夕方以上、夜未満

初めましてっ.ᐟ暇なので小説書いてたらどこかに投稿しないともったいないと思って初めた初心者です🔰
私は1年ほど前からとある“女の子”を好きになってバイだと認識した者です。この作品は私の心情や状況に彩りをほんの少しだけ添えた鏡のような作品だと思っています。

第一話 夕方、イヤホン半分

新しい教科書のにおいは、あまり好きじゃない。
紙とインクが混ざったみたいな、少しだけ息苦しくなるにおい。
慣れないブレザーは私の肩の重しになる。
教室はまだ落ち着かなくて、みんなの声がどこか浮いている。
笑い声も、机を引く音も、全部が少し大きく聞こえる。
天津(あまず)よつばは、そんな音の中で、ただ前を見ていた。
隣の席の子が、ノートをめくる音がする。
ちら、と横を見ると、目が合った。
「これ、裏写ってない?」
不意に声をかけられて、よつばは少しだけ肩を揺らした。
「……え?」
「ほら、インク。次のページ」
言われて見てみると、確かにうっすらと文字が透けている。
「あ……ほんとだ」
「でしょ」
その子は軽く笑って、ペンをくるくる回した。
「私、秋川あかね」
「あ……天津、です」
「知ってる。出席番号近いし」
そう言って、あかねはまたノートに視線を落とした。
距離が近い。話しかけ方も、自然すぎるくらいに。
それ以上、会話は続かなかったけれど。
不思議と、気まずくはなかった。

ーー⿻*⌖.

放課後。
教室のざわめきが少しずつ外に流れていく。
「よつちゃん、もう帰る?」
振り向くと、あかねが立っていた。
「よ、つ………うん」
呼び名が変わっていることに少し戸惑った。
「じゃ、一緒に帰ろ」
断る理由もなくて、よつばはうなずいた。
校門を出て、少し歩いた先にある小さな公園。
ブランコが二つと、古いベンチがあるだけの場所。
「ちょっとだけ寄ってかない?バレたら怒られちゃうけど」
あかねが軽く笑いながらそう言って、もう中に入っている。
よつばも、少し遅れてついていった。そんなことで内申点が大きく下がるほどよつばは馬鹿じゃない。
ベンチに並んで座る。
沈黙が落ちる。
でも、それは嫌なものじゃなかった。
「よつよつってさ、本読む?」
「……読む…好き…あかねちゃんは?」
「だよね、なんかそんな感じする。私はねぇ…読めって言われたら読むけどそんなに嫌いじゃないけど好きでもないかな?苦手っていうか?」
「……嫌いじゃないんだ」
あかねは笑って、足元の小石を軽く蹴った。
会話は途切れがちなのに、終わらない。
無理に続けようとしなくても、隣にいられる。
それが、少し不思議だった。
「ねえ」
ふいに、あかねが声を落とす。
「……?」
「“あかねちゃん”って呼び方さ」
よつばの肩が、ほんの少しだけ固まる。
「なんか距離あるくない?」
「……そう、かな」
自分では、普通に呼んでいるつもりだった。
「“あかね”でいいよ」
軽く言って、あかねはよつばの方を見る。
「そっちのがよくない?」
その言葉は、思っていたよりも重く落ちた。
名前を、そのまま呼ぶ。
それだけのことなのに。
なぜか、少しだけ息が詰まる。
「……あかね」
小さく、声に出してみる。
少しだけ、ぎこちない。
「うん」
あかねは、満足そうに笑った。
それだけなのに。
何かが、少し変わった気がした。
「……あ、ちょっと待って」
あかねがスマホを取り出す。
「配信始まった」
画面を見た瞬間、表情が明るくなる。
「これ、めっちゃ好きな人」
そう言って、イヤホンを片方差し出してきた。
「ほら、聞いてみて」
受け取る。
耳に当てると、低めの声が流れ込んできた。
歌い手の声。
優しくて、少しだけ近い距離で話しているみたいな音。
「この人ほんと好き。ガチ恋なんだよね」
あかねがそう言って、少し身を寄せる。
距離が近い。
肩が、触れる。
声はイヤホンから聞こえているのに。
心臓は、それとは別のところで鳴っているように思えた。
さっき呼んだ名前が、まだどこかに残っている気がする。
「……ガチ恋って…?」
小さくつぶやく。
「会えなくても好きってやつ。ライブとかでは推しと同じ空気吸えるんだけどね?えへへ…」
あかねは迷いなく言った。
「会えなくても、ずっと好きでいられるの」
その言葉を、よつばは少しだけ考える。
会えない人を、好きになる。
それは、たぶん本で読んだことがある。
でも。
隣にいるのに、落ち着かないのは。
こんなに近くにいるのに、変に息が浅くなるのは。
それは、なんなんだろう。
イヤホンを外すと、外の音が戻ってくる。
ブランコがきしむ音。
遠くで誰かが笑う声。
空は、少しだけ赤くなっていた。綺麗…
「そろそろ帰る?」
あかねが立ち上がる。
「……うん」
よつばも、あとを追う。
並んで歩く帰り道。
さっきより、少しだけ距離が近い気がした。
「ねえ、よつばっち」
呼ばれて、顔を上げる。
また名前が変わっている。
「…なに?」
「なんでもない」
あかねは笑うだけだった。

