映画『炎上』レビュー
①かなりのネタバレを含みます。前情報なしに観たい方はご注意下さい。
観終わった後の虚ろな感覚に身を任せると「今どきウケる描写をてんこ盛りにした、軽薄でノリがいいだけの中身すっからかんな作品」という酷い感想を本作には送りつけたくなるのですが、シンボリックに噛み砕くとこれがまたしっかりとした映画に化けるからマジで傑作なんですよね。
熱心な信者である両親が祈りを捧げる場所=天国、その両親から虐待を受け続けた家=地獄、そこから逃げ延びた歌舞伎町=楽園ないしエデンの化けの皮が剥がれて、露わになる実相がただの現実というインフェルノ。それに相応しい『炎上』はその場所にあるべき業火の現れであるのと同時に、じゅじゅが父親から何度も言われ続けてきた「お前は悪い子、穢れた子」の刻印を浄化する救いでもある、というのが最高にアイロニー。だって結局彼女は生き延びて、現実世界できっと罰せられる。文字どおり、罪深き人になるんですよ?そんな人たちを神さまは救おうとする。その神さまにじゅじゅは祈りを捧げ続けてきたんです。分かりますか、禍々しいほどに繰り返されるストーリーの循環が。登場人物を愛していないのか、この監督は…と思わず天を仰いでしまうレベル。
妹からのLINEもそうでしたね。あれが本作の出発点。それに対するじゅじゅの返しも記号的。それをラストカットに持ってくるなんて、本編の全部が無意味でしたー!って言ってるのと一緒でしょ。それに食いつく私たち観客も暗に否定されている。結局、お前らも他人事な不幸をエンタメとして消費してんじゃん。こいつらと何が違うんだよっていう声が観終わってからずっと頭の中に鳴り響いて気持ち悪い。
だから推せるんですよ、この映画。関わるもの全てをクソほどバカにして、どうしようもないリアルをこちらの顔面が歪むぐらいに力いっぱい押し付けて、あとは知らん。そっちでどうにかしろよって感じで幕を引く。社会ないし政治との間に軽やかに引かれる一線。その潔さがムカつくほどにカッコいい。惚れたくなくても惚れちゃうんですよ、虚ろな『炎上』の真っ黒な焦げ跡に。くそ、本当に腹立つ。
本作が森七菜さんの代表作になるであろうと直観して止まないのも非常に悔しいですね。台詞の全部で吃音の苦しさを伝えてくるし、誰にも言えないモノローグだけがするすると出てくるのも悲しいぐらいにじゅじゅの世界を作り上げていて、辛かった。森七菜さんが演じるじゅじゅだからこそあの地獄の釜の蓋は開いたのです。そんな演技を見せつけられると主演じゃなくても何らかの賞は獲って当たり前。次回作も引く手あまたと言わざるを得ない。『国宝』、『秒速5センチメートル』といったビッグネームがその道の敷石になってる感じにも歯噛みする。ファンの方は覚悟して観に行って下さい。俳優人生のクライマックスに到達してますよ、『炎上』の森七菜は。
今回、私はテアトル新宿に観に行ったのですが公開2日目にしてほぼ満席。売店も長蛇の列で大盛況、という情報も一応伝えておきますね。もの好きな方は是非。漫画風なコマ割りも、CGもフル活用して二次的、三次的に写し取られる虚構の世界を思う存分に味わって下さい。外に出た途端、いや〜な感じで肌に触れてくる世界で生きる覚悟だけは忘れずに。責任?そんなもの私は取る気ありませんよ?好きになさって下さいな。
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