霊能探偵・芥川九郎のXファイル(6)【安形クリステル編】
第1章 女子大生の失踪
霊能探偵・芥川九郎は、自分の事務所で調べ物をしていた。と言っても、分厚い風俗情報誌を一生懸命に見ているその姿は、風俗好きの男が風俗店のサービスを物色しているようにしか見えない。友人の牧田がやって来たが、芥川は彼に気付かずに風俗情報誌を読み耽っていた。牧田が芥川に声をかけた。
牧田「芥川君、これから風俗店にでも行くのかい?」
牧田は愛知県警の元警察官である。数年前に退職し、今はフリーランスとして活躍している。芥川は顔を上げ、友人に返答した。
芥川「やぁ、牧田君か。気付かなかったよ。ちょっと調べ物をしていてね。」
牧田「何か、風俗がらみの事件でもあったのかい?」
芥川「話すと長くなるんだけど・・・まぁ、牧田君にも手伝ってもらいたいから、最初から話そうか。簡潔に話すと、家出娘の捜索だよ。」
牧田「家出娘・・・風俗で働ける年齢の娘か。大学生かい?」
芥川「ご名答。その娘さん、名前はルミっていうんだ。ルミさんの母親からの依頼でね。母親が言うには、ルミさんはホストみたいな男と付き合っているらしいんだ。」
牧田「なるほど。何かのきっかけで知り合ったホストにだまされて、多額の借金を負わされて、返済のために風俗で働いている可能性がある・・・と君は推理したわけか。」
芥川「最初はそう考えたんだけど、真相は違っていたよ。」
牧田「真相・・・をもう突き止めたのかい?さすがだね。」
芥川「ここから話がややこしくなるんだ。」
第2章 名古屋の女子高生探偵
芥川は席を立ち、コーヒーを淹れた。自分と牧田の分を入れ、自分のイスに座った。芥川はコーヒーをすすりながら説明を再開した。
芥川「君は名古屋の女子高生探偵・安形クリステルを知っているかい?」
牧田「あぁ、知っているよ。もともと、名古屋ではちょっとした有名人だったんだけどね。最近、名古屋駅前で起きた3億円強奪事件を華麗に推理し、全国的に有名になったよね。彼女がどうしたんだい?今回の事件と関係があるのかな?」
芥川「その安形クリステルと、失踪した女子大生の母親が遠縁の親戚らしいんだ。話が回り回って、今回の事件を解決するために名古屋の名探偵・安形クリステルの登場というわけだ。」
牧田「そうすると、名古屋の霊能探偵・芥川と女子高生探偵・安形の対決というわけだ。」
芥川「いや、そうじゃないんだよ。ここでもう一人、別の人物のことを説明しないといけない。僕の友人に遠藤という男がいるんだけど・・・」
牧田「その遠藤という人も今回の事件の関係者かい?」
芥川「いや、違うんだ。彼は名古屋のオタク界隈では有名な人物なんだけど、彼が安形クリステルの熱烈なファンなんだ。」
牧田「君は遠藤さんとどこで知り合ったんだい?SNSのオフ会かな?」
芥川「まぁ、そんなところだよ。それで、遠藤君に今回の事件と安形クリステルご登場の話をしたら、クリステル支援班を結成すると言い出してね。」
牧田「遠藤さんが安形クリステルを支援すると言ったって、オタク界隈で有名なだけだろう?何ができるって言うんだい?」
芥川「それが実は、遠藤君は名うてのICTエンジニアなんだ。SNS上のネットワークを駆使し、ネット上のあらゆる情報を解析し、とうとうルミさんの居所を突き止めてしまったんだ。」
牧田「それはすごい人だね。じゃあ、今回の事件を解決したのは霊能探偵でも女子高生探偵でもなく、天才エンジニア・遠藤さんだ。」
第3章 真相の種明かし
冷めたコーヒーを飲みながら芥川が言った。
芥川「それが・・・遠藤君がね、今回の事件、名古屋の女子高生探偵・安形クリステルが華麗に解決したことにしたいと言うんだよ。」