さっき呼んだ名前が、まだ口の中に残っている。
あかね。
それだけなのに、少しだけ落ち着かない。
会えない人を好きになるって、どういうことなんだろう。
こんなに近くにいるのに、変になるのは——
なんでだろう。
まだ、名前のない感情が、
静かにそこにあった。

第二話 これって普通…?

朝の教室は、少しだけざわついている。
入学式から約2週間。
それでもまだ一日の形が決まっていない時間。
誰と話すか、どこに座るか、何を考えるか。
全部が、少しだけ不安定なまま置かれている。
天津よつばは、いつも通り席に座って、本を開いていた。
文字を追っていると、周りの音が少し遠くなる。
その感覚が、好きだった。
「よつちゃん、おはよ」
不意に、現実に引き戻される。
顔を上げると、秋川あかねが立っていた。
「……おはよう」
自然に言葉が出る。
それが少しだけ、不思議だった。
「今日さ、体育あるんだよね」
あかねはそう言って、机に軽くもたれた。
距離が近い。
でも、それはもう前ほど気にならなかった。
「……うん」
「やだなー、でもまあいいか」
あかねは勝手に納得して、笑う。
その仕草を、よつばは少しだけ目で追った。

ーー▒▒▒

授業の合間。
廊下に出たとき、クラスの男子が声をかけてきた。
「天津さん、次の課題さ——」
少しだけ、距離が近い。
それだけで、息が浅くなる。
「……あ、えっと」
うまく言葉が出てこない。
体が、少しだけ後ろに引く。
「よつばっちー」
そのとき、横から声が入る。
あかねだった。
「先生呼んでたよ」
さらっと言って、よつばの腕を軽く引く。
男子から離れる。
それだけで、呼吸が戻った。
「ありがと……」
小さく言う。
「んーん」
あかねは気にした様子もなく、手を離した。
さっきと同じくらい、近い距離。
でも。
さっきとは、全然違う。
なんでだろう。
頭の中で、さっきの感覚をなぞる。
男子が近づいたとき。
あかねが近づいたとき。
同じ“近い”のはずなのに。
全然、違う。
「よつよつ、どうしたの」
「あ……なんでもない」
「ほんと?」
「……うん」
そう言いながら、よつばは少しだけ視線を逸らした。
考えたくなかった。
でも、考えてしまう。
(あかねだから、平気なだけ)
心の中で、言葉を置く。
(友達だし)
そう、ただそれだけだ。
女の子同士だから。
大して特別なことじゃない。

ーー𓂃 𓈒𓏸𑁍

昼休み。
あかねは、別のクラスメイトと話していた。
笑っている。
距離が近い。
肩が触れそうなくらい。
それを、よつばは少し離れたところから見ていた。
胸のあたりが、少しだけざわつく。
理由は、よくわからない。
ただ、落ち着かない。
(友達、だから)
また同じ言葉を繰り返す。
それで納得できるはずなのに。
うまくいかない。
「よつちゃん」
気づくと、あかねが戻ってきていた。
「ごめんね、ちょっと話してた」
「……ううん」
「ね、今日も帰り寄る?」
昨日と同じ調子で聞いてくる。
少しだけ、迷う。
でも。
「……行く」
そう答えていた。
帰り道。
隣を歩く距離が、少しだけ近い。
昨日よりも、自然に。
「ねえさ」
あかねが、ふと笑う。
「なに?」
「よつばっちってさ、静かだけど、なんか考えてるよね」
「……まあ」
「なに考えてんの?」
その質問に、少しだけ詰まる。
言えない。
言葉にできない。
「……べつに」
「そっか」
あかねはそれ以上聞かずに、前を向いた。
その優しさに、少しだけ安心する。
(これは、ただの——)
心の中で、言葉を探す。
友達。
普通。
よくあること。
どれも、しっくりこない。
でも、それ以外の言葉は。
まだ、知らない。
「よつちゃん」
名前を呼ばれる。
振り向く。
距離が近い。
心臓が、少しだけ速くなる。
(……違う)
小さく、思う。
(これは、きっと——)

