔・・・どころではなくて、二十年二昔ですからね。」
神谷「法科大学院は、文部省と法務省が共有する利権に過ぎないのかもしれない。結局、予備試験というルートが新設されて、そのために受験生は予備校に通っている・・・」
美雪「現実の矛盾ばかりクローズアップするのは、アンフェアじゃないですか?どんな業界にも、そういう問題があるんですから。」
誉「美雪さんの指摘は鋭いですね。司法制度改革の理念や理想はケチのつけようがありませんから。」
神谷「法曹養成のための場として、人間性、学識及び思考力を涵養すること。理論と実務を融合させる架け橋として機能すること。法学部卒業生だけでなく、社会人や他学部出身者を広く受け入れて、多様性を確保すること。」
美雪「司法制度はJudicial System。司法も正義も英語ではJustice。ちなみに、法務省はMinistry of Justice。テミス様に恥じない法曹と司法制度であってほしいですね。」
神谷「ちなみに、アメリカの司法省は英語でDepartment of Justice。美雪さんが正論で話にオチをつけてくれたね。」
誉「私は2階におりますので、何かあればお声がけください。それでは、また。」
誉はそう言うと、階段を下りて2階に戻っていった。
悪魔城殺人事件 in 東三河(4)【正義編】
【正義(Justice)】、【審判(Judgement)】