牧田「なるほど、確かに話がややこしくなってきたなぁ。でも、ルミさんの居所が判明したなら、その情報を安形クリステルにそれとなく教えれば済む話じゃないか。事件はもう解決したようなもんだね。」
芥川「僕はこう見えて、責任感が強い人間だから、その前にルミさんの様子を見に行ったんだよ。彼女はホストの悪霊に操られているようなんだ。」
牧田「やっぱりホストだった・・・って、えっ?ホストの悪霊?」
芥川「昔、ホストで荒稼ぎした男がいたんだけど、不治の病に侵されて、そのまま亡くなってしまったんだ。手段を選ばずに大金を手に入れたその男は、死ぬ間際に後悔したんだろうね。このまま死んでしまうのか、金持ちになるという夢を叶えたのに・・・俺は本当の恋をしたことがない・・・」
牧田「じゃあ、ルミさんはその元ホストの悪霊に魅入られているというのが、君がたどり着いた真相かい?」
芥川「だから、遠藤君の要望に応えるためには、次のミッションをクリアしないといけないんだ。安形クリステルがルミさんに接触した瞬間に、彼女が気付かないように、ルミさんに取り憑いている悪霊を祓う・・・」
牧田「・・・それはいくら君でも、さすがに無理だろう。安形クリステルに真相を正直に話すしかないだろう。」
芥川「いや、遠藤君の期待を裏切るわけにはいかない。今後、別の事件を解決する際に、彼の技術に頼ることもあるだろう。まぁ、心配することはないよ。すでに方法は考えてあるんだ。」
第4章 芥川の霊能力:狙撃用霊丸ライフル
芥川と牧田は、ルミが住んでいるマンションから少し離れたビルの屋上にいた。
芥川「このビルの屋上への立入許可を得るのに、随分と苦労したよ。ビルのオーナー、管理会社、それに現場の防災センター責任者と話して、ようやく許可を得ることができたんだ。もっともらしい理由を捏造してね。」
牧田「今日の2時、安形クリステルがルミさんに会いに来るんだよね。」
牧田は双眼鏡でルミの居るマンションを眺めながら芥川に聞いた。
芥川「そうそう。ここからだと、ルミさんの部屋の前がよく見えるんだ。」
芥川は狙撃用霊丸ライフルの準備をしながら牧田に答えた。
牧田「そのライフルで狙撃するんだね。」
芥川「うん、初めて使用するから、うまくいくかどうか。ちょっと心配なんだけどね。」
しばらくすると、安形クリステルがルミの部屋の前まで歩いてきた。
牧田「芥川君、安形クリステルが来たよ。」
インターホンを押したらしく、ルミの部屋の扉が開いた。牧田は双眼鏡で彼女たちの様子を眺めながら言った。
牧田「ルミさんが出てきたよ。でも、ここからだと、安形クリステルの体が邪魔で撃てないよ。どうするんだい?」
芥川「問題ないさ。」
芥川は狙いを定め、ライフルのトリガーを引いた。霊丸は安形クリステルの体を貫通し、その前にいるルミの体に命中した。
牧田「安形クリステルの体を貫通したけど、大丈夫なのかい?」
芥川「うん、除霊成功だよ。簡単に説明すると、このライフルはね、霊丸の威力を絶妙に調整できるように設計したんだよ。今回の場合、ルミさんの体に取り憑いている悪霊にだけダメージを与えるよう調整したんだ。」
牧田「よくそんなものを作れるね。すごいなぁ。」
芥川「ハハハッ。ありがとう。祝杯は帰ってから上げよう。さぁ、さっさと撤収しよう・・・」
そう言いかけて、芥川は絶句した。安形クリステルがこちらを向き、勝気な瞳で芥川をにらみつけている。
芥川「いや、いくらなんでも・・・見えるはずがないんだけど・・・」
牧田「どうしたんだい、芥川君?」
芥川「いや、何でもないよ。行こうか、牧田君。ビルの防災センター責任者にあいさつして帰ろう。」
そう言う芥川の脳裏には、安形クリステルの端正な顔立ち、特にあの勝気な瞳が焼き付いて払えないのだった。
霊能探偵・芥川九郎のXファイル(6)【安形クリステル編】