第三話 多分、違う

朝、鏡の前に立つ。
前髪が、少しだけ目にかかっている。
いつも通りのはずなのに。
今日は、なんとなく気になった。
指で軽く整えてみる。
意味はない。たぶん。
すぐに手を下ろす。
そんなことをしても、何も変わらない。
……はずなのに。

ーー󾦀*。

教室に入ると、あかねがもう来ていた。
「よつちゃん、おはよ」
いつも通りの声。
「……おはよう」
席に着く。
カバンを置く。
本を出す。
その一つ一つの動作が、少しだけぎこちない気がした。
「なんか今日、ちゃんとしてる」
ふいに言われる。
「……え?」
「前髪。ちょっと違くない?」
心臓が、ほんの少し跳ねる。
「……気のせい」
そう返す。
でも、あかねは少しだけ目を細めて笑った。
「ふーん」
それ以上は何も言わない。
なのに、なぜか見透かされた気がした。

ーー.。.:*:*o

授業中。
黒板の文字を写しながら、視線が少しだけ横に流れる。
あかねが、頬杖をついている。
ペンを回している。
窓の外を見ている。
その全部を、なんとなく目で追ってしまう。
気づいて、すぐに視線を戻す。
(なにやってるんだろう)
自分で、自分に少しだけ戸惑う。

ーー𓂃 𓈒𓏸𑁍

昼休み。
また、あかねは誰かと話していた。
今日は、昨日とは違う子。
笑っている。
近い。
肩が、触れそうな距離。
その光景を見て、胸の奥がざわつく。
昨日と同じ。
でも、少しだけ強い。
(……別に)
心の中で、言葉を置く。
(普通だし)
そう思おうとする。
でも。
目が、離れない。
「よつよつ」
名前を呼ばれて、はっとする。
「あ、ごめん。待たせた?」
「……ううん」
あかねが近づいてくる。
いつも通りの距離。
慣れてたはずなのに。
なのに、少しだけ意識してしまう。
「なんかさっき、ぼーっとしてなかった?」
「……してない」
「してたって」
あかねは楽しそうに笑う。
その顔を見て、少しだけ安心する。
同時に、少しだけ苦しくなる。

ーー⟡⟡⟡⟡

帰り道。
並んで歩く。
昨日よりも、距離は自然なのに。
心臓は、少しだけうるさい。
「ねえ」
あかねが、ふとよつばの前に回り込む。
「前髪、やっぱちょっと違うよね」
逃げ場がなくなる。
「……気のせいだって」
「絶対違う」
あかねが、少しだけ顔を近づける。
距離が、ぐっと縮まる。
息が、かかりそうなくらい。
「なんで整えたの?」
軽い調子で聞かれる。
答えられない。
理由なんて、わからない。
ただ——
「……なんとなく」
それだけ言う。
あかねは少しだけ考えるような顔をして、すぐに笑った。
「そっか」
それ以上、追及しない。
でも。
その距離の近さだけが、残る。
(なんでだろう)
頭の中で、同じことを繰り返す。
あかねが近いと、落ち着かない。
でも、離れたいわけじゃない。
むしろ。
少しだけ、近くにいたいと思ってしまう。
(……違う)
小さく、否定する。
これはきっと。
ただの——
その先が、うまく言葉にならない。

ーー☽⑅ ˖°

夜。
部屋の中で、本を開く。
いつもなら、すぐに物語に入れるのに。
今日は、文字が頭に入ってこない。
ページをめくる手が、止まる。
代わりに浮かぶのは、昼の光景。
笑っているあかね。
近い距離。
呼ばれる名前。
そっと、本を閉じる。
代わりに、鏡の前に立つ。
前髪を、もう一度整える。
さっきより、少しだけ丁寧に。
(なんとなく、じゃない)
心の中で、小さく思う。
(たぶん、違う)
でも、それが何かは。
まだ、わからない。

