無のうさんくささ

無はうさんくさい
神妙な面持ちで無とか言いたくない
否定は肯定を前提にしないと成り立たない
無は上位概念だ
あらゆる前提を削ぎ落しても無には行きつかない
意識的な努力の結果たどりつくものなのだろう
絶対無はありえないと思う
だったら死ねば無になるとはなんなのか
人間の思考の怠慢なのではないか
しかしこんな御託をならべても死は怖いのだ




無と死

無はうさんくさい
死ぬのは怖い
無と死はまったく別の話
なのにこの二つを結びつけてしまった
強く結びつけてしまった
死を絶対化する貧しい理屈が好きではなかった
それでも死が近づいたら人一倍怯えているだろう
苦しいね




また形

絵画の中で線と色がせめぎあうように
人の視界の中で形と色がせめぎあう
形と色の争いはずっと続いてきたらしい
でもそれは本当なのだろうか
形は徐々に作られてきたのかもしれない
まったく形がない世界はありえないけれど
半ば人間が作りあげた感覚のようにも思える
眼と皮膚が出会うところに形はある
指を器用に動かせるほどに
形は人間の前に露わになっていったのかもしれない




久石譲の音楽

ささくれた心に優しい音色が響く
苦しみは続いていく
情緒的でいい
乾いた世界はつらい
この国から普遍的なものは生まれなかった
自然の景色が美しすぎたのがよくなかった
草木に囲まれた世界には
瑞々しい音楽がよく似合う




ティナのテーマ

私も他の人間も
周囲の机も椅子もはさみもゴミ箱も
猫も電車も雲も杉の木も
すべては宇宙からやってきたらしい
遠い宇宙からやってきてまた宇宙へ帰っていく
どうして私はここにいるのか
ずっとテレビの前に張り付いていた
あの経験はなんだったのだろう
映像と音楽に浸かったままで
言葉から遠く離れていた
どうでもいい経験かもしれないけれど
いったいなんだったのか気になる




二元論

いつまでも二元論にこだわってしまう
ずっと二つの勢力が争い合っている
それが人間の歴史のような気もする
そんなのはゾロアスターから言われていることだ
その世界観の方が単純でよかったのではないか
しかしおかしなことが起こった
罪人が神の使いになってしまった
人間は倒錯が好きなのだが
これほどの倒錯が他にあったのだろうか




受動的に

人が作りあげた普遍的な感覚と
人が自然から備わった普遍的な感覚がある
能動的に見ると両者は対立する
だから受動的に見るようにする
自分の身体と自然が重なるように
外界と内界が溶け合うように




まわる

声をかけることができないから
こうしてただ文章を書いている
どこまでも臆病なだけだった
こうして自分は死んでいくのだろうか
また安い演技をしているね
そうやって自分を仕組もうとしているね
素直という虚構
偽装という虚構




勝手な祈り

あなたの痛みが和らぎますように
あなたの苦しみが癒えていきますように
生きていてほしいという傲慢な感情
いろいろ御託を並べても独り
それでも人とのつながりを信じてもいいだろう
明日は人に優しくできますように
人の苦しみに思いを馳せられますように

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-04-11

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