第四話 同じじゃないと思ってた

窓が開いている。
風が入るたびに、カーテンが少しだけ揺れる。
教室の空気は、四月よりも軽くなっていた。
五月の匂いがする。
「よつちゃん」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
秋川あかねが、机の横に立っていた。
「次、体育だって」
「……うん」
体操服の入った袋を取る。
立ち上がると、少しだけ距離が近くなる。
それが当たり前みたいになっていることに、ふと気づく。
校庭は、少しだけ日差しが強い。
グラウンドに引かれた白線が、やけに明るく見える。
「今日さ、リレーらしいよ」
あかねが楽しそうに言う。
「……あんまり得意じゃない」
「大丈夫だって。よつちゃんのペースで。」
軽く笑う。
その言葉どおり、あかねは速かった。
スタートの合図と同時に走り出して、
あっという間に前に出る。
周りの声が少し大きくなる。
「秋川、速っ」
「やば、すご」
そんな声が、あちこちから聞こえる。
よつばは、その様子を少し離れたところから見ていた。
バトンを渡すとき。
あかねは、次の子に向かって笑っていた。
「いけるいける、がんばって」
軽い声。
距離が近い。
肩が触れそうなくらい。
そのまま、少しだけ背中を押す。
その動きが、やけに自然で。
(……あれ)
胸の奥が、少しだけざわつく。
あかねは、戻ってくると、よつばの隣に立った。
「ね、見た?」
息を弾ませながら笑う。
「……見てた」
「でしょ、結構いい感じじゃない?」
近い。
さっきと同じくらいの距離。
でも。
さっき見た光景が、頭から離れない。
(同じだ)
ふと、思う。
さっきの子と。
今の自分と。
距離も、声も、笑い方も。
(同じ……)
「よつよつ?」
「あ……ごめん」
呼ばれて、意識が戻る。
「ぼーっとしてた?」
「……ちょっと」
「珍し」
あかねは軽く笑って、それ以上は気にしない。
そのまま、次の競技の話をし始める。
いつも通りの調子。
なのに。
さっき見た光景だけが、引っかかる。
(別に)
心の中で、言葉を置く。
(あかねは、誰にでもああだから)
だから。
特別じゃない。
そう思おうとする。
「ねえ」
あかねが、また少し距離を詰める。
「次、一緒に出よ?」
「……うん」
自然に答える。
でも、その距離が。
さっきと同じだと思うと。
少しだけ、息が浅くなる。
(おかしい)
自分で思う。
何が、とは言えない。
ただ、少しだけ。
落ち着かない。
競技が終わって、日陰に座る。
グラウンドの熱が、まだ足に残っている。
あかねは隣で、誰かに呼ばれて立ち上がった。
「ちょっと行ってくる」
「……うん」
手を振って、離れていく。
その先には、さっきの子がいた。
楽しそうに何か話している。
距離が近い。
笑っている。
(また)
胸の奥が、ざわつく。
目を逸らす。
見たくない、と思う。
でも。
少しだけ、気になってしまう。
(別に、いいけど)
心の中で繰り返す。
(普通だし)
そう言い聞かせても。
うまく、落ち着かない。
しばらくして、あかねが戻ってくる。
「ごめん、待たせた」
「……ううん」
「なんかさ、さっきの子——」
楽しそうに話し始める。
よつばは、それを聞きながら。
ほんの少しだけ、考える。
(私だけだと思ってたわけじゃない)
そんなはず、ない。
最初から、わかってた。
(でも)
言葉が、そこで止まる。
あかねが、また笑う。
距離が近い。
いつも通り。
(同じじゃないと思ってた)
それだけのことなのに。
少しだけ。
面白くなかった。
風が吹く。
カーテンみたいに、木の葉が揺れる。
五月の空は、やけに明るかった。
でも、その明るさが。
少しだけ、まぶしく感じた。

夕方以上、夜未満

ここまで読んでくれてありがと!
感謝しかない!!
読んでくれてる人がいると思うとほんっとに嬉しくなります️(๑ˊ꒳​ˋ๑)
まだまだ下手くそですが作りだめていた小説案を消化できて嬉しい(?)
第五話は2026/04/25
までに仕上げるのでまた見てみてください。
(部活とか勉強とか忙しくて…)

夕方以上、夜未満

中学1年生の天津よつばは、隣の席の秋川あかねと出会う。 距離の近い彼女に戸惑いながらも、少しずつ一緒にいる時間が増えていく。 それがどんな気持ちなのか、まだ知らないまま。 #百合#恋愛#日常#中学生#思春期#じれったい#青春#放課後#初恋

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-04-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第一話 夕方、イヤホン半分
  2. 第二話 これって普通…?
  3. 第三話 多分、違う
  4. 第四話 同じじゃないと思ってた